最近では、本来「大人に多いアレルギー」が子供にも見られることが多くなりました。なぜでしょうか?(写真:polkadot/PIXTA)

「国民の2人に1人は何らかのアレルギー疾患を持っている」と言われるほど、身近な病となった「アレルギー」。アレルギーはなぜ増え続けるのか? 昔に比べ、食物アレルギーや花粉症にかかる子供が増えているのはなぜなのか?

自身もアレルギー患者で父を蜂アレルギーで亡くしている医療人類学者の著者が、5年以上かけて調査・執筆したテリーサ・マクフェイル氏の『アレルギー:私たちの体は世界の激変についていけない』の日本語訳が刊行された。日本では診断されがたい「肉アレルギー」などの食物アレルギーをはじめ、花粉症や喘息、アトピーなどのアレルギーと闘う医療関係者や患者に取材を重ね、アレルギーの全貌に迫る「アレルギー大全」とも言うべき書だ。

「『アレルギー』は、免疫学の考えに基づいて、一般向けに解釈したことが書かれていて、非常に役立つ内容です」と語る鈴木慎太郎・昭和大学医学部准教授(医学教育学)は、医療現場で日々患者と接する中で、最近のアレルギーの傾向についてどう考えているのか。前編・後編と2回に分けてお届けする。

多種多様なアレルギー疾患が増えている

「国民の2人に1人は何らかのアレルギー疾患を持っている」と言われますが、実際に、多種多様なアレルギー疾患が増えています。


『アレルギー』では、「肉アレルギー」について言及されていますが、ある虫に咬まれた際に、その虫の唾液の成分と類似した構造の成分が、動物の赤身肉の中にも入っていて、肉を食べた後にアレルギー症状が出るという人たちも出てきています。

また、花粉が原因で起こる食物アレルギーも増えています。例えば、モモ、リンゴ、ビワなどのバラ科の果物を食べて症状が出るというものがあります。

最近も、山梨県で、給食のビワを食べた小学生126人がアレルギー症状を起こす出来事がありました。

以前は、「ビワアレルギー」「モモアレルギー」など果物そのものが原因と考えられていましたが、実はそうではなく、シラカバなどの花粉への曝露やラテックス製品の使用が原因で、果物によるアレルギー症状が引き起こされていたということが解明されてきています。

子供に「大人のアレルギー」が増えてきた理由

食物アレルギーは、大人と子供で違いがあります。例えば、小麦アレルギーは、大人にも子供にもありますが、牛乳と卵は、大人での新規発症は極めて少ないです。


鈴木慎太郎(すずき・しんたろう)/医師・医学博士。昭和大学医学部医学教育学講座・准教授。アレルギー指導医として昭和大学病院(東京都)で食物アレルギーやアニサキスアレルギーを中心に診療している。アレルギー専門医の教育事業にも従事している。著書『解いて学ぶ! 「おとな」の食物アレルギー:思春期〜成人の食物アレルギー43のCase Study』『内科×皮膚科 解いて学ぶ! 「おとな」のアレルギー:魂のクロストーク37のCase Study』(ともに文光堂)。「昭和大学リカレントカレッジ」にて社会人向けのリカレント教育も行う(写真:著者提供)

理由はまだはっきりわかっていません。牛乳や卵には、アレルギーを誘発しやすい成分が多く含まれていますが、子供は免疫システムが未発達で、それらがアレルゲンになりやすいのでは、と考えられています。

また、子供の生活範囲は、学校、家、塾と限られており、子供は食べるものの種類が限定的ですが、大人は、会社、家、出張先とさまざまで、いろんな店でいろんなものを食べています。

大人の場合は、子供に比べてアレルギー症状もかなり多彩で、お腹が痛い、だるい、頭痛などの訴えで来院することもあります。

運動、飲酒、ストレス、過労、女性の月経前の状態などがアレルギーを誘発し、増長しやすくする傾向も経験上わかっており、大人の場合は、そういった点でも特殊性が見られると考えられます。

