「釈放時にはもう厳しかった」18日間勾留され体重27.7キロに…不起訴となった16歳女性はなぜ亡くなったのか 遺族が訴える兵庫県警の違法捜査
兵庫県警に昨年、暴行容疑で逮捕され不起訴になった16歳の女性が勾留中に食事が摂れなくなり、釈放後も摂食障害など心身の不調が続いた末、5カ月後に亡くなった。障がい者施設で働いていた女性は、利用者の「虐待ではないか」との通報で逮捕された。だがこの証言は後に通報者自身が撤回した。県警は存在しなかった容疑を認めるよう、自白を迫った可能性がある。
【画像】元気だった頃のるなさんの写真と、「今すなおにいえ」自白誘導が書かれた被疑者ノート
医師は、女性の内臓が釈放時にすでに致命的な損傷を負っていた可能性を指摘。「違法捜査が死に追いやった」と訴える遺族は国家賠償を求める訴訟を起こした。
18日間の勾留後、体重は10キロ減少
「釈放されたあの子が私にしがみついてきたときに崩れ落ちる感じがありました。ごつごつした骨が当たるくらいの細さになって、7月なのに『寒い寒い』と言って長袖を着て、歩くのもふらふらで……」
亡くなったるなさん(仮名)の母・A子さんはそう言って声をつまらせた。
A子さんが責任者を務める障がい者支援施設のスタッフだったるなさんは、昨年6月17日、施設利用者に暴行した容疑で、別の成人男性スタッフBさんとともに明石警察署に逮捕された。
2人は容疑を否認。神戸地検検事が求めた2回の勾留延長を神戸地裁が認め、るなさんは女性留置場がある小野警察署で計18日間勾留された。
るなさんはその期間に食事が摂れなくなった。A子さんの代理人を務める佐々木正博弁護士が逮捕当日に差し入れた「被疑者ノート」の自由記述欄には、「ショックで食べれない」との記述がある。
7月3日には2度嘔吐して緊急搬送されたが、胃腸炎と診断され、輸液注射を受けただけで即日留置場に戻されている。結局地検は翌4日、勾留満了まで3日を残して、るなさんを釈放した。
冒頭でA子さんが語ったのはその場面だ。逮捕4日前に37.5キロだったるなさんの体重は釈放翌日には10キロ近く減り27.7キロになっていた。
その後も体は食べ物を受けつけず、体重は減り続けた。入院もしたが、医師からは極端な低栄養状態の体に栄養を急に入れると心不全などを起こす危険な代謝障害「リフィーディング症候群」が起きるおそれがあると説明され、治療は難航した。
さらに、警察に怯えたるなさんは「ママ、一緒にいて」と言って、A子さんから離れられなくなり、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と急性ストレス障害(ASD)、神経性食欲不振症と診断された。
そして体重が19キロ台まで落ち、12月14日に亡くなった。直接の死因は「低栄養状態」と推定された。
その場に35人いたのに事情を聴いたのは1人だけ
体に何が起きていたのか。亡くなる約10日前から訪問治療を行なったC医師が話す。
「1、2週間食べないと『腸管上皮』が脱落し、吸収に適した腸が失われ、食べても下痢になります。この状態が回復しなかったとみられます。
初めて彼女を診た昨年12月4日には肝機能障害が出ていました。栄養源がなくなると体はまず筋肉を分解して栄養を取り、筋肉もなくなれば肝臓などの大きな臓器をつぶす“自己融解”とも言える状況になります。彼女はがんばって食べようとし、痛みをともなう点滴にも耐えていましたが、本当に末期の状態でした」(C医師、以下同)
もっとも、亡くなる5カ月前に釈放された時点で、るなさんはすでに快復できない体になっていた可能性があるという。
「体重を考えれば、釈放された段階でもう結構厳しかったと思います。なぜ救急搬送された時に留置場に戻したのか……」
重大なのは、捜査が自白で容疑をでっち上げる“冤罪づくり”をしようとした疑いがあることだ。
るなさんとBさんの容疑は昨年2月15日、施設でのバレンタインイベントで知的障がい者の女性Xさんのあごを複数回手で押さえつけるなどしたというものだ。
A子さんの代理人を佐々木弁護士とともに務める向井義博弁護士によると、Xさんは当日、別の参加者に嚙みつこうとし、るなさんらがあごに手を添えて「あかんよ」と制止したという。
これを現場にいた別の知的障がいがある女性Yさんが、同年4月1日になって、居住地の役所に「虐待かもしれない」と相談。その後、情報を得た明石警察署がXさんの父親から事情を聴取。父親は会話ができない娘に代わって被害申告を行ない、6月17日の2人の逮捕に至る。
だがイベントには利用者とスタッフ計35人が参加していたにもかかわらず、同署は逮捕前、Yさんにしか事情を聴かず、証拠の確保もしていない。
「Bは言ったぞ」被疑者ノートに残された自白誘導の疑い
当局はYさんの話だけで立件できると考えたのだろうか。佐々木弁護士は、
「そう思えないからこそ(警察、検察は)自白を取りにきて、必要もない身体拘束をしたということです。しかし、るなさんもBさんも否認を続けたため、当局は虚偽自白へと追い詰めようとしたのでしょう」とみる。
根拠は、るなさんの被疑者ノートの記述と、これと一致する生前の本人の証言だ。
ノートには取調官の言葉として、
「Bは言ったぞ」「なんでBと言ってる事がちがうんやろな」
「(最初の勾留満期の6月)27日にバイバイできると思ってんの」
「お母さんに早いうちにあわせたる」
と書かれている。
さらに、「好(き)なタイプ、すきなひとはおらんのか」との記載があり、逮捕7日目には、
「フラフラする、息ぐるしい」と伝えたのに、何の処置もされなかったとの記録もある。
佐々木弁護士は、ウソによる自白誘導や脅迫、懐柔、セクシャルハラスメントが行なわれ、体調不良の訴えが無視された記録だと指摘する。
やむを得ない場合しか勾留が認められない「少年」に該当するるなさんを、逃亡や罪証隠滅のおそれもないのに拘束し、健康管理をせず、違法な取り調べをしたことが死を招いたとし、「人質司法の弊害が最悪で悲惨な形で16歳の少女を襲ったのです」と怒りをあらわにした。
Bさんも昨年7月7日に釈放され、2人は同日付で不起訴となった。神戸地検は不起訴の理由が「嫌疑なし」と「嫌疑不十分」のどちらかなのかを今も明らかにしていない。
だがA子さんによれば、虐待を言い出したYさんは昨年8月、明石警察署まで出向き、A子さんと警察官の前で「虐待かわからないって言った」と主張。
今年3月には、「ぎゃくたいではないと思った。オーバーに言ってしまってすいませんでした」とA子さんへの手紙に書き、最初の証言を覆した。つまり、嫌疑事実は最初からなかった可能性がある。
るなさんは生前、「警察官の人らから見ても悪いことしてないってちゃんとわかったんやったら、やっぱ謝ってほしい」と言い続けた。
その願いを拒んだ県警と地検の責任を問うため、A子さんは逮捕から1年となった今年6月17日、国と県に約1億921万円の支払いを求める国家賠償請求訴訟を神戸地裁に起こした。
#2に続く
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
