フジテレビ「中居ショック」でACジャパン連発が「極めて深刻」なワケ…経済アナリストが指摘する「存亡の危機到来」の可能性

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 かつて「民放の雄」と言われたフジテレビが大ピンチだ。タレント・中居正広氏をめぐる女性トラブルの影響でスポンサー企業が続々と離れ、経営に打撃を与える事態に発展しているのだ。広告収入の激減がささやかれるフジテレビは、いつまで苦境に持ちこたえることができるのか。経済アナリストの佐藤健太氏は「テレビ局にとってスポンサーは『命』。お粗末すぎる社長の会見が取り返しの付かない“失敗”につながる可能性がある」と指摘する。

テレビ局の記者会見なのに動画撮影は禁止

 思わず目を疑った人々は多かったのではないか。1月17日に行われた港浩一社長による記者会見は、あまりの“悪手”だった。国から放送免許を得て「公共の電波」を利用している同局は、紛うことなきマスメディアだ。多数の記者や制作会社が報道番組を通じ、政治家や芸能人、スポーツ選手などを論評し、批判も重ねてきた。だが、そのトップに立つ港社長の会見は「かの国」から伝わるようなものだった。

 前日に急遽実施をアナウンスし、会見参加者は在京の一般紙や通信社などで構成する「記者会加盟社」(NHKと民放テレビ局などは参加)に限定された。ネットメディアや週刊誌、フリージャーナリストらは取材できず、19社・33人だけの“閉ざされた会見”となったのだ。しかも、テレビ局の記者会見なのに動画撮影は禁止され、会見終了後まで報道しないという条件だった。

 冒頭は写真撮影が許可されたものの、社長の「肉声」がメディアを通して視聴者に伝わらないという異様な会見だ。今の時代、静止画の会見なんて「かの国」からしか見えないのではないか。一体どこの、誰に向けたトップ会見なのかわからない。そもそも被害者や国民に対してのものではなく、一連の週刊誌報道によって騒動が拡大していったため、慌てて「スポンサー企業向け」に開催したのではないかと疑いたくもなる。

 会見の内容も意図が伝わってこないものだった。「一連の報道により、視聴者の皆様をはじめ関係者の皆様に多大なご迷惑、ご心配をおかけしていること、現在まで弊社から説明ができていなかったことにお詫び申し上げます」などと謝罪してはいるものの、トラブル直後(2023年6月初旬)に把握した後も同局が中居氏を番組に起用し続けてきた理由などは明らかにされなかった。

主要スポンサーがCM放映差し止めを決定

 もちろん、「当事者2人の間の場で起きた極めてセンシティブな領域の問題」について、会社として女性の心身の回復とプライバシー保護を優先し「極めて秘匿性の高い事案と判断した」のは当然だ。ただ、それならば中居氏をなぜトラブル把握後も起用してきたのか、事案の重大性を認識しながら本格的な調査を実施してこなかったのか。

 フジは、第三者の弁護士を中心とする調査委員会を立ち上げると発表したが、遅きに失した感は否めない。これまで著名人や政治家らのハラスメント問題などを報道番組で厳しく追及し、説明責任を問うてきたマスメディアとして恥ずかしくないのだろうか。トラブル把握後の対処体制や相談窓口の実効性、ガバナンスの欠如が心配でならない。質問の多くに「調査委に委ねる」との回答を連発した社長会見を見ると、真面目に働いているフジ社員たちがかわいそうだ。何か報道する際に取材相手から「お前の会社にだけは言われたくない」などと言われてしまう可能性があるだろう。

 会見で「厳しい意見を頂いています」と表現していたスポンサーの反応は、当然の結果だ。トヨタや日産自動車、マツダ、日本生命、第一生命、NTT東日本、花王、ライオンなど主要スポンサーがCM放映差し止めを決定し、その後も雪崩を打つように次々と企業が撤退を表明している。現時点でCMの出稿マネーが返還されるわけではないものの、こうした動きが続けばフジの減収は数百億円規模にまで膨らむ可能性も指摘されるところだ。かつて「民放の雄」と言われたフジであっても、経営面で大打撃となるのは間違いない。

“存亡の危機”が到来する可能性

 フジ関係者の懸念は「騒動の長期化」に集まる。その理由は、港社長が会見で明かした「調査委員会の行方」が定まらないからだ。多くの専門家が指摘するように、通常ならば調査委による調査期間は「6カ月程度」はかかるといわれる。4月の改編期には当然間に合わないとしても、半年間もスポンサーCM差し止めが続けば“存亡の危機”が到来する可能性もあり得る。どうすれば、関係者やスポンサー、そして国民の理解が得られるのか苦悩が続くところだ。

 後手に回るフジの対応を他の民放関係者はこのように見る。「港社長はどこかの時点で『すべて自分の判断が間違えていた』と引責辞任するかもしれないが、それだけで騒動が収まるかは不透明と言える。

「役員交代」などを求める動きは加速するだろう

 たとえ『社長のクビ』を差し出したところで、何も説明責任が果たせないのであれば世の中は許さないのではないか」。窮地を乗り切るためにトップが“生贄”となったところで、主要スポンサーが戻ってくる保証はないというのだ。

 今回の事態には、フジテレビを傘下に持つ「フジ・メディア・ホールディングス」の株主からも批判があがる。米投資ファンドのダルトン・インベストメンツと関連会社は「コーポレートガバナンスに重大な欠陥がある」と指摘し、フジメディアHDの株主総会で議案を提案する方針と伝えられる。

 約20年前にフジテレビの経営権奪取を計画し、フジ株を保有するフジサンケイグループ・ニッポン放送の株取得を試みた実業家・堀江貴文氏もフジメディアHD株購入を公表。著名弁護士や実業家らも取得を進め、ネット上では「株主総会に行こう!」というムーブメントが起きつつある。

総退陣するくらいでなければ企業文化は変わらないだろう

 フジメディアHDが公表している2024年9月30日時点の株主は「個人その他」が33.6%で、「その他の法人」30.1%、「金融機関」18.2%、「外国人」15.2%、「金融商品取扱業者」2.9%となっている。今回の騒動対処やガバナンス欠如が問題視され、誰もが納得するような事態の収拾を図れなければ「役員交代」などを求める動きは加速するだろう。

 別の民放関係者は今後の展開をこのように予想する。「フジテレビの偉い人は『バラエティー畑』の天下が続いてきたが、港社長が辞任して他の畑から後任を出すだけで本当に会社は良くなるのか。役員はフジサンケイグループ関係者も多く、総退陣するくらいでなければ企業文化は変わらないだろう」

 フジメディアHDの公式サイトにある「グループ会社一覧」を見ると、フジテレビを筆頭にニッポン放送や扶桑社、サンケイビル、産経新聞(関連会社)などメディア・コンテンツ事業から都市開発・観光事業に至るまで巨大なグループを形成していることがわかる。ただ、テレビや新聞、ラジオといった報道機関が同グループ内にあることで相互の監視機能が働くことは期待できないだろう。これは他の民放にも少なからず当てはまる。

今回の騒動をフジテレビの役員たちはどのように考えているのか

 これまで「説明責任を果たせ」「広く公開せよ」と世に問うてきたはずの報道機関として、今回の騒動をフジテレビの役員たちはどのように考えているのか。「港社長のそばにいながら、お粗末な会見しか開けないなんて…。もう、役員総退陣しか説得力はないね」。あるフジテレビのヒラ社員からは溜息ばかりが漏れる。