ビジネスパーソンがイマドキのAIと向き合うために、身に付けるべき8つのスキルの内の1つを解説します(写真:metamorworks/PIXTA)

ChatGPTをはじめとした生成AIの登場は、あらゆるビジネス業界・職種に大きな衝撃を与えた。言語のやり取りによって物事が成立してきたビジネスシーンにおいて、AIが活躍できる領域が飛躍的に広がったからだ。これからわれわれは、AIとの関わり合い方を再考する必要がある。では、人間がAIと共存する最適解とは何だろうか。『生成AI時代の「超」仕事術大全』(東洋経済新報社)の著者の1人である保科学世氏が、ビジネスパーソンがイマドキのAIと向き合うために身に付けるべきスキルとは何か、8つあるスキルの内の1つに焦点を当てて解説する。


生成AIの登場により、AIが絵を描き、小説を執筆し、あたかも人間が書いたようなビジネス文章を生成できることが証明された。この模倣に長けたAIをどう活用すべきか、各国のリーダーを巻き込んで活発な議論がなされているのは周知の事実だ。今、人々は、人間とAIが共存できる世界を模索し続けている。

模倣による創造性を獲得した生成AIが高度化し続ける世界において、人間に求められるスキルとは何だろうか。それは「人間らしい、人間ならでは」のスキルを発揮することである。

AIが得意とする領域

人間の得意とする領域と、生成AIを含むAIの得意領域を整理してみよう。

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(著者作成)

まず、マシンの得意領域は、従来AIや機械が得意とする領域である。マシンパワーを活かした処理スピード、機械ならではの安定したサービスレベル、ネットにあふれるものも含む圧倒的なデータ(知識)の蓄積、そしてこれら大量のデータ処理と24時間365日、疲れを知らずに働き続けられることは、AIやマシンならではといえる。

一方、生成AI登場以前は人間に適した作業と分類されてきた創造的な作業、あるいは対人コミュニケーションを伴う作業は、生成AIにより侵食されつつある。

生成AIは人間がこれまで作り上げてきた大量のデータ(文章だけでなく絵画なども含む)を学習し、“高度な”模倣能力を身に付けており、過去のパターンの延長線上にある創作物、あるいは既存の創作物の組み合わせでできる創作物であれば、生成AIはすでに数多く生み出し、その実力を証明してきた。人間の創作も、もとをただせばほとんどが過去の創作物の影響を受けたうえで創作されたものであり、すでに定型的なビジネス文章やプログラミングは生成AIで代替可能になりつつある。芸術性を要求される作画、執筆などであっても、“どこかで見たような”作品では、少なくとも創作スピードや創作量に関しては、人間は生成AIに太刀打ちできない世界がすぐそこに迫ってきている。

対人コミュニケーションも、生成AIによって置き換えが進んでいる領域だ。もはや人間と区別がつかないレベルの対話がAIによって可能となりつつある今、単なる情報伝達(伝言ゲーム)だけのコミュニケーションは、生成AIに分があるケースも多い。なぜなら、人間は基本的に1対1でないと会話できないが、AIでマシンパワーさえあれば、何人とでも一度に対話が可能だからだ。

「人間らしさ」の価値が増す世界

では、人間の出番がないかといえば、もちろんそんなことはない。

創作活動においては、過去の作品の延長上にはない、独自性がこれまで以上に価値を増す世の中になるだろう。誰かの真似をするのではなく、個々人の個性、その人なりの独自性がより重要性を増し、付加価値を高めていく。

対人コミュニケーションでも、単なる情報伝達ではなく、人としての意思と情熱、共感が伴えば、まったく意味は違ってくる。こういった「人間臭さ」こそ、来るべき世の中における「人間の価値」として今まで以上に価値を増してくるだろう。

今挙げたような、人としての意思や情熱、共感は、リーダーシップにおいても重要な要素であり、単なる“管理者”としての上司ではなく、「人を動かす」リーダーが一層求められる。

また、肉体を持たないAIは、人間の持つ“アナログな”五感を通じた体験は不可能である。こういった五感を通じて自らが感じること、経験したことをわれわれは一層大事にすべきだろう。

