「昼の晴海フラッグ」(6月2日に渕ノ上氏が撮影)

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 晴海フラッグを巡る報道が過熱している。当初は抽選倍率〇〇倍といった話題や、大きな転売益を得た事例など、その人気ぶりにフォーカスした内容が多かった。ところが最近は、「夜になると人通りもまばらでゴーストタウンのよう」といった話や、転売益や賃料収入を当て込んで物件を買った法人名義の購入者が苦戦を強いられている、といった“下げ記事”が目立つ。不動産のプロはこうした状況をどのように見ているのだろうか。前編に続き、不動産ナビゲーターの渕ノ上弘和氏に聞いた。

 (前後編の後編)

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【写真を見る】最近の「夜の晴海フラッグ」の光景 “ゴーストタウン説”は本当?

NHKのキャンペーン報道

 晴海フラッグの“負の側面”を伝える記事の中で、特に注目を集めたのがNHKの一連のキャンペーン報道だ。

「昼の晴海フラッグ」(6月2日に渕ノ上氏が撮影)

・晴海フラッグ 法人所有4分の1以上の街区も 投資目的の実態は
・晴海フラッグ 2割近くが賃貸や転売 “マネーゲームの場に”
・元選手村「晴海フラッグ」 3割以上の部屋で居住実態確認できず
・晴海フラッグ投資目的所有 東京都“施行者は販売関与できず”

 不動産ナビゲーターの渕ノ上弘和氏は、NHKの報道についてこう指摘する。

「すべてが間違いだとは思いませんが、いささか“角度”をつけた内容にも思える。冷静な視点も必要では」

 例えば、3割以上の部屋で住民票の登録がなく、居住実態が確認できていないという報道。これには、晴海フラッグという物件の性質や、大規模物件特有の事情が関係していると話す。

「晴海フラッグの購入者には、マンションを買うのが“2回目以降”という層が一定数いると見ています。近年の物件価格の高騰で、一時取得したマンションで多額の“含み益”が生じている人も多い。また、晴海フラッグの販売価格は市況価格よりもかなり安かったため、購入者の中では“買い替え”ではなく、もともと住んでいた物件を売却せず“ダブルローン”を組んでいる人もいるのでは」(渕ノ上氏)

 そうした人たちは急いで引っ越しをする理由がなく、いま住んでいる物件を賃貸に出すのか、売却するのか検討中という可能性も考えられるという。

「かなり規模の大きな物件ですし、街開きと同時にマンションがいっぱいになる方が考えにくい。つい最近、晴海フラッグの向こう岸から写真を撮ったのですが、明かりのついた部屋は一定数あった印象です」(渕ノ上氏)

「キーボックス」の真実とは

 一方で、物件の引き合いについては、部屋の条件によって差が大きいのだそうだ。

「100平米を超える部屋や、最上階の部屋など、プレミアムな物件は転売もすぐに決まっていましたね。中には1億円ほどで購入した物件が1.5倍の価格で売却成立するケースも見受けられました。一方、眺望の良くない物件などは少し苦戦している印象も受けます」(渕ノ上氏)

 物件の近くで「多数のキーボックス」が見つかったという報道についても、不動産関係の仕事に就いている人なら「察しがついているはず」と話す。

「報道では民泊なのでは、と言われたりもしていますが、仮にあったとしても大量に存在している状況は考えにくい。話題の新築物件ですから、民泊という回転率が不安定な“事業”を行うより、賃貸に出した方が費用対効果は見込みやすいですし、そもそも民泊での利用は禁じられています。管理組合に見つかればペナルティを負うことになりますし、そんなリスクを冒してまで民泊に出すということは不自然さが否めません」(渕ノ上氏)

 では、いったい誰が、何のために――?

「物件見学用の鍵を入れていたと考えるのが自然です。あれだけの数があったということは、それだけ希望者が多く、それに伴う物件見学の希望者も多いと言えるでしょう」(渕ノ上氏)

 駅から距離のある物件で、高頻度で内見申込があるとすると、毎度のように店舗に鍵を取りに戻るのはかなりの手間になる。褒められたことではないが、同じ方法で鍵の受け渡しが行われるケースは都内の別の物件でも見られるという。晴海フラッグ周辺は他に建物が少ないため、余計に特に目立ったということだろうか。

約7〜800万円もの頭金が預けっぱなしだった

 晴海フラッグは当初より、2年ほど時間をかけ、ゆっくりと満室にしていく計画だったという話もあるそうだ。では、現在募集中の賃料の水準は、妥当なのだろうか。

「私のお客さんの中にも、70平米ぐらいのファミリータイプの物件で、月額賃料30万円ほどですぐに入居者が決まった、というケースはありました。そうした例も実際にあるため、30万円が高すぎるとは思いません。交通の便にウィークポイントがあるのは事実ですが、バスの本数は十分で通勤に困ることはないと聞きます」(渕ノ上氏)

 ただ、これ以上の賃料が望めるかと言うと難しく、目先ではこれぐらいの水準で移行するだろうと見ているそうだ。

「階数や眺望にもよるのですが、35万円ではさすがに割高感が出てきます。逆に低層階でも28万円ほどであれば、値ごろ感があります。だいたいこれぐらいの相場感覚で少しずつ埋まっていくのではないでしょうか」(渕ノ上氏)

 販売初期の“一期一次”で70平米ほどのファミリータイプの物件を購入した人の場合、物件価格は約7000万円だった。賃料30万円で賃貸に出せば、利回りは5%ほどになる。

「これほど駅距離のある物件で利回り5%を出せればかなりの好パフォーマンスの部類と言えるでしょう。物件価格が安すぎたという報道も目立ちますが、コロナによる凍結期間の存在や、本当に想定通り売れるのか、といった先行きの不安定さは、当時のマーケット環境を勘案すると否定できませんでした。高利回りを手にできる人は、一方で4年間もの間、約7〜800万円もの頭金が預けっぱなしになっていた事実も考慮すべきでは」(渕ノ上氏)

 住みたい人も、そうでない人も。完成前からこれだけ長きにわたり、多くの人々の心を奪ったマンションは、後にも先にも晴海フラッグだけかも知れない。

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 この記事の前編では、マンション価格が高騰する昨今、「賃貸物件の賃料」の今後の見通しについて、同じく不動産ナビゲーターの渕ノ上弘和氏に聞いた。

デイリー新潮編集部