埼玉県川越市「ぎょうざの満洲」本社敷地内の川越的場店にて、ぎょうざの満洲代表取締役社長の池野谷ひろみ氏。イメージキャラクターのランちゃんは、池野谷社長がモデルだそう(撮影:風間仁一郎)

もともとは外国にルーツがあるが、日本に伝えられて変容し、国民食となったメニューは数多い。その中でも「焼き餃子」は老若男女問わず人気のある料理ではないだろうか。

焼き餃子を看板商品とするチェーンはいくつもあるが、いずれもコロナ禍でも安定的に売れ、コロナを機に業績を伸ばしているチェーンもある。

餃子チェーンがコロナ禍に成長できた理由

餃子の強みはまず、客層の広さと、ランチ、ディナー、飲み会のいずれにも対応できる利用シーンの広さだ。またテイクアウトしてもおいしさが変わりにくく、コロナ禍以前からテイクアウトに対応している店もある。さらに、調理前の段階で市販品として販売できる。これらが、餃子チェーンがコロナ禍に成長できた理由だろう。


「ぎょうざの満洲」焼き餃子とチャーハンのセット(850円)。餃子の皮はパリパリ系でなく、しっとり系。その皮と肉、野菜のバランスがよい。チャーハンはあえてのカタカナ表記がぴったりの、気取りのない味わい(撮影:風間仁一郎)

今回はその中でも、まさに安定の運営を続けている「ぎょうざの満洲」(以下、満洲)を取り上げる。

ぎょうざの満洲の店舗数は102店。餃子の王将(731店/10月末)や大阪王将(461店/8月末)などに比べれば小規模だが、知名度では負けていない。

埼玉県発のご当地チェーンで、すべて直営店。店舗展開は埼玉県と東京都の西に偏っているという特徴もある。

各地域の店舗数は以下の通りだ。

東京都:35 埼玉県:50 群馬県:6 神奈川県:1 大阪府:8 兵庫:2

全国チェーンに比べて不利にもかかわらず、インターネット上の人気店ランキングでは上位に挙げられていることが多い。

理由として1つには、創業60年の老舗だということもあるだろう。また店名に「ぎょうざ」を入れ専門性を打ち出していることも、餃子好きな人へのアピールになりそうだ。

そのほか、同チェーンが多くの人の心を惹きつける理由はどこにあるのだろうか。


川越的場店はランチタイムともなれば近隣で働く人や住民で満席になる。パーティールームには卓球台も設置(撮影:風間仁一郎)

「いくらでも食べられる」満洲の餃子

満洲の餃子の特徴は、毎日でも食べられる、家庭的な味。焼き餃子(6個300円)は熱々のところをほおばると、厚すぎず、ほどよいもちもち感のある皮の食感とともに、肉・野菜のバランスのよい旨味が口に広がる。さっぱりしていて、「いくらでも食べられる」と表現する満洲ファンは多い。

また餃子と並んで人気のトップ3に入るのが、満洲しょうゆラーメン(550円)とチャーハン(550円)だ。しょうゆラーメンはまろやかなスープが特徴。麺といっしょにすすると、何となくホッとする。チャーハンも具材とご飯の味がよく混じり合っていて「これぞチャーハン」というシンプルなおいしさが感じられる。食べやすいロウカット玄米と白米が半々になっているのにも、田舎のおばあちゃんが気遣ってくれているようで心和む。


満洲しょうゆラーメン(550円)。スープはあっさりしているがまろやかなコクがある(撮影:風間仁一郎)

筆者は行動範囲が東京の東エリアのため、実は満洲餃子を食べるのは今回が初めて。しかし長年のファンであれば、5年ほど前から餃子やラーメンの味が変わったことに気づいているかもしれない

例えば餃子なら、野菜と豚肉の比率は従来どおり5対5だが、2018年より豚の脂身を3割減らし、その分赤身を増量した。ラーメンのスープは、2020年に豚骨や豚足の使用をやめ、国産の丸鶏や鶏がら系、昆布や鰹節などの魚介系、玉ねぎやねぎなどの野菜系をそれぞれ煮出して合わせたトリプルスープに変更した。

