小池龍之介1978年、大阪府生まれ。山口県立山口高校、東京大学教養学部卒。月読寺(鎌倉市)、正現寺(山口市)で住職を務める。2003年から07年まで寺とカフェを融合した「iede cafe」を展開。著書に『考えない練習』『偽善入門』『しない生活』など。

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鎌倉に、お経を唱えず、葬儀・法要にかかわらないという異色の僧侶がいる。東京大学教養学部を卒業後、僧侶になった小池龍之介さんだ。小池さんが住職を務める「月読寺」(つくよみじ)には、週末になると多くのビジネスパーソンが「悩み相談」に集まる。今回、将来への不安、キャリア、人間関係という代表的な3つの悩みについて、解決法を聞いた――。

■将来への不安

悩み1
今の仕事がつまらないです。
誰にでもできる気がして、このままでいいのか不安です。

▼小池龍之介の回答

私のところに相談に来られる方で最も多い相談が、将来への漠然とした不安についてです。お金やキャリア、家庭のことなど内容は多岐にわたります。

何か不安になることがあるときに意識するべきは「今」に集中することです。今おかれている状況や心の状態を客観視するのです。誰かに話を聞いてもらったらスッキリしますよね。同様に、自分で自分の心の声を聞き取ってあげるのです。

そもそも将来がどうなるかなんて誰にもわかりません。「今」と「将来」で、実在しているのは「今」だけ。「将来」に対する不安とは実在せず、脳が勝手につくった妄想にすぎません。

「今」の状態を知る際、まずは自分の脳が「快」もしくは「不快」のどちらと認識しているかを知りましょう。

将来を不安に感じたときに、もちろん脳の状態は「不快」になっています。そこで、自分が持っていた不安は脳が勝手につくった妄想で、現実じゃない、といい聞かせるのです。

自分の脳の状態を客観視してあげることで、心も解放されていくはずです。

悩み2
AI(人工知能)導入で社員を減らすという話や、北朝鮮が核ミサイルを準備しているなど、ニュースを見ていると不安になる一方です。

▼小池龍之介の回答

たしかにAIの進化によって、仕事の内容は変わるかもしれません。自動化が進み、単純な作業や仕事はなくなっていく可能性は高いです。

ただこれも、先ほどお話ししたように将来への不安ですよね。AIの発達に限らず、とにかく「今」目の前にある現実に起こっていることへの対応に専念するべきです。ムダなことやイヤなことはやめましょう。

たとえば最近よく耳にする北朝鮮が核ミサイルを撃ってくるかもという話も、「今」起こっていることではなく、将来を脳が勝手に予測して、自分のなかで心配しているにすぎないのです。実際に起こってもいないことを心配してもしょうがありません。もし、実際にミサイルが飛んできたとしても、飛んできて身の回りに変化が起こってから考えればいいのです。

「今」に集中できない人は、周りに影響されやすく変化に弱いともいえます。ですから、まずは今できることに集中し、ベストを尽くす。そうすれば、結果がついてきて、その結果を積み重ねることで、外的な変化にも対応できるようになっていけるはずです。

■キャリアの悩み

悩み3
同期が先に昇進しました。
私のほうが、仕事ができると思っていたのに、許せません。

▼小池龍之介の回答

理想の自己イメージに振り回されてしまっていますね。これを私は「プライドの煩悩」と呼んでいます。人は心の底で「自分は評価に値する人間に違いない」というプライドを持っています。

プライドの煩悩は他人からの評価に過敏に反応するもの。あなたは同期の昇進の話を聞いて「こんなはずじゃないのに」と落ち込んでいますよね。先ほどのように、今の脳の状態を考えてみましょう。

おそらく、同期の昇進を聞いたあなたの脳は「不快」になっているはずです。そこからもう1歩、「不快」な感情を分類してみましょう。

不快な感情は「欲求の状態」「イライラする状態」「モヤモヤする状態」の3つに分けられます。仏教でいうと「貪(とん)」「瞋(しん)」「痴(ち)」。

ああ、自分は評価を欲しているんだなとか、以前のように評価が得られないからイライラしているんだなとか、もう自分は昇進できないと思ってモヤモヤしているんだな、と分類してみてください。

