日銀とFRBが動く“本当の有事”に富裕層だけが密かに「現金」を握りしめる理由【資産37億円の不動産投資家が警鐘】
資産形成の世界には、ルールが真逆になる瞬間がある。融資を最大限に活用して資産を膨らませる「平時」と、現金こそが唯一の武器になる「有事」。この二つの局面を見極め、戦略を切り替えられるかどうかが、投資家の明暗を分ける。特にインフレ局面へと移行した今、かつてのデフレ時代の感覚に固執することは、絶好の機会を逃すリスクでしかなく――。『2035年 増える富・消える富の見分け方 インフレ地獄を生き抜く資産戦略』(KADOKAWA)より、著者の資産37億円を築いた不動産投資家・小林大祐氏が時代に即した「本質的な資産形成」のセオリーを明かす。
「平時の投資」と「有事の投資」は真逆
グレートリセット(金融・経済・社会構造など、これまでの前提が一度すべて崩れ去り、新しいルールで再構築される大転換のこと)や金融危機が、現実になっているときは「有事」だ。投資や事業での戦い方は、「平時」と「有事」では明確に切り替えなければならない。
不動産投資であれば、平時とは金融機関からの融資が引ける状況を指す。この局面では、引ける限りの融資を受けてレバレッジを効かせ、資産をスケールさせていくことが基本戦略だ。要するに、他人のカネを使って効率良く資産を積み上げていくフェーズだ。
しかし、有事になると状況は一変する。程度の差はあってもあらゆる物件の価格が暴落し、平時にはあり得なかった価格がつくようになる。しかし、肝心の金融機関が融資を出さなくなるので、せっかく目の前でまさにバーゲンセールが始まったのに何も買えないという事態に直面する。
手持ちの物件を売って資金を作ろうとしても、有事のときには買い手はそうそう現れないし、現れたとしてもセール価格に設定しなければ売れない。格安で良い物件を入手できるこのチャンスを生かすには、現金が必要だ。
重要なのは、平時だけ、あるいは有事だけを狙うのではなく、両方に対応できる態勢を整えることである。平時に最大限のレバレッジをかけていると、突然有事が訪れたときに手元に現金がまったくないことになる。
平時は借金、有事は現金…具体的な投資家の行動
平時と有事の対応はトレードオフの関係になるため、双方に完璧に備えることは不可能だ。バランスを考えながら有事にもある程度対応できる現金を確保するなり、局面の切り替わりを瞬時につかんで行動を切り替えるといった対応が必要だ。
ただ、資金が少ない段階、つまり早いステージではいつやってくるかわからない有事を待っていると時間ばかりが経ってしまうので、平時の投資に集中するのが正解だ。特に不動産の場合、多少割高であっても、他人のカネで物件を買えるという平時のアドバンテージは非常に大きい。
経済情勢がインフレ局面にある場合、都心部など土地値比率が高い一棟不動産は、極めて堅牢で「堅い資産」となる。現在の情勢を前提に不動産投資へ参入するのであれば、為替は円安基調、経済環境はインフレが継続するという前提条件を正しく認識する必要がある。
そのうえで重要なのは、世界の金融情勢と日本国内の金融政策、さらにその背景にある為替動向を総合的に捉え、自身の思考を環境に順応させていくことだ。
「昔は安かった…」デフレ時代の感覚に固執すると、取り残される
実際によく受ける相談として、いまだにデフレ時代の感覚のまま不動産市場を見渡し、物件検索をしている人が少なくない。「物件価格が高くなって買えない」「昔に比べて割高だ」と嘆くが、その思考のままでは、いつまで経っても物件を購入することはできない。
立地を間違えなければインフレに転じたことで、近隣の土地相場や土地実勢価格は確実に上昇している。それに伴い、金融機関が融資判断の基準とする物件評価額も、以前とは比べものにならないほど引き上げられているのが現実だ。すなわち、物件価格が上がっているだけではなく、融資環境そのものも同時に変化しているのである。
繰り返すが、購入する立地さえ間違えなければ、インフレが進行するにつれて、入退去のタイミングごとに賃料は着実に上昇していく。だからこそ、デフレ時代とインフレ時代とでは、不動産購入における「目線」や「基準感」を明確に切り替える必要がある。
にもかかわらず、いつまでも「昔は安かった」「昔はこんな価格ではなかった」とデフレ時代の感覚に固執している人は、結果として市場から取り残されていく。
「表面利回り3%」は、「デフレ時代の賃料水準」が前提
高度経済成長期と現在とで貨幣価値が大きく異なることからもわかるように、時間の経過とともに世界経済は成長し、貨幣価値そのものも変化する。土地実勢価格や不動産における相場と呼ばれるものも同じ構造だ。その過程で、世界的な需要と供給のバランス、政策金利、地政学リスク、エネルギー需給など、無数の要素が複雑に絡み合い、現在の物価水準が形成されている。
つまり、現在の不動産市場に売りに出ている物件の「表面利回り3%」という数字は、実は「デフレ時代の賃料水準」を前提とした利回りに過ぎない。
インフレに転じ、賃料が段階的に改定された後の実質利回りは、もはやその3%とはまったく異なるものになる。この「デフレからインフレへの移行」に伴い、思考のスイッチを切り替えられるかどうかが、今後の明暗を分ける。
高い改定賃料をテナントに提示…恵比寿ガーデンプレイスの戦略
わかりやすい例として、恵比寿ガーデンプレイスを挙げよう。もともとヱビスビールの工場跡地に造られたこの大規模商業モールは、現在、外資系ファンドによって取得されている。その戦略は極めて明快だ。
商業施設であるがゆえに、賃貸借契約の更新を拒むことが比較的容易であり、契約期間満了のタイミングで順次、インフレ環境を前提とした高い改定賃料をテナントに提示する。条件が合わなければ入れ替えを進め、最終的には現在の物価水準に見合った新賃料で再募集することで、投資利回りを引き上げていくという手法を取っている。
結局のところ、デフレであろうがインフレであろうが、元本毀損する可能性が極めて低い資産、すなわち「同じ価格で売れるもの」を、人の資本で購入し、人の資本で返済していくという原理は変わらない。
他人資本を最大限に調達し、時間をかけて自己資本へと転換していく。この資産形成のセオリーこそが、デフレ下でもインフレ下でも一切揺らぐことのない、本質的な資産形成の考え方なのである。
また、ステージが上がるほどに、有事対応を意識した資産配分をしていくといいだろう。資産が増えれば、有事であっても多少の融資を引けるようになる。たとえば、平時なら買いたい物件の半額の融資が出るという場合、有事の環境下でも1〜2割の融資は引けるだろう。
有事かどうかの判断には、日銀やFRBといった各国の中央銀行の動きを見ればすぐにわかる。傷んだ経済を立て直すため、ほぼ間違いなく金融緩和が行われるからだ。もし世界の中央銀行が一斉に動いたら、それが本当の有事だ。ある程度ステージが上がれば、有事にも対応できる準備をしておきたい。
小林 大祐
不動産投資家
