架空のおじいちゃんカメラマン「會田与作」

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 生成AIについての議論が加熱するなかで昨年6月頃、Xに登場して話題になったアカウント「會田与作」(@aidayosaku_)がある。83歳のおじいちゃんカメラマンが撮影したという写真を掲載しているが、よく見るとどこか違和感が……。
 じつは、生成AIで作成された“架空”の人物と写真なのだとか。しかしフォロワー数は伸び続け、現在は5万弱。なんと今年の8月には有楽町の阪急メンズで写真展まで開催予定だ。SNSでバズっているのなら、かなり儲かっているのではないか? 「中の人」に話を聞いてみた。

◆現れたのは「マネージャー」の30代男性

「會田与作」とコンタクトを取り、オンラインでの取材を受けてもらうことに。当初は「本当に80代の男性ではないか?」「いやいや、実は10代の高校生だったりするのでは?」などと編集担当者と想像を膨らませていたが、パソコンの画面上に現れたのは30代の男性。

 彼は自らを「會田与作のマネージャーの長橋です」と名乗った。本業はグラビアをメインに活躍するカメラマン。カメラマンならば最も生成AIの登場に脅威を感じている立場なのではないか?

「実はそこまででもなくて……すごい話題になってるなぁという程度でした。周りのカメラマンも生成AIを触りだして、高品質なものが簡単にできるらしいと聞いて自分もチャレンジしてみました。

 そこで、改めて人間のカメラマンの役割が明確になった感じがしましたね。たとえば、ちょっとした写真は生成AIに取って代わられてしまうかもしれませんが、まだまだ人間が勝てる要素があると確信したんです」(長橋さん、以下同)

 実際に生成AIを体験し、むしろ現時点での限界が見えてきた。「すぐに仕事がなくなってしまうことはないだろう」と感じた長橋さんは、AIで様々な実験を始めた。

◆アカウント名「aidayosaku_」は「AIだよ」

 生成AIが登場した頃、ネット上でやたらと目にしたのは露出度の高い美女の画像だった。

「当初は多くの人が可愛い女の子たちをいかに作れるかみたいなコンテンツにしのぎを削っていた印象です。でも自分は興味がなかったので、おじいちゃんが現実でありえないことをしている画像をふざけて作っていました。結構面白い画像ができて、SNS上でアカウントを作ったら面白いかも……と始めたのがきっかけです。こんなに注目されるとは思っていませんでしたね」

 Xのアカウント名は「aidayosaku_」。「AIだよ」から「あいだよさく」へと着想したと話す。遊びで始めたとはいえ、コンセプトは初期からしっかりと構想されていたようだ。投稿する画像はどのように作っているのだろうか。 

「生成AIには大きく分けると『Stable Diffusion』と『Midjourney』の2つのソフトがあります。『Stable Diffusion』は少し知識が必要ですが、僕が使っているのは『Midjourney』で、文章を翻訳サイトとかで英文にしてから入力するだけで高品質な画像できあがるんです。

 おばあちゃんの『果実でチャック』の画像なら、『おばあちゃんがジップのついた衣装を着ていて、頭に果物が生えている』みたいな文章を入力しました。最初はクオリティの低いものが出てくることもあるので、少しずつ修正して完成させますね」

 生成AIは人工知能が自動で画像を作ってくれるものの、ソフトに入力する文章は人間が考える必要がある。長橋さん自身のクリエイティブな発想も重要なのではないか。

「僕は大したことはやっていません。こんな画像を作りたい、というよりは“画像大喜利”みたいな感じです。出てきた画像に対してこういう文章を載せたらSNSでは面白いんじゃないかな、と考えています。見てくださっている方も画像単体よりも文章込みで楽しんでくれている気がしますね」