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大きな方向転換

「なぜ、このタイミングで大きな方向転換を決意したのか?」

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そう感じているボルボユーザーは少なくないのではなかろうか。EVシフトに関するボルボの発表についてである。


ボルボが2030年完全EV化を撤回した背景。

ボルボ・カーズはスウェーデン現地時間の9月4日、中期的な経営戦略に関して情報を公開した。その中で、電動化の目標を調整することが明らかになった。2030年までにグローバルセールスの90〜100%で「エレクトリファイド・カーズ」導入を目指すという。

ここでいうエレクトリファイド・カーズとは、BEV(バッテリーEV)とPHEV(プラグインハイブリッド車)を指し、残りの0〜10%については、マイルドハイブリッドを想定している。

ボルボ・カーズといえば、2021年3月に「2030年までにすべてのボルボ車をEVへ」という将来計画を発表。ハイブリッド車を含む内燃機関を搭載した車をグローバルで段階的に廃止することを目指すとして、他社に先駆けてEVシフトに注力する企業姿勢が世界的に注目された。

その後、BEVでは「EX40」/「EC40」/「EX30」/「EM90」/「EX90」をグローバルで導入し、BEVのモデルラインナップを拡充してきた。

そんな着実なEVシフトの道を歩んできたボルボが今、なぜ2030年完全EV化目標を事実上撤回したのか。その背景には何があり、今回の方針転換は日本市場にどのような影響を及ぼすのか。EV市場を俯瞰(ふかん)してみよう。

グローバルでEVシフトが変調の兆し

まずは、欧州市場の変調がある。欧州連合(EU)は地球温暖化への対応からいち早く、カーボンニュートラルを提唱してきた。

その中で、欧州グリーンディール政策を打ち出し、乗用車と商用車について規制を設ける議論を進めていった。その結果、「2035年までに欧州域内で販売される乗用車の新車100%をZEV化(BEVまたは燃料電池車)」することを目標とした法案の整備が続いていた。


ボルボが2030年完全EV化を撤回した背景。

これが、欧州内に本拠地を置くボルボがEVシフトを決断した最も大きな理由である。

ところが、ドイツ政府が2023年2月、合成燃料(eフューエル)による内燃機関の存続を2035年以降も認めるようEUに提案。これによって、欧州のEVシフトは時期尚早という報道がグローバルで広がった。

一方で、ボルボの親会社である中国の吉利(ジーリー)ホールディンググループの影響も考えられるだろう。

世界最大の自動車製造・販売国である中国では、BEVに対するユーザー向け補助金が段階的になくなっている状況で、ユーザーの志向がPHEV(プラグインハイブリッド車)やレンジエクステンダーにシフトしている。

そうした中で、BYDなどBEVだけではなくPHEVなどのラインナップが豊富なメーカーの業績が好調だ。吉利(ジーリー)ホールディンググループとしては、中国地場ブランドなどとの部品共有性を考慮することが考えられる。

ボルボが今、社会の現実に直面して出した答え

アメリカについては、ボルボは利益率の高い上級SUV市場を重視してきた。だが、堅調だったテスラの需要が一服したという見方が広まったり、また大統領選挙後の市場変化の行方が読みづらい状況にある。

さらに、日本では日系、欧州系、韓国系、中国系など様々なBEVが続々と市場参入しているものの、BEVのシェアは2%弱。最も売れているBEVは、日産の軽自動車「サクラ」という市場構成だ。


ボルボが2030年完全EV化を撤回した背景。

このように主要市場では短期的にはEVシフトがスローダウンしていることは間違いない。

その上で、ボルボのジム・ローワンCEOは次のようにコメントしている。

「ボルボ・カーズの未来は電動化であるという信念はゆるがない。電動化車両は優れたドライビング体験を提供し、カスタマー・エクスペリエンス全体を向上させる先進技術を活用する可能性を高める。

しかし、電動化への移行が直線的なものではないことは明らかであり、お客様と市場への受け入れスピードはそれぞれ異なっている。私たちは、電動化とサステナビリティに関して業界をリードする立場を維持しつつ、現実的で柔軟な姿勢で対応していく」

ボルボがグローバルでEVシフトを牽引するという意思を貫きつつも、国や地域によって市場の変化が大きい現状を見据えた発言だ。その上で、ボルボは現実解に基づくEVシフトを今後も続けるだろう。