深刻な不正が行われた。これからどれほど拡大するかは別にして、社会制度そのものに打撃を与えた。日本社会の現状は「モラル」の低下が叫ばれてきたが、この事件は、いよいよ社会の基盤「品質保証」に打撃を与えたと言って良い。

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 神戸製鋼は、2016年9月〜2017年8月に生産したアルミ製品(板、押し出し品)約1万9,300t、銅製品約2,200tでデータ改ざんをしたと発表。全アルミ・銅製品の約4%に当たるという。調査期間は1年間とされているが、10年以上前から組織ぐるみで行われていたとの情報もある。調査が進むと膨大な量となることも考えられる。またその神戸製鋼の体質から、他の製品にも及ぶ可能性も考えておかねばなるまい。

 救いなのは、現段階ではアルミの板、押し出し品となっていることだ。アルミや銅の板などの製品は自動車部品では、おおむね強度の必要な部材には使われてはいない。しかし、押し出し部材の使われ方は不明だ。サスペンションアーム、エンジンブロック、ミッションケースなどはアルミ鋳物であり、これら強度の必要な鋳物製品に、どのように関わってるのかを至急知りたいものだ。

 最近の自動車では「軽量化」が進めれれてきており、アルミ製品の使用は拡大する方向にある。板材、型鋼などは比較的強度を必要としない部品、例えばボンネット、トランクなどに使われてきた。アルミ鋳物製品は強度の必要な部品もあるが、板材であれば直接、あるいはすぐに強度不足に陥ることはないだろう。

■「投資効率」最優先の社会がもたらしたもの?

 日産自動車の「無資格者に新車検査を行わせる」などの不良を合わせると、社会の基盤である「品質保証」が揺らぎ始めた。これはアコーディア・ゴルフなどに見られた、「ゴルフ場のメンテナンスの手抜き」などとは違って危険が及ぶ問題であり、「モラルが低い」では済まされない問題となってきた。

 日産自動車の問題で懸念されるのは、「資金効率」が叫ばれる中で「造り方」に経営者の関心がなく、「経営技術」に「品質保証」の概念が抜けてきたことが懸念される。アメリカファンドの経営の中でも、「ハゲタカファンド」と呼ばれる「資金効率」と言うよりは「投資効率」最優先の姿勢が目立ち、日本社会の中でも「投資効率」一辺倒の「金融技術のみ」で経営が成り立つような誤解が、経営者の中に育ってしまったようだ。

 「工業化社会」との見方だけでなく、「文明社会」の基礎的骨格は「品質保証」で成り立っている。この信頼関係が崩れると、社会制度は成り立たなくなる。近年、コーポレート・ガバナンス、コンプライアンスが問題とされるようになったのも、「社会のモラルの低下」が感じられるようになったからだ。ブラック企業、電通、アコーディア・ゴルフなど、社会全体の順法が崩れていく様に、危機感が湧く。

■「社会のモラルの低下」をもたらしたのは行政機関か?

 このような「モラルの低下」をもたらしたのは、何であろうか?その始まりは「役所」「官僚」であるように思えてならない。「隠蔽」を堂々と国会答弁で行うさまは、まるで詐欺会社の対応のようだ。社会全体に及んできた「モラルの低下」を防ぐ手立てがあるとすれば、「QCサークル」、つまり組織の作り方、運用技術である。日産自動車は「投資効率」を求める経営陣に対して、「品質の充実」を訴える労働組合のような組織的動きはあるのであろうか?

 役所には「QCサークル」はあるまい。郵政民営化で導入された「トヨタのカイゼン」を他の行政機関にも取り入れるべき時である。これは極めて深刻で、国際的に日本製品の信頼が揺らいでしまうと、日本経済全体の大打撃となる恐れがある。