複雑で難しくなっているマネジャーの役割。職場での場面を7つに分け、それぞれの場面で厳しさと優しさのどちらに軸を置くべきかを解説します(写真:ふじよ/PIXTA)

メンバーの個を尊重しつつ、チームとしての成果を最大化するためには、マネジャーは「厳しさ」と「優しさ」を使い分ける必要があります。ポイントは、業務の場面によって使い分けること。人事コンサルタントの和田真二氏の著書『伴走するマネジメント』から、その具体的なメソッドについて解説します。

厳しさと優しさを使い分ける7つの場面

「うちのメンバーは何度同じことをフィードバックしてもまったく改善しないんですよ。これは私のフィードバックの仕方に問題があるのでしょうか?」

これは、あるクライアントのマネジャーから受けた質問です。

私からは「理想の状態がすり合っていないとフィードバックはうまくいきません。フィードバックのテクニックも大切ですが、まずはマネジャーの考える理想の状態をメンバーとすり合わせましょう」と伝えました。

マネジャーがメンバーと共有すべき理想の状態とは何でしょうか。

ここでは、職場で「厳しさ」と「優しさ」という言葉が使われる場面を7つに分け、それぞれの場面でマネジャーは厳しさと優しさのどちらに軸を置くべきかを解説しながら、理想の状態とは何かについても言及していきます。

〈厳しさと優しさを使い分ける7つの場面〉
(1)役割、目標の自由度
(2)基準のレベル
(3)ルールの範囲や内容
(4)基準、ルール運用のあり方
(5)確認の仕方
(6)フィードバック内容
(7)伝え方

普段の仕事で、マネジャーとメンバーのやり取りは時系列で(1)から(7)の順をたどります。

期初には(1)メンバーの役割や目標を決め、(2)その目標に対して基準を明確にし、(3)チームで仕事をするうえでのルールを決める。期中にはさまざまなシーンで(4)基準・ルールが運用され、(5)(6)目標の達成度合を含めた日々の活動の進捗を確認するとともにフィードバックを行います。(7)そしてその中ではさまざまな伝え方でメンバーとコミュニケーションをとります。

それら7つのシーンの中で、例えば「今期の目標は厳しい」という場合に使う「厳しい」は、(2)の基準のレベルについて言及しています。また、「感情的に怒る厳しいマネジャー」のように(7)の伝え方について言及していることもあります。

多くのメンバーの話を聞いていると、ここで挙げた(1)〜(7)が混ざり合ってそのマネジャーが厳しいか優しいかを判定しているようです。

昨今メンバーに人気のない、一歩間違えばハラスメントと言われかねない厳しいマネジメントとは以下のようなものです。

「好きな仕事をさせてもらえず」(1.役割、目標内容の自由度)
「基準が高すぎて」(2.基準のレベル)
「仕事に関係のないルールが細かすぎて」(3.ルールの範囲や細かさ)
「ルールや基準から外れることに厳格で」(4.基準やルール運用のあり方)
「1日に何度もメールや電話で細かく状況を聞いてきて」(5.確認の仕方)
「弱みばかりを指摘されて」(6.フィードバック内容)
「言い方が高圧的でちょっとしたことですぐに怒る」(7.伝え方)

では、多くのマネジャーは(1)〜(7)すべてにおいて優しくすればいいのでしょうか。

もちろん、そんなことはありません。そうなるといわゆる「ぬるい組織」ができあがってしまいます。ぬるい組織とはマネジャーがメンバーに対して過保護になりすぎて、メンバーが達成感や成長実感を得られない組織を指します。

それでは、どのように厳しさと優しさのメリハリをつければいいのでしょうか。

理想の状態をすり合わせる

冒頭で「理想の状態がすり合っていないとフィードバックはうまくいかない」と述べました。ここにヒントがあります。

1つたとえ話をしましょう。メンバーのAさんはいつもリモート会議のスタート時間に少しだけ遅れてきます。とくに悪びれる様子もありません。一方、メンバーのBさんは必ずスタート時間数分前にはスタンバイをしています。そのためBさんはマネジャーがAさんに遅刻について何も指摘しないことにいつもモヤモヤしています。

さて、問題はどこにあるでしょう。Aさんが時間にルーズなことでしょうか? それともマネジャーがAさんに注意をしないことでしょうか?

