25年間選挙の現場を取材する畠山理仁さんを追った『 NO 選挙,NO LIFE』(写真:©️ネツゲン)

25年間選挙の現場を取材する、フリーランスライターの畠山理仁さん(50歳)。2022年7月の参院選・東京選挙区では、立候補した34人全員への取材を試みる。「立候補者全員」に会わないと記事にはしないと公言し、「残る1人」に会うためだけに片道2時間半かけ車を運転。自身の選挙区を留守にしながら他候補の応援に奔走する、ある候補者に会おうと長野に向かう――。

『週刊プレイボーイ』誌で大川豊総裁(大川興業)が政治の舞台裏を取材する連載をサポートしたことがきっかけとなり、「泡沫候補」(当選圏外にいる立候補者)とされる人に話を聞く面白さにはまっていったという畠山さん。

そんな彼にカメラを向けるのは、『なぜ君は総理大臣になれないのか』(大島新監督)、『劇場版センキョナンデス』(ダースレイダー、プチ鹿島共同監督)などをプロデュース、選挙ドキュメンタリーブームを牽引してきた前田亜紀監督だ。選挙にとりつかれ「選挙バカ」を自認する畠山さんに密着したドキュメンタリー『 NO 選挙,NO LIFE』が11月18から全国公開される。今回畠山さんに、カメラを向けられている間何を考えていたのか、なぜ選挙取材を続けるのかを聞いた。

世の中は面白人であふれている

――ご自身を撮影された映画の完成版を見て、率直にどう思われましたか?

映画を観た感想ですか? このひと(撮られている自身を)、何だろう!?とは思いましたね。そもそも自分には特別な才能はない。没個性の、つまらない人間だと思っているので。いろんな人に話を聞きたいと思ったのがライターの世界に入ったきっかけなんです。自分では思いつかないことを教えてくれる人が、世の中にこんなにいたんだと思うと楽しいですよ。

インタビューの面白さでいうと、取材を受け慣れている有名人の答えはだいたい予測がつくんです。だけど、会ったことのない人に話を聞きにいくというのは、最高にドキドキするじゃないですか。この人は、いったい何を話すんだろうか。毎回が宝探しですよ。

――宝探し、ですか?

そうです。しかも選挙にはハズレがないですから。

――ハズレなし?

そうです。そうです(笑)。

立候補には相当なエネルギーが必要

――畠山さんは、20年間続けてきた選挙取材の成果を『黙殺』という本に書かれ、開高健ノンフィクション賞を2017年に受賞されています。たいていのライターだとそこを区切りに次のテーマを探されるのに、その後も選挙の取材を続けられています。選挙取材の魅力はどこにあるのでしょうか。

いきなり道端で知らない人に『あなたの人生を聞かせてください』と言ったら相当ヘンな人ですよね。でも、選挙だと『俺の話を聞いてくれ』と手を挙げている人に、『聞きます、聞きます』とこちらから手を挙げるので、立候補する皆さんから喜ばれます。


取材中の畠山理仁さん(写真:©️ネツゲン)

選挙に出るには、相当なエネルギーがないとできない。参議院(※参議院選挙区)だと立候補するために300万円の供託金を突っ込むわけですよね。自分の話を聞いてくれ、と言うために。

──突っ込む?

そう。これはもう突っ込むとしか表現のしようがない(笑)。しかも、当選する可能性が高くないというのは本人もわかっていて、それでも出るんですから。何が源なのか知りたくなりませんか?

──25年も取材されて、謎は解明されつつあるのでしょうか。

「やりたいことを、やりたいんだ」ということは共通していて。立候補するために借金をする人もいますし。だけども、お金がないからやめようとは考えないのは分かってきました。

──やりたいことというのは、政策の実現なのでしょうか。

それもあると思いますけど、こういう考えをもっている自分を、世の中の人がどう評価するのかを見てみたいんじゃないですかね。選挙は投票数で、数字が出ますから。

選挙に出ると決めたら、立候補する人たちはそのことに全神経がいくのでしょうね。選挙に出るみなさんが、ものすごく楽しそうに見える。実際、立候補するにはたくさんの煩雑な書類に記入しないといけない。ゲームを攻略するために、没頭するのと似ています。

