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「子育て支援」と言われる制度やサービス、団体は多くありますが、“ママ育て支援”という取り組みは、あまり馴染みがないかもしれません。そんな“ママ育て支援”を行うNPO団体を大分市に住む女性が立ち上げました。なぜ彼女は活動を始めることになったのか――自身の子供時代につらい経験があったと赤裸々に語り始めました。

【写真を見る】幼少期に実母が浮気相手と目の前で性行為 「ずっと見ていて自分にも…」あらゆる虐待を受けた女性が明かす“記憶”と“変化” 再会した母親からまさかの言葉

息抜きできる環境を…NPO団体を設立

ことし4月、大分市の公民館で子育て中の母親が集まり、会話に花を咲かせていました。

「一番上の子は長男なんで、もう本当に羽の生えた虫なのかなって思うぐらい、すぐいなくなる」
「わかるわかる~」
「そうそう、どこにもいなくなっていて、本当、男の子育てるのって大変」
「洗濯しようと思ったら、ぶわ~って服のポケットから土が落ちてきた」
「靴なんて1か月もたないし」
「成人した男の子に言うけど、本当に男の子ってお母さんに感謝した方が良いよ」

子育ての悩みを母親同士で相談するサークル「ママのゆりかご」。子供たちの日常や夫のこと、生活のことなどを語り合う場です。

ママのゆりかごは、少しでも息抜きできる環境を届けようと、2017年に設立されたNPO団体。代表を務めているのは、皆川めぐみさん(42)で、3人の子供を育てるシングルマザーです。

皆川めぐみさん:
「元々、私も子育て中にいろいろな困りごとに直面しました。例えば、夕方家事で忙しいのに子供が黄昏泣きでなかなか泣き止まなかったとか、店のレジで並んでいる時に赤ちゃんが泣きだすとか。その体験談をほかのお母さんたちに話していたら、やっぱりそのお母さんも同じことを思っていた。そこで、いろいろ調べていたら『共同育児』というものにたどり着いて、同じ志を持った人たちと設立したのがきっかけです」

こうした活動を始めた背景には、皆川さん自身の暗い経験がありました。

お母さんに連れられ浮気相手とラブホテルに…

「私が幼少期の頃、あらゆる虐待を受けてきたんです。性的だったり、身体的とか、そういう虐待を全て受けてきている中で、自分が子供を産むまでは、母親をすごく恨んでいた」

虐待を受けていると気づいたのは、物心ついた頃からでした。

「お母さんがラブホテルに浮気していた相手と行ってたんですけど、それに自分も一緒に行かされたんです。だから、それをずっと見ていた状況でした。そのお母さんの浮気相手は、自分にも性的なことをしたので、 なんか、この人ってなんなんだろうなと…。だから中学生になる頃には、気持ちがぐちゃぐちゃで、もうみんな死ねばいいのにと思っていました」

さらに虐待は続きます。

「お母さんが浮気していることを父親に言うと、もちろん夫婦喧嘩になる。その夫婦喧嘩がとりあえず落ち着くと、お母さんが私の部屋に上がってきて、胸ぐらをつかまれて、起こされて。 『私はなんかお前に迷惑かけてるんか』、『私が他の男とおったら何が迷惑なんか』みたいな感じで言われて、叩かれ、蹴られ…」

許す気はなかった母親との再会

死にたいと思うことが日常茶飯事だったという皆川さん。自分は必要とされていないと感じ、いつ死んでも誰も悲しまないと思いながらつらい毎日を過ごしてきました。

今でも精神的に苦痛を感じることも多く、うつ病を患ったままですが、次第に考え方が変わってきます。それは、結婚、出産、そして2度の離婚を経験してからのことでした。

「私自身が子育てをして、お母さんはつらかったんだろうな、寂しかったんだろうなっていう気持ちが湧いてきました。それでも、お母さんを許す気はなかったです」

そんな親子に2年前、転機が訪れます。

「私が仕事で出張に行くとき、どうしても子供を預かってくれる人がいなかったんです。しょうがなくお母さんにちょっと手伝ってほしいって言った時に、母親と久々に再会しました」

