任天堂スイッチの在庫払底が、なかなか解消されない(写真:任天堂)

「『ニンテンドースイッチ』の抽選販売受付を予定しておりましたが、大変多くのお申込みアクセスを頂きお申込みを頂けない状況が発生致しました」

家電量販大手のビックカメラは4月21日、自社のオンラインストアでこう発表し、抽選販売を一旦停止した。同日10時から任天堂の家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」の抽選販売の受け付けを開始する予定だったが、アクセスが集中し、サイトのサーバーに負荷がかかってしまったのだ。

1.5〜3倍の価格で売買されるケースも

新型コロナウイルスで外出自粛要請を受けた「巣ごもり消費」の拡大で、需要が急増しているのがゲーム機だ。ゲームを主力事業にしている任天堂には予期せぬ追い風だが、国内の店頭やオンラインショップでは入手困難な状態がここ1カ月続くなど、供給が間に合っていない。

任天堂がスイッチおよび、廉価版のスイッチライトの国内向け出荷が一時的に止まったことを明らかにしたのは4月7日のこと。その1週間後の4月14日には出荷再開の見通しが立ったとしているが、実際には「供給が需要に追いつかず、店舗販売はしていない」(ビックカメラ)。同じくヨドバシカメラも「入荷数はゼロではないが、ごく僅か。入荷するとすぐ売り切れてしまうので、足元では在庫切れの状況だ」と語る。


家電量販店の店頭には、スイッチの入荷状況を知らせる掲示物が貼り出されていた(記者撮影)

外出自粛要請が出る中で、一時は購入希望者がスイッチを求めて量販店に長蛇の列を作ることが問題視された。そのため、最近は入荷分をオンライン上で抽選販売する量販店が多いが、冒頭のビックカメラのような惨事が多発しているのが現状だ。

こうした状況を受けて、フリマアプリの「メルカリ」やアマゾンでは、転売目的で購入されたと見られる新品・未開封のスイッチが、定価3万2978円(税込み)の1.5〜3倍の高値で売買されるケースが横行している。任天堂も頭を悩ませるが、「需要に対して供給が追いついていない以上は仕方がない。1日でもはやく供給量を増やすしかない」と唇を噛む。

そもそも、なぜ国内向けのスイッチの在庫が払底してしまったのだろうか。背景には、2つの要因がからんでいる。

1つ目は、スイッチの組み立てを担う台湾の鴻海、ホシデンなどの製造委託先の中国工場が、新型コロナの蔓延を受けて、稼働率の低い状態が続いていることがある。2月6日の段階で任天堂は、スイッチの本体や周辺機器などの生産、出荷の遅延が避けられない見通しであることを公表していた。

だが、それから2カ月以上継続した現在でも「フル生産からは遠い状況が続いている」(任天堂)。アメリカでもスイッチの品薄状態は発生しているが、日本よりも深刻でないのは、米中貿易摩擦の深刻化もあり、2019年6月から生産能力の一部をベトナムに移管していたことが結果的に功を奏した。

「どうぶつの森」の発売延期が影響

2つ目が、任天堂のゲーム人気シリーズ「どうぶつの森」のスイッチ版最新作「あつまれ どうぶつの森」の発売延期が拍車をかけた。どうぶつの森は当初2019年中に発売される予定だったが、2019年6月に「このゲームを最高の形で届けるため」(小泉歓晃執行役員)という理由で、2020年3月への延期が発表されていた。そこに外出自粛が重なったことで、どうぶつの森は爆発的なヒットになっている。


大ヒット中の「あつまれ どうぶつの森」。発売時期の延期が思わぬ波紋を呼んだ(写真:任天堂)

あつまれ どうぶつの森は、無人島にプレイヤーが移住し、どうぶつ達と交流しながらその暮らしを楽しむというものだ。新型コロナの影響で、実際に人と接する機会が制限される中、ゲーム内の仮想空間では他のプレイヤーや登場キャラクターと交流できることも人気に拍車をかけている。

SNS(交流サイト)のツイッターでは、中止になった結婚式やお花見をゲーム内で開催した、という投稿も見られる。こうして、発売開始からわずか10日で、3月の家庭用ゲームの売上本数では圧倒的首位となる260万本を売り上げている(ゲーム情報メディアのファミ通調べ。店頭、通販での販売本数を計上)。

人気タイトルが投入されると、それに伴いゲーム機本体の売り上げも伸びるのが一般的だ。ファミ通の調査によると、3月のスイッチの販売台数は、年末商戦期にあたる昨年12月の7割近くまで迫る83万台。1年前の3月の3倍も多く売れているという。

任天堂は在庫不足を解消すべく、足元では複数の部品メーカーに対し、「今年4〜6月期に増産に対応してもらいたい」と要請している。4月21日の一部報道によれば、任天堂は部品各社に対し、2020年度のスイッチの生産台数が、2019年度の1割増にあたる2200万台に増える見通しだと通達したという。

