人の容姿と所得にはどのような関係性があるのか。民間信用調査会社・帝国データバンク情報統括部の著書『帝国データバンクの経済に強くなる「数字」の読み方』(三笠書房)から、外見と所得の関係性を分析したアメリカの研究結果を紹介する――。
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■「美男美女税」はあながち冗談とも言えない

例年、秋から冬にかけて「美男美女税」や「不器量補助金」が話題になってきます。特に3月の就職説明会の解禁を前にした学生の間で広がりやすい傾向があります。そのためのプチ整形が流行るのもこのタイミングで表われてきます。一種のルッキズムとも言えますが、過去には美男美女税をテーマにしたテレビドラマが作られたこともありました。

「美男美女税」や「不器量補助金」は労働経済学の分野において重要なテーマのひとつともなっています。日本では少ないですが、アメリカでは容姿や外見と所得との関係を調べた研究が多く行われてきました。

これまでの研究成果からは、学歴や人種、年齢など所得に与える要因を除いたとしても、周囲から美男美女にみられる人と不器量とみられる人との間で、前者の方が統計的にみて所得は高くなるという結果が得られています。

■イケメンはそうでない人より生涯年収が3450万円高い

ダニエル・ハマーメッシュ・米テキサス大学教授の研究によると、男性は美男子の方が不器量な人よりも年収が約17%分の開きがあり(美男子は並の男性より4%高い年収となるプレミアムと、不器量な男性は並の男性より13%低い年収となるペナルティの合計)、生涯賃金では23万ドル(約3450万円)の違いがあるのです。

女性においても美女の方が不器量とみられる人よりも年収の12%分(8%のプレミアムと4%のペナルティの合計)の開きがあるとされています。そのため、「美男美女税」や「不器量補助金」は、機会均等の観点から、容姿の差による所得格差を是正する手段として主張されてきました。

■大真面目に「美男美女税」が議論される理由

もちろん俳優やモデルなど美男美女がより高い所得を得ることに合理的な理由がある職種も存在しますが、多くの場合は仕事と容姿との関連性は見出しにくいでしょう。なぜこのような問題が経済学で重要になるかというと、経済全体の生産性にかかわってくるためです。

先天的な要素も大きい容姿や外見が重視されると、企業、さらには経済全体の生産性を低下させることにつながるからです。そのため、外見の良い人から「美男美女税」を徴収し、悪い人に「不器量補助金」を支給する、という所得再分配政策が議論されることになるのです。

写真=iStock.com/kazuma seki
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■非競争的な市場では「イケメン有利」になりやすい

この容姿・外見と生産性との間でマイナスの関係が生まれる理由としては主に3つ考えられています。

第一に、仕事相手が美男美女であることで顧客の満足度が高まるため、第二に、俳優やモデルなど美男美女であること自体が重要となる職種であるため、第三に、雇用主が好みによって美男美女を採用するため、といった理由です。

第一と第二は実際に生産性が高まっているので、所得が高くなることに問題はないのですが、第三の理由は本人の生産性とは直接的な関係のないところで生じています。

一般に、第三の理由は競争的な市場におかれている企業では起こりにくいのですが、規制などにより非競争的な市場にある企業で起こりやすくなってきます。

こうした市場においては、個人に対する所得再分配とは異なり、規制を排して競争的な市場にするか、あるいは採用を容姿や外見で決めてはならないという規制を導入することが有効な施策となってくるのです。

■就活などの短期決戦では「見た目が9割」はあてはまりやすい

人と人が直接顔を合わせるコミュニケーションにおいて重要となる要素の関係を表わした「メラビアンの法則」は、1971年に米国の心理学者アルバート・メラビアンが著書のなかで示した調査結果をもとにしています。

メラビアンの法則とは、人と人とのコミュニケーションにおいて、言語情報・聴覚情報・視覚情報が一致していない時に、どの情報が優先されるか、そしてどの情報が相手の印象に影響を与えるかを示したものです。

帝国データバンク 情報統括部『帝国データバンクの経済に強くなる「数字」の読み方』(三笠書房)

それによると、言語情報が7%、聴覚情報が38%、視覚情報が55%のウェイトで影響を与える、というものでした。目にみえるものが印象の5割以上を占めるため、さまざまな場面で見た目を重視する傾向がみられるようになりました。

特に就職採用時の限られた時間で行われる面接では、この法則が当てはまる可能性はより高くなってくるでしょう。就職活動において「見た目が9割」と言われるのは、このような素地があるからこそだと考えることができます。

とはいえ、最後は本人の能力や向上心などが決め手になることが多いはずです。「容姿や外見」とは、その人の話し方や所作、視線や表情のクセといったことを含む総合的なものだということは押さえておくべきでしょう。

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帝国データバンク 情報統括部1900年創業、全国に83の事業所を持つ民間信用調査会社最大手。1700人の調査員を抱え、現地現認による調査活動や情報収集で200万社の企業信用調査報告書データを蓄積。保有データを基に市場調査、マーケティングサービスや経営支援コンサルティングなども行っている。情報統括部は、長年にわたり蓄積してきたデータベースとノウハウ、そして全国に広がるネットワークを活かし、業界動向、景気動向などを独自の知見を交えて広く社会に発信している。主な著書に『コロナ倒産の真相』『ビッグデータで選ぶ地域を支える企業』(以上、日経BP)、『地元の力を生かす「ご当地企業」』(中央公論新社)、『百年続く企業の条件』(朝日新聞出版)など。
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(帝国データバンク 情報統括部)