世界1位獲得!ヒュー・ジャックマン主演『ひつじ探偵団』爆発的ヒットの裏側…大人が泣ける”ひつじミステリー”の全貌とアマゾンが仕掛けたSNS相乗効果による最先端の配信ビジネス

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「ひつじの映画」が話題沸騰中

今、ひつじがアツい。といっても動物園や羊毛、ジンギスカン関連ではなく、ひつじが大活躍する映画『ひつじ探偵団』が話題沸騰中なのだ。

5月8日、日米同時に劇場公開され、6月24日に配信がスタートするやいなや、Amazonプライム・ビデオのグローバル映画ランキングで第1位を獲得した本作。このコラムではなぜ『ひつじ探偵団』が多くの人の心を掴んだのか、その理由を解説していきたい。

まず簡単にストーリーや概要をまとめると、イギリスの片田舎で羊飼いとして暮らすジョージ(ヒュー・ジャックマン)が何者かに殺される。そこで彼を慕っていたひつじたちがトボけた警官にヒントを与え、ライバル羊飼いや牧師、ホテル経営者など村の住人たちや、現地にやってきた関係者の中から犯人を見つけ出そうとするのだが、ジョージには意外な過去と多額の財産がありーー。

監督は『ミニオンズ』でヒットを飛ばしたカイル・バルダ、脚本は社会派テレビドラマ『チェルノブイリ』を手掛けたグレイグ・メイジン。キャストには『ウルヴァリン』『レ・ミゼラブル』主演のハリウッドスター、ヒュー・ジャックマンに加え、アカデミー主演女優賞受賞経験もあるエマ・トンプソンなどが名を連ねる。

と、ここまでは至って普通の内容で、なぜこの映画がAmazonプライム・ビデオの配信で世界第1位を獲得したのか首をひねる人も多いかもしれない。ここからはその“秘密”を紐解いていこう。

ひつじのリアル感と豪華吹き替え声優

『ひつじ探偵団』を語るうえで絶対に外せないのが、当然ひつじたちの存在だ。ひつじ、と一口にいっても全頭が同じではなく、そのビジュアルも個性も千差万別。さらに画面に映るひつじたちの超絶リアルなもふもふ感や動作、表情などは生成AIで作られたものではなく、世界最高峰のVFXスタジオ「フレームストア」のアニメーターたちがすべて手作業で生み出したもの。また、実際に映像を見るとひつじたちと対峙する俳優の演技がとても自然に映るのだが、これはプロの操演者が「パペット」と呼ばれるひつじの人形を操作し撮影に参加していたから。完成版ではCGで上書きされるとはいえ、ヒュー・ジャックマンら現場の俳優は、目の前のひつじ相手にリアルな芝居ができる環境にあったということだ。

日本公開版でひつじたちの吹き替え声優を務めたメンバーも豪華。誰より賢くひつじたちをリードするリリーには“永遠の17歳”井上喜久子、孤高の存在・セバスチャンに“空飛ぶ声優”千葉繁、荒くれ者の双子ひつじ・ロニー&レジ―には“長袖をください”の津田篤宏(ダイアン)を起用するなど、実力も話題性も兼ね備えたキャストが魅力的に声をあてている。

本格ミステリー要素と社会性

イギリスの名探偵といえば真っ先にシャーロック・ホームズが思い浮かぶが、本作のひつじたちも負けてはいない。ジョージが毎晩彼らにミステリー小説を読み聞かせていたおかげで、ミステリーの定石や犯人が意外な人物であることを熟知しているひつじたちは、警官が気付かないさまざまな犯行のヒントを提示し事件を解決へと導く。ここで面白いのが「ひつじは人間の言葉を完璧に理解するが、人間はひつじが何を言っているのかわからない」というギミックだ。

また、社会派テレビドラマシリーズ『チェルノブイリ』のグレイグ・メイジンが脚本を担当したことにより、単純にもふもふを愛でる映画や犯人探しのミステリーにとどまっていないのも本作の特徴。「ネガティブなことは3つ数えて忘れる」ひつじたちの習性や、群れを大事にしながら「冬生まれのひつじ」を仲間外れにする彼らの言動は、理不尽な社会情勢を直視せず楽な方に流れたり、マイノリティを排除する人間社会へのカウンターにもなっている。

Amazonプライム・ビデオが仕掛けた作戦とハイ・コンセプト効果

映画『ひつじ探偵団』は劇場公開から1か月半後と爆速で配信がスタート。さらにAmazonプライムの有料会員であれば、追加料金が発生することなく同作を視聴することができる。劇場公開から半年〜1年後になることも多い映画作品の配信がなぜこんなにも早かったかというと、配給等にAmazon MGMスタジオが入っているから。つまりAmazon社は劇場公開時の熱が冷めないうちに自社のプラットホームで独占配信をスタートさせ、映画館で観た層と配信で観た層両方の熱の相乗効果を狙ったわけだ。

また、「ひつじがたくさん登場する子ども向けのファンタージ―映画かと思ったら大人にも刺さる哲学的ミステリーだった」「イギリスの田舎の風景や色彩が美しくおしゃれ」「不覚にも号泣した」など『ひつじ探偵団』のクオリティの高さを大勢の人に知らせたいと感じた鑑賞者も多く、これがSNSでの口コミ増加とバズにも繋がった。鑑賞前の期待値がさほど高くなかった分、より「この作品の素晴らしさを誰かに伝えたい」と強いエネルギーに動かされ感想をアップした人が世界中に多数いたということだろう。

この流れで強みとして表出したのが『ひつじ探偵団』が「ハイ・コンセプト」作品であったこと。エンターテインメントにおける「ハイ・コンセプト」とは、「アイディアにインパクがあり、内容がひとことで伝わる」ことを差すが、同作においては「飼い主を殺されたひつじたちが探偵となって真犯人を探し出す」との一文がこれにあたる。誰かに「どんな映画?」と聞かれたさいも非常にシンプルかつ的確に作品の内容を伝えることができるわけだ。

じつは、Amazon社が配給や製作に携わった映画の劇場公開から間をあけず、自社プラットフォームでの独占配信で相乗効果を狙ったのは『ひつじ探偵団』だけではない。3月20日に日米同時公開され、7月3日よりAmazonプライム・ビデオでの配信がスタートした『プロジェクト・ヘイル・メアリー』もこのパターンにあたる。劇場公開時に映画館に足を運ぶには至らなかった層が「自宅で鑑賞できるならSNSでも話題の映画を観たい」とAmazonプライムに入会したり、配信で視聴した層が「やっぱり大画面で体験したい」と映画館に足を運んだ事例も多数あることから、収益面を鑑みても、今後この流れは増えていきそうだ。

そして、『ひつじ探偵団』を未見の人は騙されたと思って(?)ぜひ“ひつじマジック”を体験して欲しい。ひつじたちのもふもふ感に癒され、ミステリー要素にドキドキし、イギリスの片田舎の美しい風景にワクワクして、全編を観終わった後は少しだけ優しい気持ちになって、そのエモーションを必ず誰かに伝えたくなるはずだから。

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