円満に別れた場合は問題ないかもしれないが、そうではない場合はアカウントを悪用されたり、乗っ取られたりする可能性もある(写真:shimi /PIXTA)

「盲点だった。財産分与とかはきちんとしたのに、完全に見過ごしていた」と最近離婚したある40代男性はいう。「本当に別れるためには、財産だけでなくデジタル面での別れを忘れてはいけなかった」。

「デジタル別れ」が現代の我々に求められる理由はなぜなのだろうか。

離婚した元妻が位置情報をチェックしていた

最近離婚したというある男性は、「また飲んで朝帰りしているんじゃないの」などと元妻から嫌味なメッセージが送られてくるのがストレスだった。ズバリ行動を言い当てられていることが多く、「もう一緒に住んでいないのに、長年結婚していたらわかるものか」と考えていたという。

そうではないことがわかったのは、久しぶりに海外出張に行ってきた後のことだ。「もう彼女でもできたんじゃないでしょうね。海外なんて婚前旅行のつもり?」とメッセージが送られてきたのだ。頭を捻っているうちに思い当たることがあった。

「元妻とアプリで位置情報を共有したままでした」と男性は苦笑いする。元々、連絡がまめではなかった男性。元妻から叱られることがストレスとなり、アプリでの位置情報共有をするようになった。連絡をしなくても把握してもらえるため楽と喜んでいたそうだが、別れた後はこれが逆にストレスの原因となっていたというわけだ。

「まさか別れた後にそんなのを見るなんて思わないじゃないですか。時々チェックされていたようで、ぞっとしてしまいました。SNSにも書いていないのに何でわかるんだろう、親しい友人が元妻に告げ口しているんだろうかとまで思っていました」

家族と位置情報共有アプリで位置情報を共有していることで、連絡がなくても「まだ会社で残業しているようだ」「もうすぐ帰宅しそうだからご飯を温めよう」などと判断することができる。しかし、別れた後にこれが悪用されてしまうことがあるのだ。

10、20代を対象としたストラテの「【恋人・パートナーがいる方への質問】Zenly等の位置情報共有アプリ利用に関するアンケート」」(2021年7月)によると、全体の4分の1に当たる23.25%が「お互いに位置情報を共有している」と回答。実は、恋人など親しい間柄同士で位置情報を共有することは、珍しいことではない。

また、Kaspersky の調査(2021年11月)によると、全体の30%が「ストーカーウェアに問題を感じない」と回答している。ストーカーウェアとは、相手を監視・追跡するためのアプリであり、その多くは相手の同意を得ずに入れられている。

問題を感じない回答者のうち64%が、「パートナーが不誠実であれば自らも利用する」とも回答している。このような感覚のユーザーが一定数いることは事実であり、別れ方によっては、別れた後にも利用されてしまうのだ。
別れる時に、金銭などの財産面を分けることは忘れなくても、デジタル面での別れにまで気を使える方はそういないだろう。その結果、別れた元パートナーからの嫌がらせやストーカー行為等が起きることになる。

ストーカー被害につながる位置情報共有は必ずオフ

位置情報が共有できるアプリは多い。代表的なものが今年2月に終了が決定した「Zenly」だ。こちらは、友達から削除すればお互いに位置情報を確認できなくなる。放っておくと新しい自宅や現在地まで筒抜けなので要注意だ。

元パートナーとiPhoneなどのiOS端末を利用して位置情報を共有していた場合、「探す」Appで居場所が確認できてしまう。同アプリで相手を選び「自分の位置情報共有を停止」から共有を解除しておこう。共有のタブレットなどがあったら、そちらで確認できる可能性がある。すべての端末での設定も確認する必要があるだろう。

Android端末で現在地などの共有機能を利用していた場合は、Googleマップアプリを開き、現在地の共有から停止を選択しておこう。

その他、さまざまな位置情報共有アプリがある。利用していたものを確認し、設定から解除しておくといいだろう。

「別れた恋人にSNSアカウントのパスワードを変えられてログインできなくなった。なりすまして貶めるようなことを投稿されて困っている」という相談を受けたことがある。円満に別れた場合は問題ないかもしれないが、そうではない場合はこのようにアカウントを悪用されたり、乗っ取られたりする可能性もある。

メールアドレスを共有にしているとか、「共同アカウント」を持ち、SNSのアカウントを共同運営しているという人もいるかもしれない。その他、いざという時のためにパスワードを教えてあるとか、IDとパスワードをまとめたメモを渡してあるという人もいるだろう。そのようなパスワードは念のためすべて変更しておこう。

クラウド上のアカウントも忘れないようにしたい。iCloudやGoogleドライブなどの共有設定を確認し、必要があれば見直すといいだろう。

スマートフォンのパスワードを教えていた場合はパスワードの変更を。スマートフォンにストーカーウェアを入れられる可能性もあるので、スクリーンロックは必ずかけておこう。

銀行口座の暗証番号を教えていたり、口座やクレジットカードなどを共有していた場合も変更手続きなどをとる必要があるだろう。

恋人同士の場合は、万一のことを考えて、SNSなどのID、パスワードの共有はしないほうがよさそうだ。少なくとも、別れたら必ずパスワードの変更をしたほうがいいだろう。

IoTデバイスでストーカー、DVも

スマートスピーカーなどのIoTデバイスがストーカー被害やDVに使われていると言ったら、驚かれるだろうか。

英国のある女性は、別れた後も元パートナーが自分のプライベートをよく把握していることを感じていた。元パートナーは、女性の自宅のAmazon Echoの呼びかけ(スマホとEcho間の通話)機能を悪用していたのだ。元パートナーから着信があって呼びかけ機能がオンになると、Amazon Echoには光がつくが、女性は気づかずに家の中で普段どおり話していた。その結果、元パートナーはあらゆるプライベートを把握できる状態だったというわけだ。

その他海外では、スマートホーム端末を遠隔操作してスマートロックの番号を毎日変更したり、玄関の呼び鈴を鳴らし続けるなどの嫌がらせをされた例、同じくスマートホーム端末に不正アクセスしてカメラを通じて話しかけたり、部屋の温度を上げるなどの嫌がらせをされた例なども起きている。

スマートスピーカーなどがある場合は、アクセス権も確認しておきたい。別れた元パートナーのアクセス権はすべて外しておいたほうが安心だろう。

多くの人が利用している動画配信サービスも忘れてはいけない。Netflixなどでアカウント共有をしている人は多いだろう。Netflixでは2023年初めころより同一世帯以外でのアカウント共有は有料となることを発表している。Amazonプライムビデオ、Huluなど、契約しているサービスのパスワードは念のために変更しておこう。

お互いに相手の近況が見えることでトラブルにつながる可能性があるなら、SNSで友達関係を解除したり、フォローを外すのもいいかもしれない。最低限の連絡をとるための電話やメール、LINEなどは残して、それ以外のSNSでは距離をとるのがお互いのためかもしれない。

現代の我々は、さまざまなサービスを使って利便性を享受している。親密で信頼関係がある間は便利なのだが、関係性が壊れた後にはリスクにつながってしまう。このようなデジタル面での情報の切り分けを忘れると、思わぬトラブルにつながりかねないので注意してほしい。

(高橋 暁子 : 成蹊大学客員教授/ITジャーナリスト)