代表取締役社長の池野谷ひろみ氏によれば、自身血圧が高く、毎日餃子やラーメンを食べていることや、スープを飲み干していることに医師から注意を受けたのがきっかけ。

「スープを飲み干せないようなラーメンを提供していてはよくない」と感じ、レシピの変更に踏み切った。

「味が変わったことで、お客様から苦情が来るのでは、と心配していましたが、ありがたいことにまったくそんなことはなく、かえって評価が高まりました。餃子の製造数も以前と比較して増加。これは1人当たりの食べる量が増えたのが理由と思われます」(池野谷社長)


「満洲ファーム」が保有するキャベツ畑(撮影:風間仁一郎)

また同社では、提携農家から仕入れた国産素材を使用しているほか、自社農園で収穫したキャベツを取り入れている。農業の6次産業化を進めている埼玉県から打診があり、10年ほど前から始めたのだそう。

農業の6次産業化とは何か。「1次産業としての農林漁業と、2次産業としての製造業、3次産業としての小売業等の事業との総合的かつ一体的な推進を図り、地域資源を活用した新たな付加価値を生み出す取組」(農水省HP「6次産業化とは」より)とのことだ。

生産から販売までを一体的に行うことで、可能性を広げ価値を高めようということらしい。6はどこから出てきたのかというと、「1×2×3=6」だから。つまり生産物の価値がかけ算で高まるということだろう。

畑での経験をメニュー開発に役立てる

2014年に自社農園である「満洲ファーム」を設立。農園をとりまとめているのは取締副社長であり夫の池野谷高志氏。高志氏の実家が兼業農家で農業の経験や知識を有していたことも、スムーズに自社農園を始められた理由だろう。

季節によりキャベツが収穫できない時期もあるので、提携農家のものも使用しているが、自社農園だけでかなりのところをまかなっている。また池野谷宅の畑(会社の農園ではなく)でも野菜を育てており、その経験がメニュー開発に役立っているそうだ。

「野菜を作ると旬による味の違いに気づくようになります。例えば今は大根がみずみずしくておいしい。だから店で出している付け合わせは大根の漬け物。期間限定メニューもこんなふうに決まることが多いです。普通のマーボー豆腐より辛い『辛マーボー豆腐』も、うちで山椒の実が穫れたことから思いつきました」(池野谷社長)

なお11月の期間限定メニューは「地産地消」がテーマで、ふわたまエリンギ丼。これは社員の公募で決まったものだそうだ。


川越的場店でとくに人気があるメニューがレバニラ炒め(530円)。ここと坂戸にっさい店の2店舗限定で、地元企業サイボクのブランド豚、ゴールデンポークを使用している。ほかの店舗では鹿児島県・宮崎県産のレバーを使用。素材の良さが引き立つよう、あっさりと味つけされているのに、まったく生臭みがないのは新鮮さゆえだという(撮影:風間仁一郎)

このように旬の素材を生かしたヘルシーなメニュー、毎日食べられる飽きのこない味が、満洲の最大の魅力なのだろう。客層は幼児から年配の方まで幅広く、男女比率は半々と、中華ジャンルにしては女性が高め。多くのメニューは白米か玄米かで選べるが、意外にも、40〜50代男性に玄米派が多いという。池野谷社長によれば「その分大盛を頼む人も多い」そうだ。

池野谷社長のコメントにもあったように、社員は毎日、社食で自社の餃子やラーメンを食べている。自然と味について考える機会が多くなり、ブラッシュアップも絶えず行っているという。


「天然えび入り水餃子」(380円)。これまでは豚肉の餃子と同様、あんにしょうゆやニンニク、生姜などを加えていたが、リニューアル後は塩が主体の調味に変更。えびの旨味がより引き立つようになった(撮影:風間仁一郎)

例えば11月3日にリニューアルした「天然えび入り水餃子」も、よりえびの旨味が引き立つよう調味料を見直したものだそう。

見直しと言えば、物販の餃子をおいしく焼くためのマニュアルも2022年に改訂した。

コロナ禍で自宅で餃子を焼く人が増えたことも背景にあるだろう。「餃子がうまく焼けない」という客の声に応え、池野谷社長をはじめ調理研修担当や商品開発担当が検証し、編み出したやり方だそうで、店舗と同じぐらいおいしく焼けるという。

