早稲田大学文学学術院のウェブサイト。

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早稲田大学文学学術院の現代文芸コースに通っていた元大学院生の女性が、渡部直己教授から「おれの女になれ」と言われるなどのハラスメントを受けた問題で、女性から相談を受けた女性教員がプレジデントオンラインの取材に応じた。女性教員は別の男性教員から「どこで誰に何を言うかはよく考えたほうがいい」と口止めを受けていたことを明かした。「セクハラ疑惑」の第2弾をお届けする――。

■「どこで誰に何を言うかはよく考えたほうがいい」

被害女性が早稲田大学のハラスメント防止室に提出した「苦情申立書」によると、女性は渡部直己教授からハラスメントを受けた後、コースの主任だった男性教授に相談を持ちかけたが、「現代文芸コースがつぶされてしまうかもしれないので、口外しないでほしい」と口止めを受けたという。

一方で、早大の女性教員によると、このコース主任だった男性教授とは別の男性教員も、この問題を事前に把握し、周囲に口止めを求めていたことがわかった。

早大の女性教員は、渡部教授のハラスメントを以前から問題視しており、周囲に注意を呼びかけていた。そして被害女性から相談を受けたあと、女性教員は男性教員から「どこで誰に何を言うかはよく考えたほうがいい」といわれたという。

女性教員は6月18日、プレジデントオンラインの取材に対し、次のように答えた。

■「これは『一発アウトだな』と思いました」

――元大学院生の女性が渡部教授からハラスメントを受けていたことは知っていたのか。

「私がハラスメント事案を知ったのは、2017年の4月下旬です。授業の帰り道で彼女と一緒になり、彼女から『渡部教授から、俺の女になれ、と言われた」と明かされました。彼女の話をよく聞くと、これは『一発アウトだな』と思いました。彼女に対しては『教授を辞めさせることもできると思うけど、あなたはどうしたい?』とは伝えました。すると彼女は『渡部ゼミから違うゼミに移動させてほしい』と言ってきました」

「その時の私は、教授を辞めさせたいと言わなかったことを根拠に『可能な限り穏便にすませたいのだな』と彼女の気持ちを読み間違えてしまいました。せっかく私を頼って相談してきてくれたのに、どうしてその時にちゃんと気づいてあげられなかったのか、とても悔やんでいます。彼女には本当に申し訳なく思います」

■渡部教授と近く『早稲田文学』の制作にも関与

――女性のその後の様子は。

「それが……。その後、彼女とはこの件ついてほとんど話していませんでした。彼女の希望通りにゼミが変わり、てっきり上手くいっているものだと思い込んでいました。事態がここまで深刻だったと気づいたのは、彼女が苦情申立書を大学に提出した直後です」

――男性教員とはどういう人物か。

「文化構想学部の人です。渡部教授との距離が近い方で、『早稲田文学』の制作にも携わっています」

――男性教員にどんなことを言われたのか。

「昨年の11月18日でした。キャンパス内で作業をしていたら、男性教員がひょっこりやってきて『いまちょっといい? 研究室にきてくれる?』と呼び出されました。研究室に入ると、『あなた、渡部さんがセクハラしていること、外の人に話していない?』と切りだされました」

「私はたしかに、渡部教授が女子学生を困らせがちであることを、飲み会の席などでしゃべっていました。大学が教員のセクハラについて、もっと啓発してくれればいいのですが、そういうわけでもないので……。いわゆる草の根運動のつもりで、渡部教授の話をして、周囲に注意を促していました」

■「一種の口止めなのだろうと感じました」

――渡部教授はハラスメントをしていたのか。

「私が直接関わったのは、今回の女性の件が初めてです。ただ、過去に、彼女とは別の学生が渡部教授にセクハラを受けていたという話を間接的に聞いたことはあります。だから、私は男性教員に『でも、本当のことです』と伝えました」

「すると相手は『そう言われちゃうとあなたの目を見て話せないんだよなぁ』と。つまり、そんな正論を言うなよ、という意味なのかなと感じました。それに続く形で、『あなたが考えたうえで話しているなら、僕は何も言えないけど、そうじゃないならやめたほうがいいよ』と言われました。話の流れからいって、これをアドバイスと受け取ることはできませんでした。一種の口止めなのだろうと感じました」