母親からまさかの言葉

10年ぶりに再会したという皆川さん親子。母親が口にしたのは、謝罪の言葉でした。

「お母さんが、今まで10年間ずっと夢でうなされていたって打ち明けてくれたんです。『今までずっと謝れなくて、ごめんなさい』って。これからは子供の私に『今までできなかったことをたくさんしてあげたいんで許してほしい』ってその時、初めて謝ってくれたんです」

“ごめんなさい”という言葉、そして娘を抱きしめる皆川さんの母。抱きしめられる記憶すらなかった皆川さんにとって、お母さんの存在を感じた瞬間でした。

「その一言が欲しかったんですよね。ずっと小さい頃から。なので、やっとわかってくれたんだと思った。でも、この年になるまでこの人わからなかったんだと思って、かわいそうだなとも思ったんです」

「ママ育て支援」友達感覚の居場所づくり

子供が幸せな生活を送るためには“ママ育て支援”が必要。それが、つらい経験をした皆川さんの至った結論でした。そのために設立したのが「ママのゆりかご」です。

月1回イベントや勉強会が開催されるママのゆりかごには、保育園や幼稚園に入る前の母親が多く参加しています。スタッフが子供の面倒を観てくれるため、参加している時間は子育てから解放されるのが特徴です。

参加者の多くは親が遠くにいたり、夫の転勤で大分に来たりするなどして、“頼れる人が近くにいない”母親。中には赤ちゃんの夜泣きがひどくて寝かさせてほしいという母親、子供の世話に疲れて泣きながらやってくる母親もいたそうです。

ママのゆりかご参加者:
「他の子育て支援サークルは、自分の子は自分で見ていないといけないという感じがあるんですけど、ここはいくら子供が泣いてもスタッフさんが『今ママと離れる時間だから任せて任せて』って言ってくれるので、安心してゆっくり時間を過ごすことができるんです。もちろん先輩ママとしてアドバイスもいただくけど、私が今頑張っていることや趣味の話を聞いてくださって、お友達感覚でもいられる場所です」

虐待に苦しむ子供をなくしたい

ママのゆりかごではイベントや勉強会だけでなく、厳しい状況に置かれた母親の自宅に訪問して、支援することもあります。掃除・洗濯の経験が少ないため、家がゴミ屋敷のようになった母親、まったく料理ができなくてインスタント食品ばかり食べている母親。そんな母親でもママのゆりかごは、親身になってサポートし、少しずつ子育てのスキルを身につけてもらいます。まさに“ママ育て支援”です。

皆川めぐみさん:
「もう自殺するんじゃないかという形相で来た人もいます。そんな方でも今では資格を取ってお母さんたちを支えるコミュニティを作った人もいました。1年、2年とやっているとすごく成長したなって思うこともあって、それが私たちの一番の醍醐味です」

「最終目標はお母さんのシェルターを作りたいなと思っています。県でもシェルターはあるんですけど、それはあくまでもDVのシェルターで、児童相談所もそうなんですけど、子供の命を守ればいいっていうだけの思想なんですよね」

「お母さんと離れたいと思っている子は1人もいなくて、ママ大好きなんですよ。叩かれても殴られても変なことされてもお母さん大好きだし。だから、お母さんと離れたくないので、お母さんと一緒に保護する施設が欲しいんです。お母さんと一緒に保護して、例えば田畑を耕して自分で作物を育てたり、食べたりとか、そういうことをしながら社会にまたお母さんを戻していくというシステムを作りたい」

ママのゆりかごの設立から7年。世間で児童虐待のニュースが報じられるたびに、虐待に苦しんでいる子供がまだ多くいると皆川さんは感じています。一方で、虐待なんて本当はしたくないのに、自分の衝動を抑えきれない母親も多く見てきました。“ママ育て支援”を広げていくためにはどうすればいいか、皆川さんは今も悩み続けています。

「施設を作ろうと思えばかなりのお金が必要ですし、財源ももちろんないです。やはり、国や県が動いてくれないと難しいところはあります。でも、お母さんを支え、しっかり教育していかないと、将来私みたいにトラウマで苦しみ続ける子供がたくさん増えます。そうじゃない世の中を作りたいんです」