「100点なんて偉いね!」が子どもへの呪いになる訳

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よかれと思ってほめた言葉が、子どもにとって悪影響を及ぼすことも…(写真:EKAKI/PIXTA)

「100点取って偉いね!」「今回も1番ですごいね!」――これらは、子どもがテストでいい点を取ったり、スポーツなどでいい成績をおさめたりしたとき、親がつい言ってしまいがちな一言だ。しかし、小児科医・医学博士・公認心理師である、成田奈緒子氏と、臨床心理士・公認心理師である上岡勇二氏によれば、こうした「ほめ言葉」は、「子どもを縛る呪いの言葉」であるという。

なぜ、いけないのか? そして褒める代わりにどのような言葉がけをすれば、子どもの脳はよく育つのか。『その「一言」が子どもの脳をダメにする』を上梓したお2人に語ってもらった。

100点を取らないとダメ?

【事例】

×「100点取るなんて偉いね! 本当にうれしいよ」
〇「成長したねえ!」

100点を取らないとダメ?

チカ(小4)

進学塾に通い始めたチカ。勉強を一生懸命頑張って、学校の国語のテストで100点を取りました。 「100点取るなんて偉いね! 本当にうれしいよ」と両親は大喜び。その日の晩は、母親がチカの大好物のハンバーグを作ってくれました。

ところが数日後、算数のテストで70点を取ってしまいます。帰り道、誰もいない公園に立ち寄るチカ。そこには、ごみ箱に答案を破り捨てている姿がありました。それから1年後、チカは不登校になってしまいました。

チカのケースのように、「こんな成績取れるなんてすごいね!」「いい子にしてくれて本当にうれしいわ」などのほめる行為を、多くの親御さんたちは「よかれ」と思ってやっているのではないでしょうか。

しかし、こういった「ほめ言葉」は、「足かせ」にもなりうるものです。私たちは基本的に、親が子どもをほめるということを推奨していません。なぜなら、ほめることは、「これだと良い」「これだと悪い」と、評価の基準を作ってしまうからです。

「ほめ言葉」は子どもを縛る呪いの言葉

「100点取るなんて偉いね!」と喜ぶ親は、ともすれば、「99点では許してもらえない」と自分を追い詰めてしまう子どもを生み出します。「100点を取って偉いね!」というメッセージは、同時に、「でも99点ならダメ!」というメッセージにもなりうるからです。

不安が強めの性格傾向を持つ子どもが、このような言葉を受け取ると、親に喜んでもらおうと一生懸命勉強をします。100点が取れたときはいいのですが、取れなかったときに「次回は100点が取れるように頑張りなさい」と言われたり、親が残念そうな表情をしていたりするのを見ているうちに、「100点を取れない自分はダメ」という考えに囚われるようになります。これは不安の表れです。

まずは、チカのように、答案をこっそり捨ててしまう、といったような小さな歪みから始まります。そのうち、生活面すべてにおいて「自分はダメ」と考えるようになると、心身に歪みが生じ、朝起きても体が動かず、学校に行けない状況になることもあります。

親が「よかれ」と思って言ってしまいがちな言葉は、何も学校の成績に限った話ではありません。たとえば、「何でも食べてくれてお母さんうれしいわ」という言葉は、同時に「食べなかったら、お母さんはあなたのこと嫌いになるからね」というメッセージとして子どもに伝わる可能性もあります。

たとえば、「運動がこんなにできるんだから、将来はオリンピック選手だね!」というメッセージも、子どもに対して必要以上にプレッシャーをかけてしまいかねない言葉です。トップが取れなかったときに心身が不安定な状態になり、不登校になってしまったケースもあります。

・脳の神経回路「こころの脳」

ところで、子どもの脳では、10歳を過ぎた頃からだんだんと、「からだの脳」(間脳・脳幹)と前頭葉をつなげる神経回路が構築されていきます。この神経回路が「こころの脳」です。

「からだの脳」は、人間が生きていくために必要な原始的な欲求や感情をつかさどる生命維持装置です。しかし、社会の中で他者とうまく生きていくためには、「からだの脳」から発せられる喜怒哀楽を、いつでも思いのままに表出させるわけにはいきません。そこで、「からだの脳」と前頭葉を神経回路でつなげることによって、自分が置かれている状況や他者との関係性を考慮に入れて、論理的な判断ができるようになっていくのです。

チカのケースの場合、この前頭葉と「からだの脳」との神経回路が構築されていないと考えられます。

前頭葉は、「おりこうさんの脳」(大脳新皮質)に何度も繰り返し入ってきた刺激、すなわちこれまでの経験や知識・記憶を基に、自分独自の考え方で判断できる脳です。しかし、チカの「おりこうさんの脳」には、「失敗しても大丈夫だ」という経験・記憶がまったく入っていませんでした。「100点を取ればほめてもらえる」という記憶しかないので、前頭葉はそれ以外のオプションに対して判断することができません。そのことが脳の構築を壊し、心身症状、ひいては不登校につながってしまったのです。

「ほめる」のではなく、「認める」ことが大切

このように、親が学校や塾での成績をほめてしまうことは、子どもの脳の正しい発達を阻害する要因になりかねません。しかし、多くの親は、子どもが小学校に入学した途端に成績を気にし始めます。生まれたときには、「健康に育ってくれればそれで十分」と思っていたはずなのに、成績という評価で、自分の子どもの立ち位置を相対的に判断し始めるのです。

