「絶対に負けられない」サッカーW杯最終予選がまったく盛り上がらない理由…なぜそれでもテレビ中継をやめないのか

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メンバー発表の際も盛り上がらず

5日夜、サッカー日本代表の2026年北中米ワールドカップアジア最終予選(3次予選)がスタートする。日本代表の初戦は同日19時から埼玉スタジアム2002で行われる中国戦。これまで通りテレビ朝日が生中継するが、「絶対に負けられない戦いが、そこにはある ROAD to 2026」と掲げながらも盛り上がりの声は聞こえてこない。

振り返ると、1週間前の8月29日に27人のメンバーが発表された際も、かつてのような期待の声は少なく、ネット記事もサッカー専門サイトとスポーツ紙程度に留まり、コメント欄も穏やかだった。

しかし、現在の日本代表には久保建英(スペイン/レアル・ソシエダ)、遠藤航(イングランド/リバプール)、三苫薫(イングランド/ブライトン)、堂安律(ドイツ/フライブルク)、南野拓実(フランス・モナコ)、上田綺世(オランダ・フェイエノールト)、守田英正(ポルトガル/スポルティング)、鈴木彩艶(イタリア/パルマ)などヨーロッパ各国のチームでプレーする選手がそろい過去最強と言われるだけに、情報番組を手がける知人のテレビマンが「このメンバーでも盛り上がらないのか……」という落胆の声をあげていた。

その背景にはどんなことがあるのか。また、生中継するテレビ朝日は、なぜ放映権が高騰するサッカー日本代表にこだわり続けるのか。テレビ業界周辺で聞こえてくる声を交えながら、現状と難しさをあげていく。

出場枠が「ほぼ倍増」した影響

最終予選(3次予選)は18チームが出場して6か国×3グループに分かれ、日本はオーストラリア、サウジアラビア、バーレーン、中国、インドネシアと同じグループCに所属。各国とホームアンドアウェーで対戦し、上位2か国が本大会への出場権を獲得する。

一方、Cグループの3・4位は4次予選にまわり、A・Bグループの同順位と合わせた計6か国×2グループに分かれて中立地で総当たり戦を行い、1位の2か国が出場権を獲得。両グループ2位の2か国は5次予選としてホームアンドアウェーで対戦し、勝ったチームが最後の出場権を賭けて大陸間プレーオフに挑む。

ワールドカップは2026年大会から出場チームが32か国から48か国に増え、アジアも4.5枠から8.5枠にほぼ倍増したため、「楽勝だろう」というムードがサッカーファンのみならず一般層にもただよっている。

本大会常連国の日本、イラン、韓国、オーストラリアに加えて、力のあるサウジアラビア、カタールを加えてもまだ6か国。イラク、ヨルダン、ウズベキスタン、UAE、オマーンあたりにも出場のチャンスがあると見られ、「さすがにこれで負けるようなら本大会に出ないほうがいい」と突き放すような声が多くを占めている。

そもそも日本代表は1998年のフランス大会から2022年のカタール大会まで7大会連続出場中であり、直近の2大会では決勝トーナメント進出。さらにヨーロッパのクラブに所属する選手が増え、「この人がケガをしたら大幅な戦力ダウンであぶない」という想定がしづらいほど選手層が厚くなっている。逆にサッカー専門のネットメディアでは、「『この選手を見たい』という選出外の選手をフィーチャーした記事のほうが盛り上がる」という現象が起きているくらいだ。

オーストラリアは5大会連続で対戦

加えて、最終予選(3次予選)の対戦相手が「いつもの対戦相手」「移動や時差、戦術的な相性、ジャッジに不安のある中東勢が少ない」ことが危機感を覚えづらい状況に拍車をかけた。

まずオーストラリア、サウジアラビア、中国の3か国は、前回2022年大会の最終予選でも同じグループで対戦したばかりの相手。

さらに前々回2018年大会の最終予選でもオーストラリアとサウジアラビアは同じグループであり、オーストラリアに至っては前々々回2014年、前々々々回2010年の最終予選も含めて5大会連続で日本と同グループに入っている。オーストラリアがオセアニアサッカー連盟からアジアサッカー連盟に転籍して以降、全ての最終予選で日本と同組に入っているのだから、新鮮味や緊迫感がないのは当然だろう。

日本代表の最終予選(3次予選)は5か国とホームアンドアウェーの計10試合が9月5日から来年6月10日にかけて予定されている。しかし、5日に行われる中国戦に続く、11日の第2戦「バーレーンvs日本」、10月11日の第3戦「サウジアラビアvs日本」のテレビ中継はなく、有料のDAZNで配信されるのみ。つまりアウェー戦は放送されないのだが、「はじまってすぐの第2・3戦が見られない」という心理的な影響は大きい。

次に放送されるのは10月15日の第4戦「日本vsオーストラリア」だが、もしここまで3連勝していたら楽勝ムードはさらに高まり、最終予選は「別に見なくてもいいもの」とみなされてしまうかもしれない。テレビ朝日のテレビマンにとっては、約1か月のブランクに加えて「圧勝しすぎると盛り上がらない」というジレンマがあるのだ。

しかもその「アウェー戦の放送なし」による「別に見なくてもいいもの」というムードは2021年以降続いている。テレビ朝日は「一定の視聴率が望めるゴールデンタイムでの生放送が可能なホームの試合だけ放映権を買う」という形を採用してきた。民放他局も深夜帯などで視聴率獲得が難しいアウェー戦の放映権を買おうとはしない。

