【中島 恵】埼玉県川口市に”数千人規模”の中国人の巨大コミュニティができていた…その驚愕の実態

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親戚家族が一斉に移り住む

2000年以降、日本に住む中国人は増え続けている。出入国在留管理庁の統計によれば、その数は約82万人(23年12月末)と過去最多。とくに多いのは東京、埼玉、神奈川、大阪などの首都圏だが、東京を除いた都市別で見れば、突出して多い都市のひとつが埼玉県川口市だ。

私は新刊『日本のなかの中国』の取材のため、この数カ月間、何度か川口市を訪れたが、そこで出会った中国人に話を聞いてみると、聞こえてきた出身地の多くは「福建省」。とくに「福清市」という、日本人には馴染みのない地名だった。

取材をした福建省出身の女性は、同じく福建省やその近くの地域に住んでいた友人たちが川口市に住んだことをきっかけに、川口市に移り住んだという。

前述その女性は「もし今、福清市のレストランで、『日本に知り合いがいる人、いますか?』と声を掛けたら、絶対に店内の誰かが『います』と答えると思いますよ」と語っていたが、そういったエピソードも大げさではない、とうなずける。

同じく川口市内に住む、別の福建省出身の男性にも話を聞いてみると、その人は家族、親戚合わせて、なんと約200人が近隣に住んでいると教えてくれた。最初に親戚の1人が来日し、その人を頼って、兄弟やいとこ、姪、甥、遠縁などが次から次へとやってきて、この川口市に居を構えることになったそうだ。

前述の川口市のイベントで知り合った日中福清工商会の担当者に問い合わせてみると、「統計は取っていないのでわからないが、おそらく数千人の福清人が川口市に住んでいるだろう」とのことで、一族郎党ここに住んでいる人も珍しくない、との話だった。

中国では、親戚が同じマンションの別のフロアや隣のマンションに住むことが珍しくない。社会制度があまり整っていなかったこともあり、子育てや介護、地域に関する情報交換など、相互扶助のために近くに集住するのだが、まったく同じ仕組みを日本でも作り上げているということだろう。

さらに、別の福清市出身の男性に聞くと、川口市には、比較的さっぱりした福建料理の中でも、とくに福清市の郷土料理に特化した料理店が数軒ある、とのことだった。福清料理については、また別の機会に書いてみたい。

同郷が集まった福清人コミュニティまでできている

このように、川口市内に、福清市や福建省出身者の強固なコミュニティがすでに出来上がっているということだけでも驚きだが、前述の女性によると、彼らを中心としたウィーチャットのグループを作り、中国の淘宝(タオバオ=ネットショッピングサイト)で商品を注文し、重さ20キロになったら一括して日本に配送してもらうサービスを利用しているという。

中国の商品の中には、日本より安くていいものがありますが、いくら安くても、一人で買えば高くついてしまいます。でも、ウィーチャットのグループ(500人)で一括購入すれば安く手に入ります。私はスマホの保護フィルムとか、友人にプレゼントするネーム入りのペンとか、自宅の表札などをこのグループを利用して注文しました。

支払いはウィーチャットペイやアリペイで、各自が直接中国のサイトに支払い、商品は川口市内の代表者の家にまとめて届くシステム。届いたらグループ内に通知が来るので、都合のいいときに取りに行くんです。その代表者も福建省の人。大勢の購入者で送料を負担するので、とても便利でお得なシステムですよ」

在日中国人は、住んでいる地域ごと、仲良しグループごとなどでSNSグループを作り、そこで野菜や肉、中華総菜、雑貨などを売買しているが、川口市にはこういうグループもあるのか、と私は驚かされた。

今や池袋や上野、新宿などの大きな町だけでなく、東京近郊のあちこちに中国人コミュニティができているが、それは単に「中国人」というだけでなく「福建省人」や、もっと細分化された「福清人」というコミュニティもできるまでになっている、ということが、これらの話からわかる。

それにしても、福清市とはどんなところなのか。

福清市は福建省の省都、福州市の南に位置する人口約140万人(23年末)の都市だ。面積は約2430平方キロメートルなので、香港に隣接する深圳市(約2050平方キロメートル)よりやや大きいくらいだが、人口は深圳の10分の1以下。中国全体からみれば、特産物などはとくにない地方都市のひとつだ。

だが、福清市は華僑の故郷、「僑郷」という別名で呼ばれており、特徴は、古くから海外、とくに東南アジアや日本などに出ていく人が非常に多いこと。「中国のユダヤ人」などの別名でも呼ばれている。現在でもその伝統は続いており、中学や高校を卒業後、海外に出ていくことは福清人にとって「当たり前」という認識だ。

私が2018年に出版した『日本の「中国人」社会』でも、取材相手に出身地を聞くと、福建省出身者と東北三省(遼寧省、黒竜江省、吉林省)の出身者が多い、という印象があった。

法務省の在留外国人統計では、2011年まで「都道府県別 本籍地別 外国人登録者数」という統計を公表していたが、外国人登録証が在留カードに統一されたことに伴い、本籍地情報は取得できなくなり、統計発表はなくなった。

そのため、在日中国人の出身省別の統計も2011年が最後だが、それによると、最も多いのは遼寧省、続いて黒竜江省、福建省の順だった。歴史的なつながりもあり、旧満州があった東北地方から来日する人が多いが、それ以外で最も多いのが福建省であることがわかる。

同統計の終了からすでに10年以上が経過しているので、現在はどの省の出身者が多いのかを把握することはできない。だが、少なくとも、一般の日本人が知らない間に、川口市内に「福建省コミュニティ」「福清コミュニティ」が構築されていることは確かだ。

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