もう政権がもたない…「石破首相、現金給付で票を買う」モラルハザードリスク!自公過半数割れなら「衆院選後、退陣へ」

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 石破茂政権が発足した。そして早速解散に打って出た。なぜこのタイミングか。支持率が落ち始める前かつ野党が準備できない今しかないという極めて姑息な古い自民党的政治力学が推察される。一方で次の政権に向けた動きもみられる。日本はこれからどこへ向かうのか。元プレジデント編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。

関連諸国から失笑を買う状況に陥っている石破茂

 10月27日の衆院選まで、今日10月15日から数えてあと13日となった。就任以来、言行不一致で知られる石破茂首相だが、自民党が過半数を割った場合には首相として居続ける可能性がある。しかし、自公連立で過半数を割ると、石破首相は総辞職に追い込まれる可能性が非常に高い。現在の選挙情勢では、自民党単独で過半数を維持することが難しいと伝えられており、総辞職の可能性が現実味を帯びてきている。この状況下で、有権者がどのような判断を下すかが最大の焦点となっている。

 石破首相は、衆院選の見通しに関し「非常に厳しいことは認識している。何とか全力を尽くし、自民、公明で過半数をいただければありがたい」(10月14日)と述べた。しかし、ここまで自らが総裁選で掲げてきた主張を次々と撤回していく政治家は近年では珍しいと言わざるを得ない。総裁選中に提唱した日米地位協定の改定や「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」構想は、すでに事実上封印されている。さらに、前向きだったはずの選択的夫婦別姓や富裕層への課税強化についても、その姿勢は明らかに消極的となっている。

 特に、かつて得意げに語っていた「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」構想に至っては、関連諸国から失笑を買う状況に陥っている。かつては迷走する民主党政権を叱責していた石破首相だが、今回は自らが得意としてきた分野で主要政策を放棄せざるを得ない事態に直面している。残されたのは、低所得者層への給付金や地方交付金というバラマキ政策、そして、効果が極めて限定的で、予算を積むことが目的化するのが自明な防災庁の設置にすぎない。

モラルハザードリスクを生む「選挙前の低所得者層への給付を公約」

 選挙前に政治家が低所得者層への給付を公約に掲げることは、モラルハザードのリスクを生む。低所得者層に向けた条件付き現金給付(CCT)は、短期的には貧困層を支援し、彼らの生活を改善する効果がある。しかし、選挙前にこのような給付を行うことや、それを公約に掲げることは、政治的な意図で利用される危険性が高い。コロンビアの「Familias en Acción(FA)」プログラムの研究によると、この給付制度を通じて投票率が1.6~2.5%上昇し、特に与党候補への支持が約1.5%増加したことが確認されている。つまり、低所得者層に対する現金給付が、彼らの投票行動に直接的な影響を与え、与党の支持を強化する結果をもたらすということだ。

 政治家が給付を選挙公約に掲げる行為は、政策の公平性を損なう可能性がある。この行動は、政治家が自らの当選を目的として、有権者を「買収」する手段として機能する恐れがある。結果として、有権者は短期的な利益に誘導され、実際に長期的な国益や社会全体の利益を考慮した投票が行われなくなる危険性が高まる。これが、モラルハザードを引き起こす主な要因である。

 さらに、給付を受けた有権者は、その恩恵を失うことを恐れ、与党に依存する傾向が強まる。この依存関係は、受給者が与党の政策に批判的であっても、給付を失うリスクを避けるために与党を支持し続ける原因となる。これは、民主的な選挙の本来の機能である「国民の意思を反映する」という原則を著しく弱体化させることになりかねない。

 結論として、政治家が選挙前に低所得者層への給付を公約に掲げることは、短期的な支持を得るための戦略としては有効かもしれないが、長期的には選挙の公正さや民主主義の根幹を損なうリスクが非常に高い。このため、給付政策は選挙の直前に行われるべきではなく、選挙とは無関係に計画的に運営されるべきである。カネで票を買うような行為は、民主主義において決して容認されるべきではない。石破首相による低所得者への給付発表に対し、彼の強いポリシーや信念を感じた有権者は多くなかったのではないだろうか。

『地域間再分配と地域格差: 平等化はどのように機能するか』(2009年)という論文は、1982年から2000年にかけてのOECD諸国のデータを用いて、政府が財政を通じて地域間の格差を縮小させようとする「均衡交付金」が本当に効果を持つのかを検証している。この論文では、日本の地方交付金制度のような取り組みが、実際に地域格差の是正に寄与しているかを分析している。