一方、最近では、本来「大人に多いアレルギー」が子供にも見られることが多くなりました。

それには、生活の多様性が関わっています。かつては、子供に生魚を食べさせることはあまりありませんでしたし、エビやカニを生で食べるような高級店に子供を連れていくことも稀なことでした。

しかし、今は、回転寿司店へ赤ちゃんを連れていくご両親がたくさんいます。冷凍技術の革新や流通の拡大によって、ファミリーレストランなどで、かつて乳幼児期には口にしなかったものを食べさせるようにもなりました。

将来的に、過去には起こらなかった食物アレルギーが増えてくる可能性はあるでしょう。

大きな問題は、花粉症とアレルギー性鼻炎の低年齢化です。花粉症は、かつては大人の病気でした。ところが、私の子供は保育園の時から花粉症です。花粉によって引き起こされる食物アレルギーも、子供に増えてきているのではないか、と考えられています。

一方、学校に通う子供たちを対象にした調査では、6つの主要なアレルギー疾患(喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、花粉症、アレルギー性結膜炎、食物アレルギー)の中で、唯一、喘息だけが減少する傾向にあります。気流の変化や、環境対策、企業や自治体の努力などいろんな要因があると思いますが、時代の変遷によってアレルギーの種類も変化しているのだと思います。

日本に多い「アニサキスアレルギー」

アレルギーは、アレルゲンが人の体内に何度も何度も入ってきて、IgE抗体ができる「感作」が成立して発症しますが、感作するアレルゲンには地域性や個人差があります。

例えば、日本の花粉症は、スギがメジャーな原因ですが、欧米では、他の樹木や雑草の花粉がメジャーです。

食物アレルギーも、地域ごとの食志向によって原因の違いがあり、なかでも、寿司や刺身をよく食べるため、日本人にはアニサキスアレルギーがかなり多いのではないか、と考えられるようになってきました。

国立感染症研究所の統計によれば、生きているアニサキスという寄生虫が、胃や小腸に突き刺さってしまう「アニサキス症」の新規患者数は、毎年2万人ずつ増えていると試算されています。

一方、アニサキスアレルギーは、アニサキスが原因ですが、アニサキスの生死にかかわらず引き起こされるものです。昭和大学病院でも、以前は、30〜50代の患者がメインでしたが、近年は10代、20代の患者も増えています。

増えてきた要因は、1つには、日本特有の食文化として、魚介類を冷凍せずにそのまま食べるということがあるでしょう。他の微生物は加熱や冷凍といった処理で殺処理が施されるように法規制が進んだことにより汚染が減りましたが、アニサキスに対する規制は不十分なままです。

そして、魚介類の流通が良くなったことも挙げられます。かつては、港町に足を運ばなければ食べられなかったものが、獲れた当日中に、市場を介して食べられるようになりましたし、チルド技術も向上しました。魚肉の消費量が減る一方、多様な海産食材を口にする機会が増えました。

また、輸入水産物も関係するのではと考えています。輸入水産物の中には、「どの海域由来の魚なのか、飼育環境がどのようなものか」がよくわからない商品もあります。ほとんどの国では、法規制もあり、日本のように魚を生で食べる文化がありません。特に欧米は、極度の冷凍をしてから食べますから、既に死んだものと見なされて、出荷前や客への提供前に生きているアニサキスがいないかどうかを目視する習慣はないでしょう。

アニサキスの多い海流で獲れたかもしれないし、アニサキスを減らすための調理加工が十分ではない状態で、日本に輸入されているかもしれない。もちろん推測の域を出ませんが、私は可能性として考えています。上記の理由が組み合わさり、アニサキス症が増えていることにより、アニサキスアレルギーも増えているのではないかと考えています。

病気と向き合いやすくなる

アレルギーの病態、メカニズムを医療関係者以外の方が正確に知る機会はなかなかありません。本書『アレルギー』は、免疫学の考えに基づいて、一般向けに解釈したことが書かれていて、非常に役立つ内容です。医師からの説明を理解しやすくなり、自分の病気と向き合いやすくもなるでしょう。また、アレルギーのことを学び始めた医療従事者にとっても良い参考書になるはずです。

(後編に続く)

(鈴木 慎太郎 : 医師・医学博士)