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■ボウリング場やパチンコ店がドンキに

「驚安の殿堂」というキャッチフレーズや「ペンギン」のマスコットキャラクターで、今やすっかりお馴染みとなったディスカウントストア「ドン・キホーテ」(以下ドンキ)。店頭に破格値で山積みされた商品に、ビックリした人も多いだろう。最近では、かつて知った店舗が潰れると次々とドンキに生まれ変わって、またもやわれわれを驚かせている。

ドンキの勢いは小売業界でも群を抜いている。第1号店をオープンした1989年以来、28期連続で増収増益を達成。現在、全国に約400店舗を展開するまでに成長した。2020年には売上高を1兆円、店舗数を500店舗まで増やす目標であり、増収増益には出店攻勢が寄与していると言えよう。

ドンキの出店は、ほかの店舗が撤退した跡地を再利用する「居抜き出店」が基本だ。新店を建設するのに比べて、初期投資が格段に安く済む。中心は、GMS(総合スーパー)跡地。かつて流通業界をリードしたGMSは、消費の成熟化などに伴って顧客からの支持を失い、衰退の一途をたどっている。業績が悪化し、閉鎖する店舗が出現すると、そこに新興勢力のドンキが取って代わっていった。

ドンキがユニークなのは、GMSに留まらず、家電量販店、パチンコ店、ボウリング場など、多様な店舗に進出しているところだ。ドンキは、MEGAドン・キホーテ(売り場面積8000〜1万平方メートル)、NewMEGAドン・キホーテ(同3000〜5000平方メートル)、ドン・キホーテ(同1000〜3000平方メートル)、ピカソやエキドンキなどの小型店(同300〜1000平方メートル)といった、さまざまな店舗業態を揃えているため、どんな店舗の跡地にも対応できる。とりわけ、07年に長崎屋のGMSを傘下に収め、大型店や食品売り場の運営ノウハウを取得したことで、手がける業態の幅が広がった。大手小売業では通常、チェーンオペレーションを効率化するため、店舗業態を絞り込んでおり、売り場のレイアウトや棚割りまでフォーマットが決まっていることが多い。ところが、ドンキはフォーマットがきっちりとは決まっていないので、ワンフロアでも多層階でも、「L字形」のような変形フロアでも、自由自在に出店できる。

またドンキには、スムーズに居抜き出店するための秘策がある。それが「ソリューション出店」だ。文字どおり「問題解決のための出店」という意味で、狙いをつけるのは、まだ営業している赤字店である。

創業者・安田隆夫氏の著作には次のような一節がある。創業当時、有望な敷地をなかなか入手できなかった安田氏は、業界新聞で大手GMS系資本の外食チェーンの店舗リストラ策の記事を読む。そこで本部に飛び込みで訪問し、店舗開発部長に「退店予定物件があれば、ぜひウチに任せてくれませんか」と持ちかけたという。

業績不振に悩む店舗は、すぐにでも撤退したくても、地主との賃借契約が長期間残っていると、違約金などの問題もあって簡単には閉店できない。一方、地主としても、空き店舗になってしまうと賃料が入らなくなるので困る。そこで、ドンキが「身代わりに出店する」ことを持ちかけるのだ。ドンキとしても、通常の居抜き出店よりもさらに好条件で入居でき、初期投資を大幅に減らせる。

■ユニーへの出資で、出店攻勢が加速か

ドンキの出店が加速している理由としては、17年8月にユニー・ファミリーマートHDと資本・業務提携したことも大きい。ユニー・ファミリーマートHDにとってはユニーの大型店事業が重荷になっていたが、再建の切り札としてドンキHDがユニーに40%を出資し、GMS約200店舗の一部をドンキに転換するプランが示された。手始めに、18年に6店舗をMEGAドンキにリニューアルしたところ、業績が急回復したという。店舗を運営しているのはユニーの社員だが、総店長以下、店舗の幹部スタッフとしてドンキの社員が進駐し、ドンキの商法を手取り足取り伝授している。