AIは与えられた問題を解くことを得意とするが、課題そのものを発掘する能力は乏しい。身の回りにある解決すべき課題は何かを見出し、人間とAIの特性を踏まえAIに解かせるべき課題・論点は何か、そして自身が解くべき課題・論点は何かを考える能力が、われわれには一層問われている。

仮に課題の発掘をAIができたとしても、人間がやるべきことはまだある。人間社会のルールや倫理判断などは、人間がやるべきだ。今のところ生成AIは「それらしい」受け答えはできるものの、それが本当に社会のルールに適合しているのか、倫理的に正しいことなのかは判断できない。むしろAI提供側の企業が「人間を使って」おかしな回答をしないようにさまざまな対策を講じているのが現状だ。仮にAIが進化し続けるとしても、人間はルール、そしてあるべき姿を自ら考え、問い続けることが必要だ。それができる人間の価値は今後も失われないと筆者は信じている。

手本となるミネルバ大学のアプローチ

あるべき姿を自ら考え、問い続ける力を養うにはどうしたらよいだろうか。生成AIがこれだけ話題になる以前から、世の中の流れを先取りして、「今」必要な教育を考え、提供している大学のカリキュラムがヒントになる。ミネルバ大学は「実践的な知恵を身に付ける」ことを掲げた、フルオンライン授業の4年制大学である。毎年2万人以上が応募し、合格率はわずか2%未満と世界最難関の大学といわれている。中には超一流大学を辞退して入学してくる学生もいる、と話題になった。

特徴的なのは、日本の大学のようにカリキュラムに沿っていわゆる「講義型」で教えるのではなく、批判的かつ創造的に思考し、効果的にコミュニケーションしながら他者と上手に協働する能力を開発することに重点を置いたプログラムを採用していることだ。インプットはすべて学生自身で事前に予習し、授業は学生同士の議論やグループワークを通じてひたすらアウトプットする。教授は講義をするのではなく学生のガイド役に徹し、適切なタイミングで学生にフィードバックする。

カリキュラムは大きく、思考に関するスキル(「クリエイティブ思考」「クリティカル思考」)と、対人スキル(「効果的なインタラクション」「効果的なコミュニケーション」)の計4つに分けられており、それぞれの手法について実践を通じて繰り返し学んでいくようプログラムが組まれている。


(著者作成)

「クリエイティブ思考」とは、発想を膨らませることで新たな発見や問題解決を促すスキルである。サンプリング、ケーススタディといったリサーチ手法を学ぶとともに、仮説を展開することで新たな発見を促し、デザイン思考を使って問題を解決する、といった営みを学んでいく。

「クリティカル思考」とは、物事を無批判に受け入れるのではなく、多様な角度から検討し、論理的・客観的に理解するスキルである。ゲーム理論で問題を分析する、決定木を活用しながら意思決定を分析する、回帰や相関を使ってデータを分析する、といった分析能力の獲得と、帰納法/演繹法を使った正当性評価や主張の評価を論理的に展開する能力がここでは身に付く。

「効果的なインタラクション」では、他者との協働、交渉と説得、複雑系の中でのインタラクションを学ぶ。ここで特筆すべきは倫理的な問題解決の手法であろう。相手とのコミュニケーションではつねに倫理的な配慮を必要とするとともに、判断軸にも倫理感を取り入れていることから、倫理に対する重要性が見て取れる。

「効果的なコミュニケーション」では、言語を使ったコミュニケーションだけではなく、非言語コミュニケーションも併せて取り扱っている。この非言語はコミュニケーションの93%を占めるといわれているが、この技術こそが今のところ人間しか持ちえない能力だ。

自らに問い続ける力を磨く

いくらAIが高度化したとしても、最終的に仕事の中で責任を負うのは人間である。そのため人間は、AIが提示したアウトプットの良し悪しを判断せねばならない。この際、何を基軸に判断すればよいだろうか? 仕事の本質、その仕事が結果どうあるべきかが1つの鍵となるだろう。答えは、上司から引き出せるとは限らない。その場合は自らで考え、問い続けて自分なりの答えに足りうる仮説を導き出さねばならない。

この思考過程こそが人間らしさである。つねにあるべき姿を考え、自らに問い続けていく力を身に付けていこう。

(保科 学世 : アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 AIグループ 日本統括 AIセンター長/アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京共同統括)