自分の不快の正体がわかれば冷静になることができ、解決の糸口も見つかるはずです。

悩み4
転職しようか悩んでいます。エージェントから
魅力的な条件の会社を勧められました。少し心が揺らいでいます。

▼小池龍之介の回答

私のところへは転職の悩みを相談に来られる方も多いです。転職で気をつけなければいけないのは転職の目的は何かを知ることです。

転職は新天地を求める行為。ですが多くの人は、今と同じ業種や職種を探してしまいがちです。それは「今の仕事を選んだことは正しかった」と思いたいからなんですよね。似たような仕事であれば失敗のリスクも少なく、自分は間違っていないと思うことができるから。これを「正しさの煩悩」といいます。

正しさの煩悩に囚われて安易に結論を出さず、もっと多くの選択肢を検討するほうがよいのではないでしょうか。新天地は、「没頭できるかどうか」を基準に探してみましょう。やりがいや充実感を得るためには、何かに没頭するのが1番です。

没頭できるものは仕事で探すのがいいです。なぜなら働くことはほかの行動に比べ、社会的承認を得られやすいから。人は、誰からも承認されないことを長く続けられるほど強くはありません。自分が没頭できるような適職に出合えれば、煩悩から解放され充実感を得ることができるでしょう。

■人間関係の悩み

悩み5
部下や若手社員が、なかなか成長してくれません。
どうしたらいいでしょうか。

▼小池龍之介の回答

まず理解しなければいけないのは、私たちはみな「支配欲」を持っているということ。そのため、自分が指導しても思い通りに動かない部下に「なぜ私のいうことを聞かないんだ」とイライラする感情を持ってしまうわけです。

指導する真の目的は部下や後輩を「成長させること」なのに、いつのまにか相手を思い通りに「支配すること」が目的になってしまっているんですね。こういうときはいったん指導するのをやめ、何もしないことです。

これまでああだこうだと口うるさくいわれ続けて、後輩はあなたに対して不満を抱いているはず。その状態で指導を続けても、お互いにストレスがかかり、誰も幸せになりません。たとえ部下が失敗しても叱責せずに、まずは「そうだったんだね」と受け止めてあげる。すると部下は安心しますし、あなたへの信頼も回復へ向かう。部下との信頼関係が構築できたらようやく次のステップに進めるのです。若手なのだから向こうからやる気を見せてほしいという方もいます。その思考も支配欲の1つです。人が変わってくれるなんて考えないことです。

悩み6
インスタグラムで「いいね!」が欲しくて、
時間があれば投稿できる写真を探している自分に、疲れてきました。

▼小池龍之介の回答

人がスマホを何度も見たいと思うのは、脳が以前に「いいね!」で得た快さを再現したいと思っているから。

ただ、認識しないといけないのは、SNSの「いいね!」は実体として存在しないということです。本来ないものを求めていることに気付ければ、徐々にSNSやスマホがどうでもよくなるでしょう。

そもそもSNSで誰かと繋がる行動は、人と繋がりたいという寂しさがあるという証拠。日々忙しく過ごしている人は、実は自分が寂しいのだということをほとんど自覚していません。

自分は立派な社会人だという自負がありますから、寂しさを振り返ることはありません。ただ人は寂しいと本能的に誰かの反応が欲しくなります。そこでSNSに熱中するわけです。

しかし自分でも自覚できていない感情が、誰かに理解してもらえるでしょうか。それよりも、自分で自分の寂しさを聞いてあげるほうが効果的です。「スマホばっかり見てはダメだ」と思うのではなく「自分のなかの寂しさに囚われているんだね」と理解してあげる。そうすれば、寂しさも和らぐはずです。

(月読寺住職兼正現寺住職 小池 龍之介 構成=井澤 梓 撮影=的野弘路)