「学校に知られたら退学ですね」SNS乗っ取りで女子高生脅迫、“盗撮画像”求めた男性の幼稚な動機
SNSアカウントが突然乗っ取られ、知らない誰かから脅迫メッセージが送られる──。そんな被害は「特別な知識を持つハッカー」が起こすものと思われがちだ。
しかし、大阪地裁で開かれた裁判で明かされた手口は、あまりにも単純だった。
しかも被告人の男性は、特別な専門知識を持っていたわけではない。中学時代から「遊び感覚」で10件以上の乗っ取りを繰り返していたという。(裁判ライター・普通)
●乗っ取った相手に「着替え盗撮」を要求
大阪地裁は5月18日、不正アクセス禁止法違反と強要未遂罪に問われた20代男性の初公判を開いた。検察側は懲役1年6カ月を求刑し、結審した。
起訴状によると、被告人は不正に入手した情報を使い、当時学生だった被害者の女性のインスタグラムにログイン。過去の投稿などを確認したうえでダイレクトメッセージを送った。
「飲酒している写真ありますよね。高校に知られたら退学でしょうね」
さらに、「まぁお金ですね、50万円くらい」「でも学生なんで別のことでいいです。クラスメイトの着替え盗撮。50万円払えないならこれしかないですね」などと要求したという。
被害者が警察に相談したため、事件は未遂に終わった。被告人は起訴内容を認めた。
●手口は「組み合わせ」を試すだけ
裁判でも焦点の一つとなったのは、被告人がどうやってログインしたのかという点だった。
検察側の冒頭陳述などによると、被告人は中学生時代から友人に誘われ、「遊び感覚」でSNSの乗っ取りを繰り返していたという。
方法は極めて単純で、特定の情報の組み合わせを片っ端から試していくものだ。(なお、模倣を防ぐ観点から、具体的な手口や内容の詳細は記事では割愛する。読者におかれては、推測されやすい安易なパスワードの組み合わせを避け、適切な管理を心がけていただきたい)
被告人は捜査段階で、動機について「反応を見たい」「お金かエロ画像もらえたらラッキー」などと供述していた。
●「暇つぶし」「興味本位だった」
弁護人は、反省文や示談交渉の経過を記した書面を提出した。
被告人は被害者に10万円の示談金を提示したものの、被害者側は、事件時に要求された50万円でなければ応じないとして、示談は成立していないという。
被告人は法廷で「昔からの友人の間での遊び感覚」「興味本位」などと説明。金銭や画像を本気で手に入れようとしていたわけではなく「要求したときの反応を見たかった」と弁解した。
また、示談金を10万円とした理由について「子どもが生まれたばかりでそれが限界だった」と述べた。
一方で、裁判官から資産状況を問われると、「毎月5〜10万円は貯金できている」と答えた。ただ、その貯金を被害者への賠償に充てる考えは明確に示さなかった。
事件については妻にも話しており、「今後はSNSの監視を頼む」「子どもが生まれた責任感から再犯はおこなわない」と話した。
●10人以上を乗っ取り、「バレないと思っていた」
検察側の質問では、犯行の常習性や悪質性が追及された。
被告人は、中学時代から10人以上のアカウントを乗っ取っていた。顔見知りもいれば、SNS投稿を見て興味を持った相手もいたという。
当初から罪悪感はあったとしつつも、「友だちとの遊び感覚」でやめることはなかったと述べた。
過去にも、金銭や画像を要求するダイレクトメッセージを送ったことがあるという。実際に送られてきたことはなかったが、その理由を「どんな反応が来るか、暇つぶしとして」と語った。
検察官:警察沙汰になるとは思わなかったんですか。
被告人:思ってましたが、バレないだろうと思っていました。
検察官:今回のような事件を防ぐには何が必要だったと思ってますか。
被告人:関わる友だちもだし、何か得れるとしてもすべきでなかった。
裁判で問われた事件は、乗っ取りを始めたという中学時代から、さらに数年を経て起きたものだ。
事件当時の交友関係は明らかにされなかったが、自ら継続していた行為について「友人」の存在を強調する供述には違和感も残った。
●裁判官「かなりエスカレートしている」
裁判官は、被告人の規範意識を問いただすように質問を続けた。
裁判官:遊びのような感覚と言ってますが、乗っ取り行為を教えた友人も、あなたのような脅迫行為をしていたのですか。
被告人:してないと思いますが、笑い話にはしていました。
裁判官:乗っ取りまでならまだしも、脅して金銭や性的画像を要求するのは、かなりエスカレートしていると思うが、自分ではどう思う。
被告人:当時の自分に思うこととしては、くだらない。でも、被害者がいるので、くだらないとは言ってられない。
どこか他人事のようにも聞こえる供述だった。
その後、裁判官は、被害者が抱いたであろう恐怖について言及した。
自分を脅す相手は、さらに別の秘密も握っているのではないか。要求がもっとエスカレートするのではないか。これから先、いつまで脅えないといけないのか──。
裁判官がそうした被害者心理を一つひとつ挙げると、被告人は「(その気持ちは)今はわかる」と答えた。
●「遊び感覚」で済まされるはずがない
検察側は、中学生から続く常習的犯行の一環であり、動機や経緯に酌量の余地はないと指摘。被害者に与えた恐怖感は大きいとして、懲役1年6カ月を求刑した。
一方、弁護側は、たまたま知れた誕生日から当てずっぽうでログインしたに過ぎず、計画性もなく稚拙な犯行だと主張。「好奇心に過ぎない」とうったえた。
また、各社ウェブサービスで二段階認証の導入が進み、安易なパスワード設定への注意喚起も広がっていることから、同じ手口による再犯の可能性はないとした。
たしかにセキュリティ対策の強化は、事業者にも利用者にも求められている。
しかし、SNSには、若い世代の私生活や交友関係など、極めてセンシティブな情報が詰まっている。そのアカウントを「遊び感覚」で乗っ取り、脅迫の道具に使う行為が、軽く済まされるはずもない。