地域間の財政再分配は、かえって地域格差を拡大させる傾向

 結果として、非常に興味深い逆説的な結論が導かれた。地域間の財政再分配は、かえって地域格差を拡大させる傾向があることが判明したのだ。均衡交付金は貧困地域を支援するために設計されているにもかかわらず、その効果は期待とは逆に、地域間の移住を抑制し、結果として地域間の収束を阻害してしまう。すなわち、既存の格差が固定化され、地方創生が意図した効果を発揮できない状況が生まれている。

 地方創生政策がなぜ逆効果をもたらすのかを理解するためには、まず「移住」という概念を押さえておく必要がある。移住とは、住む場所を変えることであり、例えば仕事を求めて東京に移ることも含まれる。この移住によって、豊かな地域と貧しい地域の間で経済的なバランスが取れる場合がある。具体的には、貧しい地域の住民が豊かな地域に移住すれば、その地域の人口が減り、残された人々の生活水準が向上することが期待される。また、経済的に発展した地域への移住は、移住先の労働市場を調整し、結果として地域格差が自然と縮小することもある。

 しかし、地方創生による過疎地域への投資は、経済成長が期待できない地域においても住民に「引っ越す必要がなくなった」という認識を与え、移住を止めてしまう傾向を生む。これにより、豊かな地域では労働者が増えて賃金が低下し、貧しい地域では人口が減らず、残った住民の収入も変わらないという自然な経済的収束が阻まれるのである。結果として、地域間の格差は固定化され、地方創生政策が逆に格差を拡大するという逆効果が生じる。

地方創生政策が逆効果を生むもう一つの理由

 さらに、地方創生政策が逆効果を生むもう一つの理由として、「依存」が挙げられる。貧しい地域が地方交付金に依存しすぎると、地域の住民は「政府からの支援があるから、自分たちで新しい産業を興す必要はない」と考えるようになるリスクがある。このような依存が進むと、地域経済の成長は停滞し、現状維持のままになってしまう危険がある。地方創生が目指す「自立した地域づくり」とは全く逆の結果を招いてしまうのだ。

 そんな「結末」が分かりきった、この地方創生に対して、石破首相はこんな発言をしている。

<石破首相は「地域が自主性と責任を持って、おのおのの知恵と情熱を生かし、小さな村も大きな町もこぞって地域づくりを自ら考え、自ら実践していく」という故竹下登元首相の言葉を引用。「地方こそ成長の主役」と位置付け、広く知恵を出し合い、地域の可能性を最大限に引き出すため「地方創生の交付金を当初予算ベースで倍増することを目指す」と意気込んだ。>(10月5日山陰新聞)

極まて自民党的、その効果が問われることのない「やりっぱなし」の政治

 最後は、「防災庁」の設立である。これも自民党政治を象徴する政策の一つと言えるだろう。最近では、「子ども家庭庁」を新設し、莫大な予算を投じて異次元の少子化対策を実施に移した。しかし、学識経験者の間では、子育て支援が少子化を改善する効果が限定的であることは広く知られており、政府関係者からも懸念の声が上がっていた。それにもかかわらず、少子化は改善されることなく、結果的に子育て支援にかこつけた大増税だけが国民に課せられることとなった。

 対策が取られる一方で、その効果が問われることのない「やりっぱなし」の政治こそが、自民党政治の特徴である。国民には、対策が講じられたと大々的に宣伝されるが、その対策が実際に効果を上げたかどうかは、有耶無耶にされがちだ。防災庁も同じ運命をたどる可能性が高い。現在でも災害発生時に対応するための機能はすでに整備されており、新たに組織を作る必要性は薄い。例えば、諸外国では、ドローンを使った災害対策が当たり前に行われ、多くの人命を救い、被災者支援にも効果を上げている。しかし、日本では、自衛隊ヘリが飛べる地域でかつ携帯電話の電波が回復していない限り、ドローンが活用されないという不合理な規制が存在している。このような規制は、総務省が対応すべき問題であり、防災庁がいくら主張しても実効性は期待できないのだ。

 ドローンの例を挙げたが、このような事例は一例に過ぎない。防災庁の設立は、結局のところ政府の無駄な支出を増やすだけに終わる可能性が高い。総裁選前に数々の「思いつき」を発言していた石破首相だが、最終的には多くを撤回し、残された政策も日本社会の発展には寄与しないものばかりである。選挙結果がどうなろうと、石破政権に大きな期待を寄せることは控えた方が賢明だ。むしろ、少数与党に転落し、より現実的で効果的な政策が実行される環境が整う方が良いのではないだろうか。