2年前に結婚した”歳の差夫婦”の現在とはーー?(イラスト:堀江篤史)

名古屋駅前の商業ビル内にある小籠包専門店に来ている。ランチビールを飲みながらの取材に応じてくれるのは、愛知県内で会社員をしている佐野啓子さん(仮名、41歳)と雄太さん(仮名、31歳)の夫婦。

それぞれ四国と東北の出身だが、職場が愛知県内にあり、名古屋市内のカフェバーの客同士として知り合って2年前に結婚した。

つらい離婚を経験した後、出会った今の夫

啓子さんには夫の海外駐在先で浮気をされて家から追い出されそうになったというつらい離婚経験がある。名古屋はその元夫の勤務先がある土地だが、離婚して世間の狭い地元に帰りにくくなった。再就職先を探して生活を立て直し、酒場に行く余裕も生まれた頃に雄太さんと出会った。禍福は糾える縄の如し、ということわざを思い出す。なお、元夫は勤務先にいづらくなって東京の会社に転職したという噂を啓子さんは聞いた。名古屋市内で出くわす心配はなさそうだ。

美味しそうにビールを飲む啓子さんはセミロングの髪型に白いブラウス、花柄のスカート姿。話し方も落ち着いており、「素敵な大人のお姉さん」という風情だ。ただし、実際には典型的な末っ子で、世話焼きタイプではないらしい。

太めの縦ストライプ柄のシャツを着こなしている雄太さんはオシャレなメガネをかけた小顔男性。話し方はゆっくりめで声は小さめ。今風の若者に見えるが、しっかりした性格で家庭では啓子さんを引っ張っているという。啓子さんは「夫に頼り過ぎないように給料を上げる努力をしなくては」と気を引き締めているらしい。人は見かけにはよらないものだ。

啓子さんは西日本にある大学を卒業してから証券会社に入ったが、厳しいノルマに耐えられずに4年後には四国の地元に戻った。26歳だったが、同級生はすでに結婚している人が多くて焦りを感じたという。

「友だちに紹介してもらってお付き合いした人もいます。でも、結婚を真剣に考えてくれるような人はいませんでした。28歳のときには結婚相談所に入りましたが、10歳ぐらい年上の男性ばかりを紹介されて……。当時は『おじさんばかり』だと感じてしまいました。その方々の年齢を今の私は過ぎているのですが(笑)」

マッチングアプリで出会った男性と結婚するが…

漠然とした焦りから行動すると、「自分はそもそも何を求めていたのか」を見失ってしまうことがある。啓子さんは迷走した挙句にマッチングアプリでやたらに明るい男性と知り合う。大企業勤務の彰さん(仮名)だ。

「2歳年下で、面白いことも言ってくれる人でした。結婚前提じゃないと付き合えないと伝えたら応じてくれたんです。結婚してから彼が愛知にある本社に戻ることになり、私のほうが仕事を辞めて名古屋について行きました」

しかし、一緒に暮らし始めてからは彰さんの言動に嘘や攻撃性が目立つようになった。啓子さんは謎の胃痛に悩まされるようになるが、今から振り返るとストレスが原因だったようだ。彰さんが中国に赴任したときにそのピークに達した。

「私も一緒に行きましたが、彼は子どもをすごく欲しがったので日本で不妊治療を受けていました。流産してしまってしんどい思いをして、中国のマンションに戻ったらキッチンに私が知らない現地の調味料がたくさん置かれていたんです。彼は料理をまったくしない人なのに……」

困惑する啓子さんを彰さんは無視。さらに「君のことが嫌いになった。帰国してほしい」と要求し始めた。啓子さんは浮気を確信し、彰さんの前任者の奥さんに助けを求めた。

「彼がよく一緒に飲みに行く同僚の名前を伝えたら、カラオケバーの女の子と遊ぶのが大好きで悪名高い人だとわかりました」

彰さんは啓子さんとすでに離婚したように見せかけた書類も持っていることが判明。啓子さんは証拠写真を撮った。義憤に駆られた前任者の奥さんが社内の駐在妻ネットワークに拡散させ、彰さんの上司である部長が知るところとなった。駐在からわずか1年で帰国させられた彰さんは退職することに。離婚調停では家庭裁判所の調停員も啓子さんの味方につき、慰謝料は100万円超。自業自得である。

