◆「下痢が始まるだけであの時の恐怖が…」

治療により死線を乗り越えた後は一般病棟に移り3週間ほど安静にし、退院。仕事は1か月後に復帰。後遺症は?

「2年間は体力的なリハビリ期間でしたが、今は身体的な後遺症はありません。でも、パニック障害がまだ残っていて、下痢が始まるだけであの時の恐怖が蘇ってしまって……」

◆初期症状を見逃さないことが重要

そんな佐藤さんが伝えたいのは、初期症状を見逃さないことの重要性だ。

「手足の傷から菌が入ることが多いそうですが、私はけがも打撲の症状もなくて。風邪だと思って我慢せずに、何かおかしいと感じたら、すぐに救急車を呼んでください」

一見すると風邪のような初期症状が、いかに重大な疾患を示唆しているかを、改めて認識させてくれるものだ。

◆痛みがない「梅毒」に早く気づくコツは?

また、同様に近年増えているのが梅毒患者だ。新型コロナの影響で一時は減少したものの、’11年以降は患者報告数が増え続けている。

「私の勤務先が新宿・歌舞伎町に近いということもあり、ここ数年は非常に多くの患者さんが訪れます。特に若い女性です。患者さんが妊娠中で胎児まで感染しているケースもあり、社会問題として由々しき状況だと考えています」(菊池氏)

梅毒に感染すると、どのような初期症状があるのか。

「初期は陰部や口まわりに硬結という痛みのない硬いしこりができます。しかし、数週間で消えてしまうので、なかなか気がつかない人が多い。しかし、2か月くらいたつと今度は全身、特に手のひらや足の裏に『梅毒疹』と呼ばれる湿疹ができます。そこでようやく気づいて受診されるケースが多いですね」

◆「梅毒」が進行してしまうと…

とはいえ、そうした第2段階の症状もしばらくすると消えてしまうのだとか。

「自然治癒する方がいる一方で、そのまま梅毒が進行した場合、循環器梅毒や神経梅毒といって、心臓や脳が侵されます。きちんと初期段階で診断して、治療を始めるべきです。仮にリスクのある性行為をした後は、口まわりや陰茎を確認してください。予防策としては避妊具を使うこと。当たり前ですが、そういう意識のない患者が多いのです」

また、人食いバクテリアや梅毒に限らず、近年はさまざまな感染症が増加傾向にあるという。なぜなのか。

「恐らく、新型コロナの位置づけが5類になったことで感染症対策が緩んだことが影響しているのだと思います。今まで抑えられてきたさまざまな感染症が、それによって拡大傾向にあるのかと」

備えは怠ってはいけない。

【東京女子医科大学 菊池 賢氏】
1985年、信州大学医学部卒。順天堂大学などを経て現職。感染症の専門家として、現在メディア出演なども含め幅広く活躍中

取材・文/週刊SPA!編集部

―[[ヤバい病気]の前兆]―