【河合 雅司】コロナで東京都を離れる人が急増した「2つの理由」

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人口減少日本で何が起こるのか――。意外なことに、多くの人がこの問題について、本当の意味で理解していない。そして、どう変わればいいのか、明確な答えを持っていない。

100万部突破の『未来の年表』シリーズの『未来のドリル』は、コロナ禍が加速させた日本の少子化の実態をありありと描き出している。この国の「社会の老化」はこんなにも進んでいた……。

※本記事は『未来のドリル』から抜粋・編集したものです。また、本書は2021年に上梓された本であり、示されているデータは当時のものです。

都心へのアクセスが良い多摩地区東部は人口増加

東京都を出ていった人はどこに移り住んだのだろうか?

2020年の東京都からの転出者は、40万1805人と全国トップであった。転出者の行き先としては、埼玉県へ7万4659人、神奈川県へ9万1669人、千葉県へ5万6186人である。

多くの人は「地方回帰」ではなく、東京圏の中で引っ越していたのだ。ちなみに、東京都に対して埼玉県は1万1431人、神奈川県6874人、千葉県4539人の転入超過となっている。

東京都内でも郊外へと引っ越す動きが見られる。東京都統計部の資料を見ると、2020年を通じての地域別人口増減は三鷹市や調布市、立川市など、都心へのアクセスが良い多摩地区東部の自治体では軒並み人口増加となった。

12月における都内間移動を見ると、区部が3079人のマイナスだったのに対し、多摩地区を中心とする市町村部は647人のプラスであった。

では、どういう年齢の人が動いているのだろうか?

「住民基本台帳移動報告」の2020年度で5歳階級別をみると、10代後半と20代前半・後半の東京都への転入超過が続いていた。だがその超過幅は前年と比べて縮少。とりわけ25〜29歳は2019年度の2万2035人から8567人へ激減した。

大きく行動パターンが変わったのが30〜34歳である。前年度は3913人の転入超過だったが、2020年度は8973人の転出超過へと百八十度の大転換となったのだ。一方、0〜4歳および30代後半以降は2019年度において転出超過であったが、転出超過数の幅が拡大したのである。

進学や就職で東京都への引っ越しを予定していたのに、コロナ禍で来られなくなった20代以下の若者が大幅に増えた一方で、30代夫婦を中心に、隣接3県などに新居を求める人が増えたという2つの理由が重なったということであろう。

ペアローンは破綻リスクが大きい

東京都を離れる人が大幅に増えた要因は大きく2つある。

1つはテレワークによる在宅勤務やオンライン授業の普及だ。これまで、大都市圏では通勤を前提としてオフィスまでの利便性を重視する住まい選びをする人が多かったが、その必要がなくなった人が増えた。

テレワークが普及したのだから、東京圏を離れて「地方」へと転居してもよさそうだが、そうはいかない事情がある。現在、テレワークは過渡期にあり、多くの企業は通勤と在宅のハイブリッド型勤務としている。月に何度かの出勤日や、子供の進学先選びを考えると、思い切って故郷にUターンすることなどは難しいのだ。

30代以上となれば、結婚や出産で家族の人数が増え、広いスペースの物件への転居を考える人が増える。子育てや年老いた親の将来的な世話を考えて、ゆとりある環境へのニーズも大きくなる。

しかも、夫婦がともにテレワークで、子供もオンライン授業となれば、それぞれの仕事部屋が必要になる。郊外ならば部屋数の多い物件を手ごろな価格帯で入手しやすく、密集も避けやすいので感染リスクも軽減できる。住環境と都心のオフィス街への利便性の双方を重視した結果、テレワークと通勤の両立を図れるエリアを選ぶ人が多いのだろう。

もう1つの要因は、コロナ禍の影響で収入が減少した人々が、住宅コストの高い都心部や駅前といった交通の利便性が高いエリアに住んでいられなくなったことである。飲食業では時間短縮営業の影響で給与が半減したという極端なケースもある。これでは家賃や住宅ローンの返済計画を一から見直さざるを得ない。収入が減って転居せざるを得なかった人の中には、テレワークに向かない仕事をしている人もいるため、東京圏を遠く離れるわけにはいかないという事情の人も少なくない。

共働き世帯の増加に伴い、夫婦などの収入を合算した「ペアローン」を組んで住宅資金を借り入れる世帯が増えている。夫婦のどちらかだけがローンを組むだけでは入手困難な、都心のマンションなどを購入できるとあって人気を呼んでいるのだ。

しかも、晩婚化が進んでいるため、定年退職までに完済しようとして、1ヵ月当たりの返済額を精一杯大きくしている人もいる。

一般的に、返済の余裕度合いを測る「返済負担率」(年収に占める年間返済額の割合)が30%を超えると余裕がなくなるとされる。住宅金融支援機構の「フラット35利用者調査」(2020年)によれば、2019年の総返済負担率が「30%以上」という人は10・2%だ。

10人に1人は収入減をきっかけにローン破綻する"綱渡り"の返済計画を立てているということであり、ペアローンを組んでいる人もこの数字に含まれるだろう。

そんな中でのコロナ不況で、想定外の給与カットやボーナス削減に遭った人は少なくない。ペアローンの場合、夫婦の両方どころか、どちらか一方でも収入が減ったなら、たちまち破綻する。2人が連帯しているぶん、破綻リスクも2倍となる。

もちろん、ペアローンに限らずコロナ不況でローンの返済が難しくなった人は少なくない。住宅金融支援機構の「住宅ローン貸出動向調査」(2020年)が、金融機関が懸念する住宅ローンの問題を調査しているが、「景気低迷による延滞増加」との回答が50・2%となり、前年の調査の33・0%を大きく上回った。

同機構のデータによれば、ローンの条件変更承認件数は2020年6月、7月にそれぞれ1000件を超えるなど感染拡大につれて急増した。収入の多寡にかかわらず、住宅ローンを返済できなくなって、涙ながらに自宅の売却に踏み切るケースが増えているのだ。

収入の減少で賃貸物件の家賃を支払い切れなくなった人も少なくない。こうした人たちが、都心部や交通が便利なエリアから追い出されるように、住宅コストの安い隣接県など郊外へと移り住んでいるのである。

つづく「日本人はこのまま絶滅するのか…2030年に地方から百貨店や銀行が消える「衝撃の未来」」では、多くの人がまだまだ知らない「人口減少」がもたらす大きな影響を掘り下げる。

日本人はこのまま絶滅するのか…2030年に地方から百貨店や銀行が消える「衝撃の未来」