──ゲームと似ているのですね。

なかには孤独を感じながら立候補されている人もいらっしゃるのですが、街頭演説をしていて立ち止まって声をかけてくれる人がいたりすると、候補者がもう本当に嬉しそうな顔をしているんですよね。

声をかけた人も、いいことをしたという感じで通りすぎていく。あるいは、目標300万票と言っていた人が3000票しかとれなくて、落ち込んでいるのかと電話してみたら、『こんなにも』と感激して『また出ます』という。ゲームのような、中毒性はあります。

当選する確率が低くても立候補する

──そういう人たちを見ていると、畠山さん自身も元気づけられるのでしょうか。

そうですね。選挙に出る人たちは僕よりも年上の人が多くて、70歳を過ぎた人たちもおられます。そんな勝ち目もないのに、と世間の人からは呆れられるわけですよね。それでも立候補している姿を見ていると、僕もあと20年、自由に生きても大丈夫かなと思えます。


インタビューを受ける畠山さん(写真:筆者撮影)

──映画を観て残像としてこびりついているのは、階段を駆け上がる、走る場面がいっぱい出てくる点です。

1つの場所で時間をとってしまうと、次の候補者の演説に間に合わない。できるかぎり移動時間を短縮したいというのがあるのと、選挙の演説というのはまず前座の人がしゃべって、候補者本人にマイクを渡すんです。だから声が聴こえてくると、誰の声なのか確認したくて、つい身体が動いてしまいます。


地上に向けていっきに階段を駆け上がるシーン(©️ネツゲン)

――映画を観た人から一様に驚かれる場面もあるそうですね。

映画の中で『私は超能力者だと思っているんです』と立候補されている人が話しだす場面があるんです。ビデオを向けて取材している僕が、それを聞いても表情を変えなかったことに驚かれるんです。

驚かないのはなぜかというと『テレパシーで世界とつながっていて、家の中で街頭演説しているんです』という人に以前お会いしたことがあったので。そのときは、そうやって自分の訴えが届いていると思える心の強さはすごいなあ。幸せなことだと思ったんですよね。

──なるほど。ところで、畠山さんが運転する車で移動中もずっと撮られていますが、「(選挙取材は)もうやめたいんです」と何度か口にされていましたが。

映画に出ていないところでも口にしていて、毎回やめたい。『これが最後。引退試合のつもりで』と言っていますね。

毎週どこかの選挙に行っている

──「やめる、やめるオジサン」なんですか?

そう。年中閉店セールをやっているような。アハハハハ。それはもう取材すればするほど持ち出し。赤字で。倹約につとめていますが、ガソリン代だとか遠方への交通費とか。毎月のカード決済日が恐ろしい。真剣にやめようかと相談したら、妻から『あなたしかやれないんだから、やめたらいけない』と逆に背中を押されてしまって……。

──もしも取材費の心配がまったくなければ?

家にはいないです。ぐるぐる毎週どこかの選挙に行っていますよ。どんなに小さな選挙でも熱烈な支援者がいて『このひとが立候補してくれたから来てください』と言われると、もう行きたくなる。

僕はクジ運が強くて、行ったら必ず面白い場面に遭遇する。だけど、それをお金にしていく自信がないんですよね。

──選挙以外、本当に取材したいテーマはないのでしょうか?

以外ですか……。うーん。自由に楽しそうにしている人のことを書きたい。そういう人にいちばん会いやすい場所が選挙なんですよ。見ていて、うらやましい。自分もそうありたいなあと思うんです。

これからも取材を続けていく

──今回映画化されたことで、他人視点で自分自身を見ることができたのでしょうか。

そうですね。これを続けられるのは、僕しかいないかもしれない。そう思わせてもらいました。これはちょっともうやめられないなあ。映画に応援されてしまったんです。……だけどまあ、映画がなくともまだまだ続けていくと思います。

畠山理仁
はたけやま・みちよし 1973年愛知県生まれ。早稲田大学第一文学部在学中より、雑誌を中心に執筆。2017年、『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(集英社)で開高健ノンフィクション賞受賞。著書に『記者会見ゲリラ戦記』『コロナ時代の選挙漫遊記』などがある。『NO選挙,NO LIFE』(前田亜紀監督)は、11/18〜東京・ポレポレ東中野ほか全国ロードショー公開予定。

(朝山 実 : インタビューライター)