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年金の受給開始を原則通り65歳にするか、それとも遅らせるか――。この選択ひとつで、老後に受け取れる総額は大きく変わります。受給を遅らせる「繰下げ受給」を使えば、最大184%の増額となり、人生後半の強力なキャッシュフローとなります。しかし、制度を正しく理解しないまま手続きしてしまうと、もらえるはずだった手当をフイにしてしまうことも。本記事では、福地健氏が監修を務めた『いちからわかる!定年前後のお金と手続き 得する働き方・暮らし方ガイド 2026-2027年最新版』(インプレス)より、年金の繰下げ受給についてくわしく解説します。

75歳まで受給繰下げで年金額は184%に増額

公的年金の受給開始は、原則65歳からですが、希望することで、受給開始を「繰上げ」または「繰下げ」することができます。繰上げの場合は、最大60カ月、60歳まで繰り上げられますが、1カ月あたり0.4%ずつ年金が減額されてしまいます。繰下げの場合は、最大120カ月、75歳まで繰り下げることができ、1カ月あたり0.7%ずつ年金額が増額されます。

この繰上げ・繰下げは、2022年の年金改正で、繰上げの減額率は0.5%から0.4%へ引き下げ。繰下げは70歳から75歳まで拡大され、年金増額率が最大184%に大幅にアップされました。

繰上げ・繰下げで受給年金額は異なる

図表1は、繰上げ・繰下げにより、老齢基礎年金額(満額の場合)が、どのくらい増減していくかを表したものです。

[図表1]繰上げ・繰下げによる年金額の増減(老齢基礎年金) 出所:『いちからわかる!定年前後のお金と手続き 得する働き方・暮らし方ガイド2026-2027年最新版』(インプレス)より抜粋

例えば75歳まで、繰下げをすると、65歳開始の受給額と比べて年間で、約71万円も受給額がアップ。会社員の場合は、老齢基礎年金と老齢厚生年金の2つを受け取ることができるので、どちらかのみを繰り下げることもできます。ただし、注意すべき点もあるためきちんと理解した上で、繰下げをするようにしましょう。

一方で、繰上げ受給の場合は、老齢基礎年金も老齢厚生年金も一緒に繰り上げる選択肢しかありません。また、1度繰上げをすると、繰上げ請求を取り消すことはできず、生涯、減額された年金額になるため、一般的にはできるだけ避けた方が良いでしょう。

長生きしないと損…「繰下げ」による損益分岐点は?

繰下げ請求すると、毎月の受給額は増えますが、受給開始が遅くなる分、長生きしないと受給総額が少なくなります。68歳で繰り下げた場合は、79歳より長く生きた場合、受給総額が多くなります。

[図表2]「繰下げ」による損益分岐点は? 出所:『いちからわかる!定年前後のお金と手続き 得する働き方・暮らし方ガイド2026-2027年最新版』(インプレス)より抜粋

年金増額の裏に隠された「繰下げ」のデメリット

年金の繰下げをすると、1カ月で0.7%、1年間で8.4%も年金額が増えるため、老後のお金を増やすためにぜひ利用したい制度ですが、人によってはデメリットが生じるケースもあるため注意が必要です。

受け取れなくなる年金に注意

まず1つ目は、加給年金」を受け取れる人が、繰下げをしていると加給年金は受け取れません。そのため、繰下げ期間中に配偶者が65歳に達すると、加給年金は全額受け取り損ねることになります。加給年金は厚生年金の制度なので、このケースに当てはまる場合は、老齢基礎年金だけを繰下げし、老齢厚生年金を65歳から受給開始すれば回避できます。

2つ目は、「在職老齢年金」制度です。給与と年金の合計額が一定基準を超えると老齢厚生年金の一部または全額が停止されますが、この停止された部分は、繰下げをしても増額対象になりません。つまり、働きながらの繰下げは、将来の年金額が想定より少なくなるリスクがあります。なお、老齢基礎年金についてはこの制度の対象外のため、増額への影響はありません。

3つ目は、「特別支給の老齢厚生年金*」。これは65歳までの有期年金となるため、繰下げの対象外です。65歳以降の年金を繰下げる場合でも、案内が届いた時点で手続きしましょう。

*老齢厚生年金の受給開始年齢引き上げに伴い、60〜64歳までの間に特別支給される老齢厚生年金。男性は1961年4月1日以前、女性は1966年4月1日以前生まれの場合、支給対象

仕組みを理解して自身の最適解を見つける

厚生労働省のデータ(2024年度)によると実際に繰下げ制度を利用している人は、老齢基礎年金で2.6%、老齢厚生年金では、1.9%。年々利用率はアップしているものの、全体で見ればほとんどの人が繰下げを利用していません。

ですが、「人生100年時代」の長生きリスクに備える上で、年金を増やせる繰下げ制度は有効な選択肢の1つと言えます。会社員であれば2つの年金のどちらか片方を繰下げたり、夫婦世帯ならどちらかの年金を繰下げたりするなど、選択肢は様々です。

こうしたデメリットや仕組みを理解した上で、自分に合った受給タイミングを検討してみましょう。

[図表3]「繰下げ」をするときに注意すべきポイントは3つ 出所:『いちからわかる!定年前後のお金と手続き 得する働き方・暮らし方ガイド2026-2027年最新版』(インプレス)より抜粋