そうではありません。マネジャーが理想の状態をメンバー2人と共有していないことが最も大きな問題なのです。

Bさんは「会議は始まる数分前にはスタンバイしておくことが常識だし、それがマナーだろう」と思っているかもしれませんが、Aさんは「前の打ち合わせもあるし、ぴったり、もしくは少し遅れて入るのは仕方ないだろう」と思っているかもしれません。

つまり理想の状態がすり合っていないのです。

そのため今回の件はどちらが正しいとも言えません。読者のみなさんにもそれぞれの意見があるのではないでしょうか。

「時間を守りましょう」というマナーは小学生でも知っています。しかしその時間を守るという考え方1つとってみても、理想についてしっかりメンバーと握っておくことが大切で、「そんなの言わなくてもわかるよね」と思うようなことでもしっかりとマネジャーが理想を示しておかないとメンバーをモヤモヤさせてしまいます。

これぐらいシンプルな例でもそうなのですから、今期のチームの目標をメンバー全員で達成するといった大きな話になれば日々仕事をしている中でのメンバーのモヤモヤはその比ではありません。

「そんなに細かいことまでいちいち理想をすり合わせていたらいくら時間があっても足りないよ」という声があるかもしれません。

そのとおりだと思います。だからこそ「最低限これは共有しないといけない」という理想だけは共有するべきです。

では最低限共有しないといけない理想とは何でしょうか?

場面による「厳しさ」と「優しさ」のメリハリ

当然のことですが、すべての組織において曲げてはいけない原理原則は「顧客に価値を提供し、会社の継続的な成長を実現すること」です。

もちろん、メンバー1人ひとりの仕事をするうえでの目的や意義は違うかもしれません。それがお金を得ることでも、自由を得ることでも、成長することでも、安心を得ることでもいいでしょう。ただ、それは顧客に価値を提供し、会社の成長を継続的に実現することによって成し遂げられることです。

その順番は逆にしてはいけません。

これが最低限共有しないといけない理想です。

次の図に(1)〜(7)で厳しさと優しさのどちらを軸におくかについて整理しています。


(筆者作成)

7つの場面にあてはめて考えると、図のように(1)(2)(4)については厳しさに軸を置いたほうがよいということになります。

(1)と(2)に示されている役割と目標そしてそれらの基準とは、顧客に価値を提供し、会社を成長させるために必要なことを定義している最低限ゆずれない理想の状態だからです。

ここをマネジャーが緩めてしまうと組織はぬるい組織になりますし、ここをメンバーとしっかり共有しないと進捗確認やフィードバックが途端に納得感のないものになってしまいます。

メンバーを疑い始めると職場の雰囲気は悪化する

一方、(1)(2)(4)以外の項目については必要以上に厳しくある必要はありません。

進捗確認やフィードバックをしてもマネジャーにとって思わしくない状況が続くとき、ともするとマネジャーは「メンバーは自分とは違い能力もやる気も足りない」という考えに陥ってしまいがちで、さらにルールを細かくし、フィードバックでは弱みばかりに目を向けてしまいがちです。


しかしマネジャーがメンバーを下に見て疑い始めたらメンバーのマネジャーに対する不信感も高まり職場の雰囲気は悪化していきます。

(3)(5)(6)(7)の場面で厳しくすることは一歩間違えると「マネジャーである私はメンバーであるあなたたちのことを信用していません」という宣言になってしまうからです。

マネジャーが役割、目標やその基準をしっかりと伝えていないがゆえにメンバーが自立的に動いていない。つまり伝える力、そして伝えたことに対する覚悟が弱いということも原因の1つであることを認識してみることも大切です。

伝えることをきちっとせずにマネジャーがメンバーに後出しじゃんけんをしてしまうからメンバーに納得感が生まれないのです。

(和田 真二 : 人事コンサルタント)