高市早苗・首相“中傷動画問題”の本質とは(時事通信フォト)

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 政治記者・解説者として鋭い言論を展開する今野忍氏による連載「これ、誰も言わないんですけどね」。第3回は、高市早苗事務所をめぐる中傷動画問題について──。

【写真】元朝日新聞記者・今野忍氏

高市首相「中傷動画問題」の"本丸"

 高市早苗・首相の事務所をめぐる中傷動画問題で永田町がざわついている。高市陣営が対立候補をけなすショート動画を作成し、拡散されたとされ、国会でも議論が続く。

 だが、野党も大手メディアも動画の本数や音声に夢中で、肝心の本質が素通りされてはいないか。

 順番をたどれば、今年2月まで遡る。総理の名を冠した暗号資産「サナエトークン」が発行され、高騰した。ところが総理が「全く存じ上げない」と否定すると暴落し、金融庁が無登録営業の疑いで動き出す。仕掛けたのは、IT会社neu(ニュー)代表の松井健氏だ。

 4月、松井氏は週刊文春に実名で登場し、「高市陣営に頼まれて中傷動画を作った」と告発。共同通信も追随し、国会へと広がったのだ。

 ここで立ち止まりたい。松井氏とは何者なのか。週刊現代によれば、彼が語る「麻生グループ中核企業勤務」の経歴は虚偽の疑いがある。投資トラブルも取り沙汰され、戦略家バノンに憧れ「世論操作にたけた存在になりたい」と公言する。要は「曰く付きの男」である。

 問題はここからだ。そんな人物の言い分を、両社はろくに裏取りせず垂れ流した。勤務先とされた会社に在籍確認もしなかったと現代は報じる。挙げ句、提供動画の撮影時期に矛盾が出て、週刊文春は動画の公開停止と本文の修正、共同通信は動画から切り出した写真の削除と記事の一部修正に追い込まれた。2社の危機管理は甘すぎる。

 この曰く付きの男と接点を持った高市事務所も無傷ではない。2つの問題で窓口となった木下剛志秘書は、地元奈良県の高市事務所を所長として取り仕切る人物で、高市氏の信頼も厚い。その木下氏が現代の取材に松井氏との接点を文書で認めた。にもかかわらず、総理は「面識はない」「接点もない」と国会で否定し、後に答弁を修正。事務所の危機管理もお粗末だ。

 つまり、たった一人の男に文春も共同も高市事務所も振り回された。

 そもそも松井氏は1日に100〜200本の中傷動画を作ったと言うが、裏づける物証は未だ出てこない。語っているのは、ほぼ本人だけだ。

 選挙ドットコムの試算では、その本数が事実なら、総裁選と衆院選の関連動画の10分の1ほどを彼が作った計算になる。選挙後にアカウントを消したとしても、痕跡もなく消えるのは妙だ。

 では、本丸はどこか。関係者に取材を進めると、こんな構図だ。松井氏の狙いは、中傷動画で高市事務所の信頼を得て、その看板でトークンを売り、ひと儲けする。それが本当の絵図だったのではないか。現に彼は、玉木雄一郎・国民民主党代表にも接近し、「タマキトークン」を持ちかけたとされる。

 国会で野党は言わないが、中傷動画は入り口にすぎない。本丸はサナエトークンだったのだ。

【プロフィール】今野忍(こんの・しのぶ)/1975年、神奈川県出身。外資系コンサルを経て、2003年に朝日新聞社に入社。約20年間にわたり政治部に所属し、菅義偉元首相、岸田文雄元首相の番記者などを務めた。2026年1月に独立。現在は、フリーの政治記者・解説者として活動している。

※週刊ポスト2026年7月10日号