「SUN」のひと皿

 ナポリタンを食べつづけて50年。「1日1食はナポリタンを食べる生活を続けてきた」と語るのは、ライターの下関マグロ氏。

「よく炒められた太麺に焦げたケチャップの香り……。幼いころは、お子様ランチのつけあわせをもっと食べたいと思ったものです。青春時代も、ナポリタンはごちそうでした。

 しかし1980年代、時代がバブルに向かい、本場のイタリア料理が上陸。イタメシブームが巻き起こりますが、イタリアンのメニューにナポリタンなぞありませんでした。

 それどころか、偽物料理扱いをする風潮が強まりました。ラーメンは日本で独自の進化を遂げた料理と持て囃されていましたが、ナポリタンは “昭和の遺物” 扱いされていました」(下関マグロ氏、以下同)

 しかしその後、状況が変わった。

「昭和ブームでレトロな純喫茶に女性客が集い、老舗の洋食店は外国人観光客でいっぱいです。主役ではないかもしれませんが、令和の現在には、たしかにナポリタンの居場所があるのです。

 再ブームの火つけ役となったのが、『ロメスパ』です。『路傍の麺→路麺→ロメ』と縮まったもので、(1)極太麺(2)茹で置きした麺を炒める(3)大盛り可能という条件があります」

 大手町の『リトル小岩井』や、有楽町の『ジャポネ』の大行列をご存じの方も多いでしょう。いまは、関谷スパゲティなど、茹でたての麺を使用する進化型も登場し、目が離せません」

 どんな店がうまいのか。

「ナポリタンには決まったレシピがなく、『いつ生まれ、なぜナポリタンと呼ばれるのか』も謎に包まれています。そして、近所にある、なんでもない店がうまいんです。

 僕も、さんざん食べ歩いて、ベストだと思った店は自宅から徒歩8分の「SUN」でした。懐かしいけれど、新しさも感じる進化系ナポリタン。麺は噛み応えあるアルデンテ。茹で上げてから、扇風機で乾かすそうです。無料で刻みニンニクのトッピングができ、劇的に味が変わります。

 きっと、あなたの身近にも、究極のナポリタンがあるはずです」

【SHOP DATA/SUN(東京・入谷)】
・メニュー/なぽりたん(650円、税込み)
・住所/東京都台東区下谷2-3-16
・営業時間/10:00〜15:00、16:00〜23:00 
・休み/日曜、連休の祝日

 次のページでは、下関マグロ氏に聞いたナポリタンの歴史と、「変わり種」の名店を紹介する

下関マグロ氏

【ナポリタン名店145年史】
《黎明期》
・1874:新潟で、日本初のイタリア料理店「イタリア軒」開店
・1897:東京・新橋の「東洋軒(現・三重県津市)」が日本で初めてパスタ料理をメニューにする
・1921:東京・銀座の「煉瓦亭」に「イタリアン」というメニューが記載
・1934:神奈川・横浜の「ホテルニューグランド」のメニューに「Spaghetti Napolitaine」が記載
・1937:雑誌『婦人之友』に、うどんを使った「スパケテナポリタン」が掲載される

《隆盛期》
・1946:横浜で「センターグリル」が開業。当時から、ナポリタンを提供していたといわれる
・1953:スパゲティの専門店「壁の穴」が東京・田村町(西新橋)に開店。のちに、たらこスパなどオリジナルメニューを続々開発
・1967:“元祖ロメスパ”「ハングリータイガー」が虎ノ門に開店
・1970:「すかいらーく1号店」が東京・府中市に開店。ナポリタンもメニューにあった
・1973:行列のロメスパ「リトル小岩井」が東京・大手町にオープン

《冬の時代》
・1978:イタリアンのチェーン店「イタリアントマト」「カプリチョーザ」が創業
・1979:「あるでん亭」が東京・新宿にオープン。茹で上げの本格スパゲティで人気に
・1980:「カフェ ラ・ボエム」が東京・原宿に開店。ロメスパの雄「ジャポネ」がリトル小岩井から独立し、東京・有楽町に開店
・1985:原宿に「パスタ・パスタ(初代料理長は山田宏巳シェフ)」が開店
・1997:落合務シェフが「ラ・ベットラ」を開店

《再び脚光》
・2003ごろ:ロメスパが、ネットで話題になる
・2009:「スパゲッティーのパンチョ1号店(渋谷店)」が開店
・2013:「関谷スパゲティ」が東京・中目黒にオープン
・2013 NHK朝ドラ『あまちゃん』で、主人公アキの母・春子(小泉今日子)が、「ナポリタンはアバズレの食べ物」と発言。視聴者の、思春期の喫茶店での記憶を呼び覚まし、大きな話題を呼ぶ
・2016:ロメスパの名店、東京・早稲田の「キッチンエルム」が閉店
・2018 ロメスパの名店、新橋の「喫茶室POWA(ポワ)」「サンマルコ」が閉店。ブームは続く一方、店主の高齢化や後継者不足にも直面している

【「変わり種ナポリタン」の登場】
 日本独自のナポリタンは、ほかの麺料理をのみ込んで、さらなる進化を遂げていた。「廣栄屋」は、うどんを使って立派なご飯のおかずに。「島」はランチョンミートと沖縄そばを使い、つまみや〆メニューに。しっかりとメニューの一角を占めているのだ。

【SHOP DATA/そば処 廣栄屋(東京・蓮沼)】
・メニュー/ナポリタンうどん定食(950円、税込み)
・住所/東京都大田区東矢口1-17-14
・営業時間/11:00〜21:00
・休み/不定休

【SHOP DATA/沖縄料理 島(東京・飯田橋)】
・メニュー/チーズナポリタン(850円、税込み)
・住所/東京都千代田区富士見2-4-7
・営業時間/11:30〜13:45、17:00〜23:00(土曜は17:00〜22:00)
・休み/日曜、祝日

取材&写真・下関マグロ/しものせきまぐろ
1958年生まれ ナポリタンをひたすら食べ歩き『ぶらナポ 究極のナポリタンを求めて』(駒草出版)を刊行

(週刊FLASH 2020年1月21日号)