そもそも民放各局が求めるコア層(主に13〜49歳)の「放送離れ、配信重視」が進んでいること。また、日ごろサッカーやプロ野球などを見るためにDAZNに加入しているスポーツ好きは放送がないことを「何の問題もない」「むしろ配信のほうが見やすい」と好意的にみていることなどもあって、「サッカー中継を取り巻く状況が好転することはないだろう」というのが業界の共通認識となりつつある。

絶対に譲れない「サッカーのテレ朝」

1993年の「ドーハの悲劇」や1997年の「ジョホールバルの歓喜」の熱気を知る人々にしてみれば寂しさを感じてしまうだろう。しかし、「何でテレビ中継がないの?」という戸惑いや、「なぜ放送しないんだ」という怒りの声すら聞こえてこない今、最終予選の盛り上がりは日本代表が「絶体絶命のピンチ」にでも陥らない限り難しいのかもしれない。

実際、テレビ朝日の「絶対に負けられない戦い」というキャッチフレーズの訴求力はすっかり薄れてしまった。“最終”予選ではなく“3次”予選に過ぎず、「もし1・2位に入れなくても次がある」という事実としての意味合いも大きいだろう。

「見なくても普通に勝ちそう」という楽観論がただよい、知人のテレビ朝日の局員はオフレコを条件に「勝ってほしいけど、局としては苦戦してほしいところもある」という複雑な心境を語ってくれた。

いずれにしても、「期待しているほどの視聴率を獲得できない」というリスクは決して小さくないが、テレビ朝日にとってサッカー日本代表のアジア最終予選は「局のアイデンティティ」と言ってもいい貴重なコンテンツであることに変わりない。

日本テレビがラグビーとバスケットボール、フジテレビがバレーボール、TBSがWBCとバレーボールなどと、「各球技の中継局」というイメージを定着させているが、テレビ朝日にとってサッカーは最も手放せないものなのだろう。「たとえホーム戦だけで収益的に難しくても、これを放送せずに『サッカーのテレビ朝日』は名乗れない」という矜持がうかがえる。

話を「最終予選の放送がないことに対する戸惑いや怒りがない」に戻すと、世間の人々にあるのは「本番だけ楽しめればいい」という効率重視のタイパ思考。おそらく本大会の試合では手のひらを返したように日本中で盛り上がるだろう。

しかし、その本大会ですら放映権が高騰し、すでに2022年大会ではNHKと民放で組織するジャパンコンソーシアムでの枠組みが崩れてしまった。FIFA(国際サッカー連盟)のはからいなども想定され、日本戦や決勝戦などの無料放送は保護される可能性が高そうだが、いずれ「その他の試合は有料配信がベース」という形に落ち着くかもしれない。

サッカーの優位性をキープしたい

そして近年テレビ業界内でささやかれているのは、サッカーそのものを取り巻く環境の変化。

今なおサッカーワールドカップはオリンピックと並ぶ2大イベントであり、国内での影響力は他のエンタメを寄せ付けないレベルにある。ただ、オリンピック出場を懸けた各競技の予選に世間的な盛り上がりはさほどなく、コアなファンを除けば「オリンピック本番だけを楽しめばいい」というタイパ思考がうかがえるが、「近いうちにサッカーも同じようになっていくかもしれない」という見方もある。

少なくとも民放各局におけるサッカーというコンテンツは扱いが難しいものとなっていた。日ごろJリーグの全国放送がないだけでなく、欧州の人気クラブが来日してもスタンドはガラガラで視聴率も獲れない。それどころか週末のスポーツニュースでもサッカーは視聴率が獲れないから避けられてしまう。サッカーフリークは有料配信で見るのが当然のようになり、もはやサッカーは一般層を狙う無料放送の民放各局にとって手を出しづらいコンテンツになってしまった。

しかし、それでも業界内に「できるだけサッカーの優位性をキープしたい」という見方が残っているのも事実だ。サッカーは「日本で最も競技人口の多い球技」と言われるほか、「世界の各大陸で活発なグローバルスポーツ」としての優位性を保つために、「ワールドカップのアジア予選に限らず、男女の日本代表戦をできる限り放送していこう」という姿勢がテレビ業界にまだ残っている。裏を返せば、「これ以上サッカー日本代表の試合をテレビ中継しなくなったら元には戻れなくなる。他のスポーツに吸収されてしまう」という危機感があるからだろう。

ここ数年でバスケットボール、バレーボール、ラグビーなどの日本代表が強くなり、若手のスター選手が誕生するなど、ワールドカップやオリンピックのような国際試合が盛り上がる球技が増えた。また、スポーツに限らずエンタメ全体が多種多様になる中、以前よりも数字が厳しくなるのは承知で、それでも「どのように盛り上がりを作っていくか」というフェーズに入っているのかもしれない。

現状はテレビ朝日のイメージが強いものの、テレビ業界全体がサッカー日本代表というコンテンツをあきらめたのではなく、むしろ「まだまだトップコンテンツ」という共通認識が残っている。それだけに「試合の中継があるかないか」だけでなく、スポーツ番組や情報番組での扱い、動画コンテンツでのフォローなども含め、どんな手段で盛り上がりにつなげていくのか興味深い。

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