海外というと日本のような安心や便利さがないというイメージを持つ人もいるだろう。この点も決して日本に引けを取らない

ドバイでは街中にカメラがたくさんあって治安が保たれています。また買い物などは全部デリバリーで運んでもらうこともできます。もちろん慣れれば自分で車を運転してどこにでも行くこともできます」(佐川浩二氏)

◆「OMAKASE」コースは一人5万円以上だが…

ここまで環境面での魅力を中心に海外での寿司職人を見てきたが、仕事そのものの魅力ややりがいもあるのだと佐川氏は話す。

「接客を通して色々な国の人、特にレベルの高い話が聞ける点は非常におもしろい点だと思っています。日本と比べてゼロが二桁、三桁違う富裕層がお店を訪れて、私の握った寿司を食べてくれます」(佐川浩二氏)

ドバイは人口約300万人のうち8割から9割が外国人といわれており、世界中からセレブやビジネスのエリートが集結している。世界レベルのVIPに出会うというのも日本にいてはなかなかできない経験だろう。

いいこと尽くしのように思われる出稼ぎでの寿司職人。だが、移住によるデメリットも存在する。

前出の宮脇氏はこう語る。

「まず、気候や食事がなじまないという理由で帰国してしまう人も少なからず存在します。ドバイの市街地は中東料理のレストランが多いため、口に合わない方は無理でしょう。また砂漠の多い地形なので夏の暑さに耐えられないという日本人もいます。加えて、家族で移住するならば問題ないですが、独り身で移住すると休日は友人がおらず、高待遇でも孤独感を感じて帰国してしまう人もいるので、移住するならば家族がいる方がおすすめですね」

だが、今後宮脇氏によるとも出稼ぎの増加は続くと予測している。

特に人気なのが「OMAKASE」というコース料理として寿司を提供するスタイルだという。当然この形式は高価で、最低でも一人5万円以上はする。それでも、こういった高級な寿司屋に多くの富裕層が通い詰めている。

◆40歳を超えてからでも遅くない

では、どのようにすれば海外で寿司職人として働くことができるのだろうか。

「最近では寿司職人の転職エージェントがいて、その方を経由して応募するケースも出ています。ドバイの料理人の年収相場はヘッドシェフとサブシェフで違いますが、いずれも日本で働く場合の最低2倍はもらえます」(宮脇咲氏)

現在国内で寿司職人として働いている人にとっては非常に魅力的なオファーであることは間違いないが、実はセカンドキャリアでも十分にチャンスがある。

「40歳を過ぎてからでも寿司職人になることは可能です。日本国内では経験年数が物をいう世界ですが、海外に出ればすしアカデミーで数か月学んだだけであっても、十分寿司職人として働くことができます」(宮脇咲氏)

寿司の本場である日本では、オートメーション化されつつある回転寿司が飽和状態に。一方で血の通った職人たちが国外に居場所を求めていくのは寂しくも感じるが、実際日本よりも稼げてしまうのだからどうしようもない。この流れは変えようがないだろう。
 
<取材・文/日刊SPA!取材班>