村田製作所は積層セラミックコンデンサー(MLCC)で世界シェア4割を誇る「業界の王者」だ(写真:村田製作所)

「力強い回復はまだ先だとみているが、(厳しい)環境は収束した」。10月31日に開かれた電子部品大手・村田製作所の中間決算説明会。村田恒夫会長からは安堵の言葉が漏れた。

村田製作所は、積層セラミックコンデンサー(MLCC)で世界シェア首位。コンデンサーは、一時的に電気を蓄えたり放出したりする役割を持ち、ほぼすべての電子機器に使われる。同社のMLCCの世界シェアは約4割。小型品や信頼性の高い製品になると、世界シェアは5割を超える。

スマートフォンに使われる最先端品のMLCCは「0402」と呼ばれ、1個の面積が0.4mm×0.2mmという驚異的な小ささだ。供給できるメーカーは、世界でも村田製作所程度に限られており、圧倒的なシェアを持つ「王者」の地位にある。

2012年度から2022年度にかけて、村田製作所の売上高は6810億円から1兆6867億円に、営業利益は586億円から2978億円へと急成長した。追い風となったのが、スマホ市場の拡大だ。直近の約1年間は中国のスマホメーカーの在庫調整が長引き苦しんだが、村田会長の言葉どおり底は脱している。


しかし今、最先端の部品で強みを持つがゆえの困難に直面している。それは安価なローエンドスマホの市場拡大だ。

ローエンドスマホでは量も質も違う

「インドなど価格の低いスマホが売れる地域での需要増加によって、メーカーサイドではローエンドスマホの販売比率が徐々に高まっている」

村田製作所のセラミックコンデンサ事業本部販売推進統括部で働く北隆治部長はそう話す。村田製作所としては、ローエンドスマホであっても、高機能化が進みMLCCの搭載数が増加することにより「需要としてプラス」(北部長)になると見込む。

ただ、この見通しはやや楽観的といえそうだ。ローエンド品に搭載されるMLCCは量、質とも大きく異なるためだ。

スマホ1台に使われるMLCCの数は、ハイエンド品の1000個以上、ミドルエンド品の800個前後に比べると、ローエンド品では500個前後と大きく減る。ローエンドスマホで高機能化が進んでも、1台当たりのMLCC搭載数には大きな隔たりがある。

加えて、MLCCの最先端品という質の面でも、ローエンドスマホは搭載数が少なくなる。

スマホの分解調査を手がけるフォーマルハウト・テクノ・ソリューションズによると、2020年発売の中国シャオミのローエンド品では、「0402」のMLCCがまったく使われていなかった。

「0402」より少し大きいサイズのスマホで使われるMLCCには、日本の太陽誘電や韓国サムスングループの電子部品会社・SEMCO、台湾のYAGEOという強力なライバルがいる。さらに大きいサイズの汎用品のMLCCは、中国や台湾の複数メーカーまでも参入している市場となり、価格競争は一段と激化する。

「村田製作所の品質、供給力、サービスを認めていただいてビジネスをしているので、汎用品でもものすごく利益率が低いわけではない」(北部長)という。だが、最先端品と比べると収益性の低下は免れないはずだ。

ギャラクシーとiPhoneで搭載数に差

強みを持つ最先端のMLCCの使用状況はどうか。実はスマホの高機能化が進んでも、多くのスマホメーカーからすると、小型だが高価なMLCCを使う意欲は決して高くない。

2020年に発売されたサムスン電子のギャラクシー S20 5G。販売価格は約11万円だった。フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズによると、こうした高級機種であっても、搭載されたMLCCのうち「0402」が使われたのは約1割にとどまった。

一方、2020年に発売されたiPhone12では、搭載されたMLCCのうち「0402」の使用比率は約5割に上った。iPhone12とギャラクシー S20 5Gは同価格帯であったにもかかわらず、である。

今年発売のiPhone15も、MLCC搭載数は増えたが約5割という「0402」の使用比率はiPhone12とほぼ変わらない。


2023年9月に発売されたiPhone15 Pro Maxの分解写真。隙間なくMLCCなどの電子部品が詰め込まれている(写真:フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ)

同じハイエンドスマホでも、使われる部品に大きな違いが生まれるのは「設計思想に違いがある」(フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズの柏尾南壮CEO)からだ。

iPhoneでは「頭脳」に当たるプロセッサーのサイズに合わせて基板の幅が決まるため、基板の幅が狭く、プロセッサーと一緒に使われるMLCCも小型品が求められる。

アップル以外のスマホメーカーは、基板面積にゆとりを持たせる傾向がある。そのため小型だが高価なMLCCを使う必要性が低く、「0402」の使用量は少ない。

つまり村田製作所にとっては、iPhone向けが伸びない限り、もっとも強みを持つ製品の売り上げが伸びないのだ。だが、iPhoneにもかつてほどの勢いはない。

村田製作所が発表している、スマホの台数に換算したスマホ向け電子部品市場の需要は2016年度の15.6億台がピーク。2023年度の予測は11.1億台にとどまる。2021年度までの13億〜14億台という水準に戻るには、「数年かかる」と村田会長は話す。

車載向けが伸びるのは確実だが

スマホ向け市場の停滞感が強い中、同社が期待を寄せるのは車載向けだ。「スマホにも自動車にも全力で対応しているが、需要が伸びる確実性でいうと自動車のほうがポジティブな見通しを持っている」(北部長)。

エンジンを搭載し、自動運転機能がまったくない車に使われるMLCCの数は約3000個。だがハイブリッド車かつ、ハンドル操作などを部分的にシステムが行うレベル2の自動運転になると、必要となるMLCCは6000個を超える。

決められた条件下ですべての運転をシステムが行うレベル3の自動運転機能を持ったEV(電気自動車)では、1万個を超えるMLCCが使われる。自動車の電動化や自動運転の進展が加速することで、今後MLCCの使用量は増加していく。しかも自動車は、スマホほど生産量が急激に増減しない。

収益性についてはどうか。「スマホ向けのMLCCは汎用品での競争が激しくなっている。現時点では、市況の関係もあって自動車向けのほうが収益性が高い」。セラミックコンデンサ事業本部事業企画部の立川英和部長はそう話す。

自動車で使われる部品は、耐圧性能など信頼性が非常に重視される。村田製作所に対する顧客の評価も高い。スマホ向けの先端品と車載向けの高信頼性のMLCCでの収益性は同等の水準だ。

会社全体の売り上げで最大なのは依然としてスマホなどの通信向け。2023年4〜9月期の売り上げ構成比は40.5%に達する。自動車などモビリティ向けの売上高構成比は26%だ。ただ、通信向けなどほかが減収した中で、モビリティ向けは唯一増収となり、構成比を前年同期の20.2%から大きく伸ばした。

しかし、iPhone中心のスマホ頼みの構図は当面続くだろう。MLCCの搭載数はハイエンド品で1000個強とはいえ、スマホは年間11億台も売れている。自動車では1台当たりの搭載数が3000〜1万個とスマホより多いものの、年間の新車生産台数は約8500万台だ。

村田製作所はいま成長の踊り場に差し掛かっているといえる。

(遠山 綾乃 : 東洋経済 記者)