Pレンジはシフトレバーのポジションのひとつでブレーキではない

 AT車の取扱説明書を見ると、「車両を離れるときは、セレクトレバーをP位置にしたあとパーキングブレーキをかける」と必ず明記されている。しかし、AT車のギヤには駐車時に使うPレンジがある。このPレンジに入れておけば、パーキングブレーキ(サイドブレーキ)を併用しなくてもいいのでは……と思っている人がいるかもしれないが、それは2つの理由でNGだ。

 第一の理由は、Pレンジがそれほど頼りになる駐車システムではないため。Pレンジは、シフトレバー(セレクトレバー)のポジションのひとつなのでブレーキではない。これはシフトレバーにあることからもわかるとおり、ミッションを操作する部分であり、Pレンジに入れると、トランスミッションのギヤが固定される仕組みになっている。

 構造的には、Pレンジに入れるとトランスミッション内部の歯車に、爪状の部品(パーキングロックポール)が引っかかって、ギヤが固定されクルマが動かないようになる。したがって、Pレンジでもブレーキがわりになる気もするが、じつはPレンジはそれほどタフにはできていない。

 パーキングロックポールでロックする歯車は、それほど大きくはないし、爪が引っかかっているだけなので、たとえば駐車中に追突されたりして強い力がかかると、爪が外れたり折れたりする可能性が大いにある(そもそも、クルマが動いているときにパーキングロックポールが歯車に噛むと、ロック機構が壊れるので、時速5キロ以上では固定されないよう安全機能が働いてしまう)。

 そうなると、クルマはニュートラル+ノーブレーキの状態と同じなので、何かにぶつかるまで動き続けることに……。とくに斜度のあるところではリスクが高い。

 一方、パーキングブレーキは外部からクルマに大きな力がかかったとしても、一定の制動力は維持できるので、クルマを止めておくという意味では、はるかに信頼性がある。事実、MT車はほとんどの場合、駐車中はパーキングブレーキだけで止まっているぐらいだ(坂道では、ギアをローか、バックに入れておく)。

最悪7年以下の懲役もしくは禁錮又は100万円以下の罰金

 第二の理由は、道路交通法に抵触するため。道路交通法には「運転者が車を離れるときの義務」として、「車両等を離れるときは、その原動機をとめ、完全にブレーキをかける等当該車両等が停止の状態を保つため必要な措置を講ずること」(第71条-5)と書かれている。

 繰り返しになるが、Pレンジはブレーキではないので、上記の条件をクリアしているとは言い難い。これを怠って、駐車中のクルマが動き出して、人を死傷させた場合は「過失運転致死傷罪」となり、運転者は、7年以下の懲役もしくは禁錮又は100万円以下の罰金に処せられるので責任は重いということを覚えておこう。

 例外として、寒冷地ではパーキングブレーキのワイヤーの凍結を防ぐために、パーキングブレーキを引かずに、Pレンジ+輪止めが基本になる。

 というわけで、AT車は駐車時にPレンジとパーキングブレーキを併用するのが大前提。最近は手動レバー式のパーキングブレーキの代わりに、ペダル式パーキングブレーキや電動パーキングブレーキのクルマも増えてきているが、そうしたクルマでもサイドブレーキ(パーキングブレーキ)とPレンジをわざわざ併用するのは面倒。Pレンジだけで十分という人は、他の運転操作だってかなり面倒なので、クルマの運転には向いていないのでは?

 いずれにせよ、駐車時はPレンジを過信せずに、必ずPレンジとサイドブレーキを両方使うこと。なお、操作の手順は、Pレンジ → サイドブレーキが基本だ。