【週刊現代】農協に激震…!農林中金「1兆5000億円のとんでもない赤字」リーマンよりヤバい「海外投資で大失敗」の本当の原因

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米金利上昇が直撃…!

農林中央金庫が外国債券の運用で2兆円を超える含み損を抱え、2025年3月期に1兆5000億円の最終赤字に転落する見通しとなり、全国の農協関係者や農林水産省幹部らの間に激震が走っている。

巨額赤字はリーマン・ショック後の2009年3月期以来16年ぶりとなるが、ハイリスク・ハイリターンを求めて米証券化商品への投資を焦げ付かせた当時よりも、事態は深刻と言える。

リーマンの教訓から、満期まで持ち続ければ元本が返ってくる米国債などに投資を集中させてきたにもかかわらず、今回は米金利の急激な上昇と高止まりに直撃されて含み損が膨らみ、「安全かつ確実にリターンが上げられる」(農中幹部)はずだった投資戦略も破綻した。

JAグループから預かった約60兆円にのぼる資金を運用し、年間3000億円規模の利益を還元してきた農中からの「ミルク補給」が断たれれば、本業の農業関連事業で赤字を垂れ流す全国の多くの農協が経営も立ち行かなくなる。

リーマンショックのトラウマ

「過去の金利上昇局面では、一定程度、評価損を抱えても持ち堪えられたが、今回の(米国の)金利引き上げは想定の超えるものだった」。農中の奥和登理事長(1983年入庫)はこう釈明したが、金利見通しを読み誤ったことは否定できない。

新型コロナウイルス禍の収束とインフレ圧力の高まりを受けて、米連邦準備理事会(FRB)が2022年3月以降、急激な利上げに転じたことが市場でサプライズを呼んだのは確かだが、同じく米国債投資で含み損を抱えた3メガバンクなどは2023年中に「損切り」を終えている。

対照的に「リーマン直後の赤字決算のトラウマ」(有力OB)を引きずる農中は、「米景気はいずれ減速する。高金利は長くは続かない」と高を括り、含み損処理をずるずると先延ばししてきた。

その挙げ句、米金利上昇でドル調達コストも嵩み、投資リターンを上回る「逆ザヤ」状態に陥って、「満期まで保有すれば損は出ない」などと呑気なことを言っていられなくなった。低収益の債券を塩漬けにしたまま保有資産を入れ替えなければ、投資収益の回復は望めず、農協に利益を配分することがいつまでもできないからだ。

農協に尻拭いさせて…

外貨資金調達コストに跳ね返る信用格付けの低下を避けたい農中は今回、自己資本増強のため、約1.2兆円規模の追加出資を都道府県レベルの農協組織「信連」などに要請している。リーマンショック後の1.9兆円増資に続く2度目となり、利益還元どころか、運用失敗の尻拭いまで迫られる農協側からは「泣きっ面にハチだ」との恨み節も漏れる。

奥理事長は前回の増資時、担当部長として全国の農協団体を説得して回った経緯があるだけに、再びの失策に経営責任を問う声も出ている。だが、農中は最初に5000億円の巨額損失見通しを公表した5月22日当日、奥理事長を含む理事7人の再任を発表しており、それが農協関係者の反発に拍車を掛けているようだ。

とはいえ、JAグループが今後も農中の稼ぎに期待するしかないのも事実で、結局、2度目の増資を引き受けざるを得ないだろう。これまで農協の経済事業の赤字を穴埋めしてきたもう一つの柱である保険販売などの共済事業が、過度なノルマによる職員の「自爆営業」や、高齢者への不適切販売などの発覚でブレーキがかかる中ではなおさらだ。

農中にJAグループの経営を丸ごと背負わせる、無理なビジネスモデルの限界は明らかだ。農業者が減り、融資も含めた農業関連ビジネスが先細る中、JAバンクがせっせと非農業者からも預金を集め、それを農中に回して儲けを増やそうとするシステムそのものの矛盾が露呈した。

農水省と金融庁はどう動く?

海外で巨額投資を続けてきた農中を巡っては、かねて経営危機に陥った場合、国際金融システム不安を引き起こすリスクが懸念されてきた。

実際、リーマン後の巨額損失時には、公的資金注入による実質国有化が水面下で検討された。2022年には農水産業協同組合貯金保険法が改正され、金融システムに著しい混乱が生じると予想される場合には公的資金を注入できる仕組みが正式に整えられたが、そんな事態になれば、農協も一蓮托生で生き残れなくなるだろう。

農中を共管する農水省と金融庁は「連携して経営を注視していく」とアピールしている。だが、両省庁はすでに農中の経営管理委員として皆川芳嗣元農水次官(1978年旧農林省)と、佐藤隆文元長官(1973年旧大蔵省)を送り込んでおり、事態を静観するだけでは単なる「天下りポスト目当て」とのそしりを免れない。

リーマン時に続く巨額損失ショックの再来を奇貨として、農中とJAグループの歪な関係そのものにメスを入れる必要がある。

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