膝のあざまで可愛さに変える−−Next☆Rico雛瀬ひいな 「立ち上がる」数秒に込めた6年目の研究
9人組アイドルグループ「Next☆Rico」が30日に2ndシングル「TickTack」をリリース。これを記念して、雛瀬ひいながスポニチ東京本社でソロインタビューに臨んだ。新曲は爽やかな王道感を持ちながら、グループらしい不思議な色も残す一曲。初の“座り始まり”の振り付けでは、膝にあざをつくりながらも、可愛く見える立ち上がり方を探した。3部作の第1部では、新曲の振り付けに込めた工夫を中心に、ステージの一瞬を支える見えない研究に迫る。(「推し面」取材班)
最初にタイトルを見た時、浮かんだのは動画アプリの「TikTokみたいだな」という率直な印象だった。
「チクタク」という響きには、小さい頃によく使っていた可愛らしい言葉の手触りもあったという。人目を引く見た目と、幼い日の記憶をくすぐる音。その両方が、曲への入口になった。 デモを聴くと、爽やかな王道感に包まれた。不思議な癖を持つ楽曲が多いNext☆Ricoの中で、新曲は明るく、青春の匂いがする。ただ、まっすぐなだけではなくグループらしい少し不思議な色も残っている。
「来たなと思いました」
短く落ちた言葉には、新しい扉の前に立つ時の、少し弾む息があった。そして、その新しい扉を開けるパフォーマンスとして用意されたのが、グループ初の演出だった。
床に座ったまま、音を待つ。
「TickTack」の始まりにあるのは、立って構えるアイドルの姿ではない。膝を折り、身体を低くして、次の一拍を待つ時間である。客席から見れば、それはきっと一瞬の可愛らしい導入に映る。曲が始まると、そこから「立ち上がる」のだ。
ただそれだけなら簡単に聞こえるが、ステージ上では、立ち上がり方ひとつで印象が変わる。手をつくのか。重心をどこへ逃がすのか。膝の角度をどう見せるのか。可愛く見える一瞬には、細かな工夫が詰まっている。
最初は手を使わずに立ち上がっていた。すると、座っているメンバーたちの膝に同じようなあざができた。 「膝はもう青く赤くなってます。みんな全く同じところにあざができていて」 その言葉に、大げさな苦労話の響きはなかった。むしろ、あとから理由が分かって笑うような軽さがあった。
しかし、同じ場所に残った青紫の跡は、偶然ではない。楽曲の冒頭数秒を可愛く見せるために、メンバーが床へ身体を預け、何度も立ち上がった跡である。
「これは大変だと思って研究をして、ダンスの先生とも相談して」
“研究”という言葉が、6年目の表現者らしさをよく表している。感覚だけに任せない。痛みをただ我慢するのでもない。可愛く、なおかつ身体を痛めずに立ち上がる方法を探す。膝の位置、足裏の踏み方、上半身の浮かせ方。ステージの光を浴びる前に、レッスン場の床の上で、いくつもの失敗が重なった。 可愛さは、柔らかい言葉で語られることが多い。しかし、その裏側にあるのは、案外、硬い床の感触である。
だからこそ「見てほしい」のは、その最初の立ち上がり。 「思い出も詰まっているし、可愛く研究しているポイントなので」 。まだ研究途中、と語尾を少し下げる。完成を言い切らないところに、表現者としての現在地がある。あざがあるから尊い、という単純な話ではない。その痛みを次の工夫へ変えるから、舞台上の一秒が磨かれていく。
サビでは大きな振り付けが続く。6年目の表現者は、ジャンプの仕方にも意識を向けている。
「ちょっとでも可愛く見える角度でジャンプしたいなというのは、振り入れの時から気をつけていたりとか」
身長1メートル54の小柄な身体は、ステージ上では時に不利に見える。新メンバーには背の高いメンバーも多く、いつの間にか下から数えた方が早くなったという。そこで縮こまらない。腕を大きく広げ、跳ぶ角度を探し、身体の線を少しでも遠くへ伸ばす。
「ちょっとでも大きく見えるように頑張ってます」
その一言の中に、舞台上で埋もれまいとする静かな工夫がある。「誰よりも大きく?」と問うと「気持ちは、そうです」と返した間は短かった。短かったが、そこには言葉以上の熱が残る。背の高さは選べない。それでも、見せ方は選べる。身体の条件を言い訳にせず、角度と勢いと研究で、光の中の輪郭を変えていく。
「TickTack」は、ワクワクする響きの曲である。青春らしく、明るく、耳に残る。だが、その明るさは、何も知らないまぶしさではない。膝に残ったあざ、レッスン場で交わした相談、少しでも可愛く見える角度を探す視線。それらが一つずつ積まれて、ステージ上の軽やかさになっている。
曲が始まる。
床に近い場所で、その膝が次のビートを待つ。やがて身体が立ち上がる。その数秒に痛みは映らない。映るのは、可愛さだけでいい。しかし、その可愛さがどこから来たのかを知った時、「TickTack」の針の音は少しだけ深く聞こえる。
今日もどこかで、誰かが見えない場所で膝をつき、明日のために立ち上がる。雛瀬の「TickTack」は、その一瞬を光の中で肯定している。