このように、毎日食べるものという前提のもと味を追求し続けていることも、満洲の味の特徴をつくっていると言えるだろう。

「3割うまい」の良心的な価格

また日常づかいできる店として忘れてはならないのが、コストパフォーマンス。チャーハンと餃子のセットなら850円、アルコールも生ビール中ジョッキ490円と良心的な価格だ。

同チェーンのキャッチフレーズ「3割うまい」は、売り上げのうち原材料費、人件費、その他経費を3割ずつにし、バランスの取れた経営を行うという意味もあるそうだ。

そのため昨今の物価高騰を受け、10月に値上げも行っている。焼き餃子は以前の280円から20円上がったが、それでも財布に優しい値段であることに変わりはない。


川越工場は本社社屋と一体となっており、ガラス越しに様子が見えるようになっている。ここではスープやチャーシューなどの中華惣菜、豆乳杏仁プリンやオレンジゼリーなどが製造されている(撮影:風間仁一郎)

安さの理由について聞いたところ、「すべて自家製」であることが大きいという。餃子、麺、惣菜、デザートまですべて自社工場で作っているのはもちろん、工場から店舗への配送も自社流通で行っているので、中間マージンがかからない。

なお、作りたてのおいしさにこだわっており、工場から店舗への配送は毎朝行っている。例えば餃子は早朝の3時から作り始め、開店の11時に間に合うよう出荷される。出店が埼玉県と東京都の西部に偏っているのは、埼玉県の坂戸市と川越市にある自社工場から1時間半以内に配送できる場所にしか出店できないためだ。関西方面には、2015年に江坂工場を竣工し出店できるようになった。


ぎょうざの満洲本社・川越工場。左に見える黄色のトラックで店舗に配送する(撮影:風間仁一郎)


オレンジゼリーと豆乳杏仁プリン(各140円)。保存量不使用とのことで、素材のおいしさのみのかえってぜいたくな味わいだ(撮影:風間仁一郎)

年に2店舗出店する微増のペースをたどっており、そのペースはコロナ禍も変わらなかった。なぜか地主から直接声がかかって行うことが多く、提示された場所が条件に合っていれば出店しているとのこと。条件とは前述の、工場からの配送時間と、表通りに面した路面店であること。家庭の食卓の延長として気軽に入れることを重視しているからだ。

全国から注文が寄せられるECの冷凍餃子

業績は前年対比114%、2019年比で111%。コロナ中は時短要請のあった時期に1割落ちたぐらいで、餃子の生産量は変わらなかったという。その理由は、店舗やECで販売している冷凍餃子や生餃子(消費期限が1日なので店舗のみ)が売れたためと、もともと物販が売り上げ全体の4割を占めていたのが、コロナ中は6割までアップしたため。


ぎょうざの満洲代表取締役社長の池野谷ひろみ氏。父が創業した同社の社長に1998年、就任(撮影:風間仁一郎)

なお、ECの冷凍餃子は全国から注文が寄せられるという。

「贈答でもらった方が、今度は自分で注文するケースも多いようです。またふるさと納税の返礼品としてもご利用いただいています」(池野谷社長)

EC商品の価格を見ると、12個入り×6パックが送料込みで2850円(沖縄は+910円)で、1人前に換算すると230〜240円と、スーパーの冷凍餃子に匹敵する安さ。ご当地チェーンにもかかわらず、広く名前が知られている理由の1つはここにもあるのかもしれない。

以上、ぎょうざの満洲の安定した人気の理由について調べてきた。ヘルシーさ、安心できる味、コストパフォーマンスと、普段づかいできる要素がそろっているところが、ファンを長年惹きつけている大きな要素だろう。また遠くの人も気軽に味を楽しめる物販も、客の裾野を広げ知名度を高めるのに役立っている。

またとくに飲食店のブランドでは、家族などとの幸せな思い出がブランドイメージとして形成される。親、子、孫と世代を引き継いで利用されてきたことも、ぎょうざの満洲の魅力となっているのではないだろうか。

(圓岡 志麻 : フリーライター)