一方、増産で懸念されるのは、スイッチシリーズの発売開始からすでに4年目に突入していることだ。2017年3月の発売以来、毎年販売台数を伸ばしてきたスイッチだが、任天堂の過去のゲーム機の販売台数推移を見ると、4年目以降も過去最高の販売台数を更新したのは、1989年に発売されたゲームボーイくらい。2〜3年目に最高となり、その後は減少していくのが一般的だ。

2020年の年末には、ソニーの「プレイステーション」やマイクロソフト「エックスボックス」などライバルの新型ゲーム機の投入も控えている。ここでスイッチを増産して、どうぶつの森のブームが一服したあとに供給過剰となるリスクはないのか。

ゲーム業界に詳しいエース経済研究所の安田秀樹氏は「6月までの増産で在庫が積み上がるリスクはほぼない。むしろ、スマートフォン向けの需要が高まるDRAMのメモリなど、一部の部品の調達が思うようにできないことで、1割の増産が限界、というのが現実だ」と見る。

任天堂も、「増産の決定は、2020年度に発売される新作タイトルの需要なども見越したもの」と自信を見せる。2020年1月末に行われた任天堂の決算説明会で古川俊太郎社長は、「スイッチはライフサイクルの中盤」と言及しており、当面は同社の主力ゲーム機となる見通しを立てている。喫緊の課題はやはり足元の供給体制を1日でも早く立て直すことにありそうだ。

ソニーPS4も一部で品薄に

ニンテンドースイッチだけでなく、ソニーの家庭用ゲーム機「プレイステーション(PS)4」も一部の製品が品薄になっている。東京都内の家電量販店によると、緊急事態宣言が出た4月7日前後から買い求める人が増え始めた。

4月10日に人気ゲーム「ファイナルファンタジー7 リメイク」が発売になったことで、一気に品薄状態になった。卸会社によると「任天堂スイッチが買えず、替わりにPS4を、というお客様もいる」と明かす。特に2テラバイトの大容量ハードディスクドライブを搭載し、4K映像にも対応している最上位機種に人気が集まっているという。

PS4は国内生産もしているものの、主要な生産拠点は中国だ。PSを生産・販売するソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は「現時点では顕在化している問題はない」としている。


4月に入って品薄となっているPS4(写真:ソニー・インタラクティブエンターテインメント)

だが、複数の家電量販店がPS4の入荷スケジュールは読みにくくなっていると口をそろえる。ある店の店員は「(2020年の年末商戦に投入予定の)PS5を見越して生産台数を絞っているのではないか」と話す。

PS5の発売を控え、PS4本体の売り上げは減少すると踏んでいたソニーにとっては想定外だ。思いがけない特需だったとはいえ、売り上げを伸ばす機会をみすみす逃してしまった形だ。

ただ、ゲーム機本体は入手しなくてはいけないものの、ソフト販売では問題は出ていない。PS4のソフトではインターネットを通じたダウンロード版の購入がいまや主流となっているからだ。2019年10〜12月期のゲームソフト販売本数のうち、ダウンロード版が占める割合は49%にのぼった。この割合は増加傾向で、現在は50%を超えているのは確実だ。この割合はニンテンドースイッチなどと比べて圧倒的に高い(スイッチ単体では公表されていないが、任天堂のソフトのDL比率は2019年度第3四半期時点で売上高の28.6%)。

さらに、ネット対戦などのサービスを提供する「プレイステーションプラス」(月額850円〜、税込み)や、クラウド上のゲームをプレイできる「プレイステーションナウ」(月額1180円〜、税込み)といったリカーリングビジネスも順調に会員数を伸ばしている。これらは十分なネット回線があれば一切外出せずに利用することが可能だ。

注目されるPS5の動向

ソニーも問題がないわけではない。SIEのジム・ライアンCEOは3月24日のブログで「ゲームのダウンロードが遅くなったり遅れたりすることがあるかもしれない。これはすべての人がアクセスを維持するためだ」と語った。世界的にインターネットの通信量が増えており、欧米では実際にダウンロード速度の制限を行った。


コロナショックに直面した企業の最新動向を東洋経済記者がリポート。上の画像をクリックすると特集一覧にジャンプします

さらに今後の懸念は、年末商戦に投入するとされるPS5の動向だ。搭載する半導体の性能や、コントローラーなどを小出しに発表しているが、部品などの調達先はほぼ決定しているとみられる。ただ、世界同時発売をするとなると、相当の台数を発売日までに準備しなければならない。サプライチェーンの混乱から「十分な台数を供給できるのか」(部品メーカー関係者)といった懸念は尽きない。

下手を打てば、ニンテンドースイッチのように転売の横行などを招きかねず、複雑な舵取りが求められる。