ドンキの強さは、何といっても圧倒的な集客力にある。増収増益を支えているのは、実は大量出店だけではない。月次の既存店売上高も14年7月以降、消費増税の駆け込み需要の反動があった15年3月などわずか2カ月を除いて、すべて前年をクリアしているのだ。顧客からどれほど支持されているかがわかるだろう。

ドンキの集客力の源泉は、(1)個店経営、(2)深夜営業、(3)スポット商品、(4)圧縮陳列の4つだ。

ドンキは、チェーンストアでありながら、商品仕入れの権限を店長に大胆に委譲し、個店経営を貫いている。成果主義も徹底しており、店長は自店の業績がよければ、1000万円の年収も夢ではないが、業績が悪ければ、降格もやむなしという厳しさだ。それゆえ、売り場づくりや品揃えは、店長の考えがダイレクトに反映され、店舗ごとに全く異なる。店によっては値札に競合店の名前や価格まで入れて自店の安さを訴求するなど、えげつないアピールも厭わない。また、大型店が手薄なナイトマーケットにも強く、インバウンドの観光客に「夜の遊び場」を提供する役割も果たしている。

そして、アウトレットの服飾雑貨、賞味期限切れ寸前の食品などタダ同然で仕入れた「スポット商品」を、叩き売りするのも得意だ。スポット商品は全体の約40%を占め、そうした目玉商品が、商品を所狭しと並べる「圧縮陳列」で売り場のあちこちに集積されているので、商品選びには宝探しのような楽しさがある。近年のGMSが失った、客を1階から上階へと吸い上げる力を持っていると言えよう。

個店経営や圧縮陳列には手間がかかるので、店舗運営コストは高いはずだが、営業利益率は近年5%以上を維持しており、小売業界では優等生ともいえる高さ。それはスポット商品の粗利益率が高いことにくわえ、納入業者が積極的に店舗運営をサポートしている背景もある。いざというときに余剰商品を仕入れ、売り切ってくれるドンキを、サプライヤーも頼りにしている。ダイエー創業者の中内功氏は、かつて「売り上げはすべてを癒す」という言葉を残したが、まさに今のドンキがそれを体現しているのではないだろうか。

■今後の出店を左右するのは「人材」

ドンキは、流通業界では独特のカルチャーを持っているので、ほかの小売業は簡単には模倣も、追いつくこともできないだろう。したがって、ドンキの一人勝ちは当面続くと考えられる。とはいえ、ドンキの大量出店が今後も続くかといえば、それは不透明だ。

これまで背に腹は代えられず、ドンキのソリューション出店を受け入れてきた流通業界にも、ドンキの勢力拡大に警戒心が広がっており、店舗を譲らない小売業もあると聞く。ユニーの200店舗も、ドンキに転換される店舗は限られるだろう。ドンキは、若年層が多いエリアや深夜営業ができる繁華街、車で来店できる利便性の高い立地を好むが、ユニーの既存店は必ずしもそうした条件に当てはまらないからだ。また、GMSよりも大きなショッピングセンター(SC)などの超大型店の居抜き物件が出ることも予想されるが、ドンキにはテナントを運営するノウハウがないため、今のところ出店は難しいだろう。

店舗の建物があっても、運営するスタッフがいなければ、出店はできない。ドンキ流の個店経営や圧縮陳列は、一朝一夕では身につかないため、人材の育成には時間がかかる。創業者の安田氏は、「胆力」を示す言葉として「はらわた」という表現を好んで使った。小売業界の人手不足がますます深刻化する中、「はらわた」を備えたスタッフをどれだけ確保できるかが、今後の出店戦略を左右するに違いない。

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栗田晴彦(くりた・はるひこ)
流通情報誌「激流」編集長
1971年、国際商業出版入社。セミナー企画、単行本制作を経て、80年、「国際商業」編集部。85年、流通情報誌「激流」編集部。90年、「激流」編集長。2001年、代表取締役に就任。

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(流通情報誌「激流」編集長 栗田 晴彦 構成=野澤正毅 写真=iStock.com)