■「渡部教授の魅力は学生とよくつるむこと」

――“口止めされた”と感じたあとは何を話したのか。

「そのあとは『あなたにはわからないかもしれないが、(セクハラ被害を受けた)女性にもよくないところがある』『渡部教授にセクハラされる学生には自分から近寄っているという部分もある』『渡部教授の魅力は学生とよくつるむこと。彼から何もかも奪ったら、彼の魅力がなくなってしまうのではないか』と言われました」

「私は『学生と楽しく飲むことと、渡部教授がその女性にしたことは違うのでは』と指摘しましたが、相手は『うーん』と黙りこんでしまいました。無理な要求をしていることはわかっているけど、察してくれ、忖度してくれと言いたいのだろう、そんな印象を受けました」

――その時、何を思ったか。

「私は被害を受けた女性については、ゼミも無事に移動できて、万事順調にいっているものだと当時は勘違いしていました。ですからこの先生は、もう片付いたはずの事案について、随分と慎重な対応をする人だなと感じました。あとから、問題がほとんど片付いていなかったということがわかり、愕然としました」

■学生ファーストではなく、大学ファーストな体質

――女性はハラスメントについて現代文芸コースの主任だった男性教授に相談したが、「コースの外の人に口外するな」と対応されたとの証言がある。この男性教員は、元主任の男性教授にもなんらかの指示を出していたのか。

「それはわかりません」

――女性は早稲田大学のハラスメント防止室に駆け込んだが、そこでもつらい思いをしたと主張している。教員からみて大学の対応についてどう思うか。

「被害女性にしっかり寄り添えなかった私がこのようなことを言える立場にはないのですが、学生に対するケアがまだまだ足りないと感じます。過去にも、とある教授がセクハラ事案で辞職するということがありました。防止室の調査が始まるとすぐその教授の授業は休講になりましたが、学生は何があったのか、なぜ休講なのかをなかなか教えてもらえませんでした。結局、学生が大学側に説明会の開催を求めるまで、何の動きもなかったんです。その時から、学生ファーストではなく、大学ファーストな体質があまり変わっていないのではないかと不安に思い続けています。私が草の根運動的なことをせざるを得ないと考えるようになったのには、そうした背景があります」

■「ここまで成長できたのは渡部先生のおかげ」

女性教員は、昨年11月、男性教員との面会直後に一連のやりとりを知人に報告している。プレジデントオンラインがメッセージアプリの送信記録を確認したところ、「男性教員に呼び出され、渡部教授のことを外に話すときは気をつけるようにいわれた」などと書かれたメッセージが残っていた。

また、被害を受けた女性が大学のハラスメント防止室に提出した「苦情申立書」によると、男性教員は今年1月、教員と学生の懇親会に出席していた被害女性に対して、「君がここまで成長できたのは渡部先生のおかげなんだからちゃんとお礼を言ってあげて。もうおじいちゃんなんだから」などと発言したという。

男性教員は6月20日、プレジデントオンラインの取材に対し、次のように答えた。

■「一教員として、彼女の現状をとても心配しています」

――渡部教授のハラスメントに関し、教員に対して口止めを指示したか。

「いろいろお話したいが、今は大学広報に対応を一本化しているため、個別には対応できません」

――被害女性に対しては今年1月に「渡部教授にお礼をいいなさい」などと発言したのか

「その場で彼女と会話はしたが、内容については、同様の理由でお答えできません」

――コースの主任だった男性教授には口止めを指示したか

「お答えできません」

――被害女性に対して今、何か思うことは

「一教員として、彼女の現状をとても心配しています」

■早大は「一部報道について」とリリース

6月20日、プレジデントオンラインが渡部教授の「セクハラ疑惑」を報じた後、早稲田大学は「一部報道について」というニュースリリースを出した。内容は以下の通りだ。

一部メディアにおいて、本学教授によるセクシャル・ハラスメントに関する報道がされております。報道内容が事実であるとすれば、誠に遺憾です。本件につきまして、本学では調査委員会を設置し、事実確認を進めております。事実確認を踏まえ、厳正に対処する所存です。
また、当該報道において、本学ハラスメント防止室の対応についての記述がございました。本学としましては、ハラスメント防止に関する基本ポリシーのもと、所定の手続きに沿って対応しております。しかし、今回のご指摘を真摯に受け止め、今後のあり方についても慎重に検討を進めてまいります。
2018年6月20日
早稲田大学

プレジデントオンラインでは引き続きこの問題を報じていく。

(プレジデント編集部 鈴木 聖也)