AIが広告業界を虜にしている。エージェンシーもクライアントも、自社の戦略やマーケティング施策にAIをどう活用できるのか知ろうと躍起になっている。

だが、こんなことをいうと怒られるかもしれないが、広告業界には、AIとそれがもたらすものに関する基準や定義が存在しないらしい。「『これがAIに関する基準だ』というものを見かけたことはない」と、オーシャン・メディア(Ocean Media)で分析チームの最高技術責任者を務めるアンマリー・ターピン氏はいう。「人々はAIについて説明した文章をあれこれ読んでは、『まあ、少しは当たっているかな』などと考えているのだ」

そこでAIに対する理解を助けるため、広告業界でよく使われているAI関連の主な用語をリストにまとめてみた。すべての用語を網羅したわけではないが、マーケティング用語として新たに登場した言葉やよく聞かれるようになった言葉を紹介したい。

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LLM

何の略語か:大規模言語モデル(Large Language Model)の略語だ。

意味:ジェネレーティブAIの基盤であるLLMは、ニュース記事、ソーシャルメディアコンテンツ、コンピューターコード、技術マニュアル、書籍など、膨大な量のテキストでトレーニングされた学習モデルのひとつだ。訓練データを使って次に来る可能性が高い言葉を予測することで、人間が思考を処理するのと同じように、文章を読み、理解し、生成できる。ChatGPTの台頭で一躍有名になったオープンAIのGPTモデルは、大手テクノロジー企業が開発した数あるLLMのひとつに過ぎない。他にも、Googleの「PaLM 2(パーム2)」、メタ(Meta)が新たにリリースしたオープンソースの「Llama 2(ラマ2)」、スタビリティAI(Stability AI)の「ステイブルLM(StableLM)」などがある。

利用法:今年に入ってから(あるいはそれ以前から)、実に多くの企業がさまざまなLLMを使って、新しいチャットボットなどのツールを構築している。バードはGoogle独自のLLMを利用しているが、スナップ(Snap)の「マイAI(My AI)」やネクストドア(Nextdoor)の「アシスタント(Assistant)」、プロフィテロ(Profitero)の「アスク・プロフィテロ(Ask Profitero)」など、オープンAIのLLMを基盤としたものもある。また、マーケティングコンテンツを生成するためのプラットフォームの構築にLLMを活用している企業もあるほか、金融情報、商業不動産、カスタマーサービスといった業界でもLLMが利用されている。

MMM

何の略語か:マーケティングミックスモデリング(Marketing Mix Modeling)の略語だ。

意味:専門用語としてのMMMは、マーケターが一定期間の売上を振り返り、何がその売上に貢献したのかを突き止めるために利用する統計分析の手法を指す。つまり、マーケティング費用を支払う前に、何が効果的で何が効果的でないかを判断しやすくなるのだ(「マーケティングミックスモデリング」のQ&;A記事を参照)。これは新しいツールではないが、AIの導入によって、データ集約的でコストのかかる作業がスピードアップされた。独立系のエージェンシーも、大手のライバルに後れを取るまいとMMMを活用している。

利用法:とにかく、データを集める必要がある。それがMMMの仕組みだからだ。マーケターは、デジタル、テレビ、OOH、ラジオ、ポッドキャスト、ソーシャルメディアなど、あらゆるタイプのメディアで長年にわたって活用してきたマーケティング戦術のデータを、季節要因や在庫に関するデータとともにマシンに取り込む。すると、MMMツールが計算を行い、売上が伸びた要因の分析やマーケターが将来行う意思決定に役立つ予測を出力するのだ。

機械学習

意味:機械学習をジェネレーティブAIと混同してはならない。機械学習とは、与えられた情報に基づいて予測や決定を行うアルゴリズムの学習に適用される、計算論的アプローチのことだ。だが、機械学習とジェネレーティブAIを混同し、ジェネレーティブAIの話をしているつもりで、実は機械学習の話をしている人が少なくない。最大の違いは、ジェネレーティブAIが新しいオリジナルコンテンツを生成する能力を備えているのに対し、機械学習は入力データを学習して予測を提供することに重点が置かれている点だ。

利用法:機械学習は、人間の行う管理や最適化に大きく影響される。このアルゴリズムは、過去に学習した内容を利用し、データに基づいて予測や決定を行うことで、顧客行動の予測やパターンの特定からマーケティングキャンペーンのパーソナライズまで、マーケターのあらゆる作業を支援する。MMMなどのメディアプランニングや、反復作業の自動化といった単純な用途にも利用可能だ。