しかし、啓子さんが受けたダメージも大きかった。地元の小さな町は「近所の目がある」のでバツイチで帰りにくい。仕事も見つけにくいだろう。あまり良い思い出はないが土地勘は少しある名古屋で金融機関の派遣職を見つけ、現在は同じ会社で正社員として勤務している。

「当時はちょっとした躁状態だったのだと思います。何かしていないと不安で、スキルアップのための勉強をしたり、いろんな人と会うためにオープンな雰囲気の飲食店に行ったり。雄太さんと出会ったお店もその1つです」

雄太さんの第一印象は…

雄太さんの第一印象は「中性的」だったと振り返る啓子さん。180センチ60キロという長身細身で、体のラインを強調するような黒い服を着ていたからだ。

「京都で花魁のコスプレをしたときの写真も見せてもらいました(笑)。多様性の時代だから、私も視野を広く持つべきだ!と思ったのを覚えています」

インスタグラムをフォローし合った2人は飲み仲間になったが、コロナ禍の緊急事態宣言によって飲食店が軒並みクローズ。雄太さんは啓子さんを「宅飲みしますか?」と誘った。雄太さんの自宅で2人きりで過ごすことになる。

「雄太さんは女性みたいな雰囲気だし、私はおそらく恋愛対象じゃないから大丈夫だろうと思って、遊びに行くことにしました」

その夜は楽しく飲み交わすだけで終わったが、会話の中で雄太さんはストレートの男性だと判明。しかも、啓子さんのことを当初から「キレイな人だな」と思っていたらしく、年齢差を聞いても驚かない。

雄太さんは大学卒業後、志望分野でのエンジニアになるために愛知にやってきた。女友だちはいるけれど、恋人がほしいとは思わずに過ごしてきたという。

「社会人になってからお付き合いする人とは結婚するものだと思っていました」

一方の啓子さんは再婚するつもりはなかった。彰さんとの苦しい結婚生活で男性不信気味になっており、親戚づきあいなども煩わしく感じていたからだ。

「でも、雄太さんは思いやりがあっておっとりとしていて真面目な人です。ご両親や弟さん妹さんとのグループLINEがあるぐらい家族仲が良くて、育ちがいいんだなと思っていました。そんな彼に結婚を望んでもらっていた頃、父ががんのステージ4に。地元で子育てをしている姉からは『お父さんを安心させてあげて』と言われました」

結婚してからも雄太さんは豹変しなかった。通勤に1時間以上かかるので平日の家事は啓子さんが中心となっているが、啓子さんの体調が優れないときはつねに寄り添ってくれる。

「彼は4人兄弟の長男だからなのか面倒見がいいのだと思います。末っ子の私は甘えています。私には年甲斐というものがないので、彼のことを若いなーと思うこともありません(笑)。ジェネレーションギャップを感じることはありますけど。ケンカをしたこともありません。彼の役割である洗濯物がたたんでなかったりすると私がワーッと責めたりはします。でも、彼は1人で陰気になるだけ。逆切れしたり当たり散らしたりはしないので助かっています」

想定外の幸せにたどりつくために

雄太さんの実家は自営業を営んでいるが、弟である次男が継いでいる。不妊治療をして子どもを作るつもりもない。雄太さんは思いやりはあるけれど真面目でマイペースで、エンジニアの仕事と啓子さんとの生活を愛おしんでいる。


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「妻と出会ったとき、ずっとこのまま一緒にいるんだろうなと思いました」

離婚をした後、一人暮らしを始めて「視野を広げよう」と努めていた啓子さん。自分より10歳も年下で女性に興味がなさそうだった雄太さんとの間に垣根を設けず、「話していて嫌じゃない」と素直に感じたという。なお、初対面のときの雄太さんは女友だちとの2人連れで、啓子さんはその女性にも好印象を持った。

結婚してからも3人で仲良くしています」

暮らし方や視点が変わると、同じ町や業界でも今までとは異なった魅力的な人たちと知り合えることがある。環境が変わったのではない。自分が成長したのだ。その出会いを素直に受け入れて楽しんでいれば、想定外の幸せにたどり着けるのかもしれない。

(大宮 冬洋 : ライター)