しかし、親は、学校や塾での成績を測るモノサシを持つべきではありません。学校や塾での評価は絶対的なものではなく、環境によって変化しやすいもの。そして、親が口を出さなくても、子どもは学校で成績という評価にすでに十分にさらされています。

学校や塾のように、点数などの数値で「評価」するのではなく、日々の生活の中で子どもの成長を発見して「認める」のが親の役目です。

私たちは、脳科学の理論を深化させ、さらに一歩前に進めた考え方、「ペアレンティング・トレーニング」を提唱しています。そして「ペアレンティング・トレーニング」のなかで、「親はブレない軸を持つ」ということを重要な考えとしています。

親は学校の評価にはいっさい関わらず、家庭生活で必要な「軸」のみを持って、子育てをしていく。「軸」は、子どもが生きていくうえで本当に必要なこと、たとえば、「死なない、死なせない」などを2〜3本だけ。子どもがその「軸」から外れそうになったときのみ、全力で叱るべきだと考えています。

親に評価されず自由にさせてもらえれば、子どもはいつしか、ほかと比較して「もっといい点を取りたい」と努力したり、もしくは「まあ、点数が低くてもみんなと仲よくできていればいいや」とより友達と仲よくしたり、いずれにせよ、「自分なりに考えて行動」し始めます。

子どもが成長している様子を発見したら、それを言葉で認めてあげましょう。そうやって「成長する子ども」を「認める」ことこそが、子どもの「こころの脳」を育てます。生活が子どもの脳を育てる、というのはこういうことです。

失敗はして当たり前

親は家庭生活における「軸」を持つ。これは脳育てにおいて一番大切なことなので、これからも何度も繰り返し述べていきたいと思っています。

「認める」ということは、言い方を変えると、子どもを「信じる」ということです。子育てとは、「心配100%/信頼0%」の子どもを、日々の家庭生活の中でコミュニケーションを取りながら成長させ、「心配0%/信頼100%」の状態にして社会に送り出すことです。

子どもは最初、何もできない状態で生まれてきます。親は子どもに対し、常に必死に目を配りながら成長の姿を認め、あるときには、たとえ心配であっても信じて任せ、少しずつ「信頼」の割合を増やしていくしかありません。

子どもを信じて任せると、ときには失敗してしまうこともあるでしょう。しかし、事前に失敗することが予見できていたとしても、それが命に関わるものでない限りは、親は信頼して見守ることが必要です。

失敗こそが、「おりこうさんの脳」に知識と経験を植えつけます。むしろ、失敗は脳育てのチャンスです。次にどうすれば失敗しないかを自身の力で考え、それを正しい論理として身につけていくということが、子どもの脳をよりよく育てていくのです。

私たちの運営する「子育て科学アクシス」では、「全力で子どもを信頼すること」こそが子育ての最終目標である、と親御さんたちに常にお伝えしています。

「テストの点数」は見ない

では、子どもがテストで100点を取ったとき、どのような言葉をかければいいのでしょうか。

「子育て科学アクシス」では、親御さんたちに、「喜んでいる子どもに共感することには賛成ですが、点数を評価することは絶対にやめてください」と伝えています。加えて、ついほめてしまう要因になるので、「テスト結果は見ないでください」とまで言っています。

親が点数の評価をしなくても、子どもはすでに学校で先生などからほめられているはずです。そして、「テストで100点を取ったこと」はあくまで、学校という「家庭の外の生活」においての話であり、親がタッチすべきことではありません。親が問題にすべきことは、「家庭の中で子どもがどのように生活しているか」だけです。


もし、子ども自身が100点の答案を喜んで自分から見せに来たら、「うれしかったね」と共感したり、「幼稚園の頃には字も読めなかったのに、テストの問題を読んでその答えを書くことができて、さらに100点取れるとは成長したねえ!」と言って認めたりするのはOKです。

しかし、テストの点数よりも親に「認めて」ほしいのは、家庭での「役割」を全うする子どもです。

たとえば、試験期間であっても勉強を切り上げて、役割である朝ごはんを確実に作る子どもに、親は毎朝「ありがとう」と感謝する。ときには、「勉強忙しいんだったら、今朝はごはん、お母さんがつくろうか?」と言って、子どもが「ほんと? ごめんね。ありがとう、助かった!」と親に感謝する。家庭生活の中で、日々そのような会話を交わしていくほうが、脳育てには圧倒的に重要です。

親から認められている子どもは、テストの点数に一喜一憂しません。もし悪い点数を取ったとしても、自然に「私は成長の過程にいるんだから大丈夫」と思うことができます。

「親に信頼されている」という安心感が子どもの脳をよりよく育てます。信頼されることで、勉強をなぜしなければならないのか、だんだんと自分で判断できるようになっていきます。成績のことをとやかく心配しなくても、認めてさえいれば、自分で必要性を判断して、自主的に勉強をするようになっていくでしょう。

(成田 奈緒子 : 小児科医・医学博士、公認心理師)
(上岡 勇二 : 臨床心理士・公認心理師)