NLP

何の略語か:自然言語処理(Natural Language Processing)の略語だ。

意味:NLPはAIのサブセットで、人間の言語とコンピューターの言語の橋渡しをする。さまざまなアルゴリズムや計算モデルを利用して用語を関連付け、文脈や意味を人間の言語で理解できるよう支援するのだ。たとえば、ブランドが大量のテキストを分析して、センチメントを理解したり隠れた傾向を発見したりできる(ブランドが自社に関するソーシャルメディアユーザーの発言を調べたり、消費者のあいだで話題になっているトピック、質問、懸念を知ったりする場合に役立つツールだ)。

利用法:NLPは長年にわたって、「Siri(シリ)」や「Alexa(アレクサ)」といった音声アシスタントツールの強化、ソーシャルリスニングツールの開発、およびセンチメント分析に利用されてきた。また、検索エンジンやチャットボット、各種広告ツールに予測機能を提供する目的でも使われている。

訓練データとテストデータ

説明:「訓練データ」とは、教師あり学習プロセスの一環としてAIモデルに取り込まれる大量の生テキストデータのことだ。一方、「テストデータ」とは、最初のトレーニングセットに含まれていなかったデータのことで、AIモデルがどれほど正確に回答を生成できるのか確認するために用いられる。

用途:訓練データとテストデータは、どちらもAIモデルの開発プロセスで利用されている。また、訓練データでは、その質や取得方法も重要になる。AIモデルが文章内のさまざまなパターンを理解して関連性を見つけられるのは、訓練データに基づいて教師あり学習を行うからだ(訓練データは食材であり、その食材を使ったレシピをテストした結果がテストデータだと考えてほしい)。

主な課題:AIモデルの学習に利用すべきデータの種類に関して、いくつかの課題がある。AI企業がAIモデルの学習に利用するコンテンツは、利用を許可されたものに限るべきだとする意見が、オープンAIやGoogleを相手取った最近の訴訟や議会での公聴会で大きく取り上げられている。また、データプライバシーに関する懸念、データの適切なラベル付け、偏見や誤情報を避けるための十分なデータの確保といった課題もある。

リストから漏れた用語

この用語リストに掲載できたかもしれない言葉は他にもたくさんあるが、ここでは広告業界幹部の発言を用いて、選に漏れたいくつかの用語を紹介しよう。最後は、人間ではないエキスパートの発言も紹介したい。

異常検知:

「これは機械学習とデータ分析のプロセスのひとつで、パターンを特定し、データセット内の標準から大きく逸脱したデータポイントを検出するものだ。その結果は、エラーや不正行為、外れ値を示している可能性がある」

──ブライアン・ヤマダ氏、VMLY&Rの最高イノベーション責任者

ディープラーニング(深層学習):

「非構造化データ使って学習を行う機械学習のサブセットで、人間の脳の学習方法をより忠実に模倣する。ただし、AIと混同されることが多い」

──B・ラランヌ氏、クリスピンポーターボガスキー(Crispin Porter + Bogusky)のリサーチおよびインサイト担当バイスプレジデント

AGI(汎用人工知能):

人々がAIによる人類存亡の危機について語るとき、そのAIはAGIを指していることが多い。理論上、AGIは人間と同レベルか人間を上回るレベルの認知能力を持っており、SFの世界でよく見られるAIを連想させるものだ。ほとんどの専門家は、AGIをまだ実現不可能と考えているが、理解の範囲を超えるようなものにはならないと話す専門家もいる。そこで、米DIGIDAYがGoogleのバードにお気に入りのAI用語を尋ねたところ、AGIという答えがすぐに返ってきたのは皮肉なことかもしれない。

「私の好きなAI用語は『汎用人工知能』(AGI)です」と、バードはいう。「AGIは仮説上のAIのひとつで、人間ができるあらゆる知的作業を実行できる能力を備えるとされています。AGIが実現するのはまだまだ先の話ですが、検討するに値する魅力的な概念です」。

AGIが懸念すべき存在になるのはいつ頃だろうか。それを予測するのは難しい。

[原文:Digiday’s definitive, if not exhaustive, 2023 artificial intelligence glossary]

Kimeko McCoy and Marty Swant(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:分島翔平)