再開発が予定されているJR「秋葉原」駅前の電気街には、中小ビルや店舗が並ぶ

コロナ禍を経て大型ビルの顧客獲得競争が激しさを増している。一方、都心の再開発による大量供給はとどまるところを知らない。

『週刊東洋経済』11月25日号の特集は「不動産・オフィス大余剰」。湾岸エリアの泥沼や麻布台ヒルズの苦戦、大阪 vs. 福岡、ESGバブル、ゼネコン事故、神宮外苑開発など、日本の不動産・オフィスの最前線を追った。


外国人や日本人の観光客が多く訪れる東京都千代田区・秋葉原の電気街。電化製品やアニメなどの専門店が軒を連ねるこの「サブカルの聖地」で、大規模再開発が計画されている。

JR「秋葉原」駅の南西にある、万世橋に近い約1万9000平方メートルが対象となる「外神田一丁目南部地区」再開発では、オフィスを核とした複合ビル2棟(高さ170メートルと50メートル)が建設される。

千代田区の清掃事務所や葬祭施設など公共施設がビルに入居する一方で、現在中小ビルや店舗が並ぶ区道3本は廃止される計画だ。

この「アキバ」再開発をめぐり、地元では反対運動が起きている。

秋葉原の文化を大切に残すべき

「秋葉原の未来を考える会」の鈴木健太氏は「中小ビルが取り壊されることで、個性豊かな店舗の撤退が懸念される。再開発で取り壊すのではなく、秋葉原の文化を大切に残すべきだ」と語る。

「電化製品などを深掘りしてきた秋葉原が、高層ビルの立ち並ぶ金太郎あめのような街になってしまう懸念がある」と再開発に慎重な地権者の石丸俊之氏も同意する。

「住民の同意を得られる見通しが立っていないうえに、行政は正しく問題を認識できていない。事態が泥沼化する懸念がある」。2023年7月25日、千代田区役所で開催された都市計画案を審議する場で、審議会メンバーの一人は語気を強めた。

これに対し千代田区の担当者は、「計画が承認されないならば再開発の準備組合を脱退したい、という声も一部地権者にはある。千代田区としては速やかに再開発を前に進めたい」と強調した。

結果、この都市計画案は賛成8名、反対7名と僅差で承認された。「秋葉原の未来を考える会」に賛同する大城聡弁護士は、「中立的な立場であるべき行政が前面に出て再開発を主導しており、強引だ」と指摘する。


スクラップ・アンド・ビルドの再開発に反対の声を上げる地元住民

オフィス開発は儲かる

2022年10月末時点で、東京都内の進行中の市街地再開発は合計71地区(うち事業認可前の予定地区が17地区)あるが、その大半はオフィスフロアを核とした高層ビルかタワーマンションを建設する計画だ。

市街地再開発事業で造られた施設や建物のうち、地権者が取得する権利のある床(権利床)以外の床面積は保留床と呼ばれる。デベロッパーなどの再開発事業者は、保留床を貸したり売却したりする。

そのため、容積率緩和で物件を高層化し、床面積やフロア数を増やすことが事業者の収益につながる。「安定した収益が見込めるので、マンションやオフィスビルを開発するのが最も効率的だ」と複数の大手デベロッパー関係者は話す。

国土交通省によれば、2013年から2017年までの5年間で完了した東名阪中心部での市街地再開発の主な用途は、35%が住宅、31%が事務所だった。


自治体からすれば住民税や法人税などの税収拡大や、容積率緩和の見返りとして再開発事業者の費用負担で公共施設や交通インフラの整備も期待できる。だからこそ「自治体が再開発を主体的に推進して、デベロッパーなど再開発事業者の協力を仰ぐケースもある」(再開発コンサルタント)。

タワマン開発の動きは都心周辺部にまで広がる。「せんべろ(安く飲酒できるお店)の聖地」である北区赤羽や葛飾区立石では、飲み屋街を取り壊し駅前にタワマンを建設する再開発計画が進行中だ。

大山駅周辺で複数の再開発

中でも、複数のタワマン開発が連鎖的に進んでいるのが、板橋区の東武東上線「大山」駅周辺だ。

事の発端は、2015年に事業認可された都市計画道路「補助第26号線」にある。大山駅前から「川越街道」までの未整備区間を拡幅して道路を整備する計画である。

同時に進められているのが「大山町クロスポイント周辺地区」での再開発だ。補助第26号線の整備区間と重なる商店街のアーケードや店舗などを解体するとともに、住友不動産が参画し2棟のタワマンなどを建設する。

「大山問題を考える会」の石田栄二代表は、「再開発でアーケードが破壊されて商店街が分断されると、環境悪化とさらなる店舗撤退の懸念がある」と語る。

さらに連鎖する形で進められるのが「大山町ピッコロ・スクエア周辺地区」の再開発だ。積水ハウスがタワマン2棟を建設する一方で、既存店舗は立ち退きとなる。

同地区のスーパー、コモディイイダの飯田武男社長は憤りを隠さない。「都内指折りの商店街を構成するいくつもの店舗が立ち退きとなり、タワマンが建設される」。


東側で新たな再開発が進行

水面下では、大山駅の東側で新たな再開発が進行する。住友不動産は2022年5月、地権者向けに土地活用協議会を開催した。

「駅前広場の整備で立ち退きとなる住民の移住先をつくるためにも、再開発で新たなタワマンを建設する計画を立てているようだ」(勉強会に出席した地元住民)

大手デベロッパー関係者は「再開発で新たな人流やにぎわいが生まれ、街の活性化や魅力向上につながる」と話す。再開発にそうしたメリットがあるのも事実だ。

とはいえ、長期的には人口減少が進み、オフィスビルや住宅の需要も徐々に縮小していくだろう。スクラップ・アンド・ビルドの再開発ではなく、個性豊かな街の資産を大規模修繕などで維持していく都市のリノベーションも考慮する必要があるのではないか。


(佃 陸生 : 東洋経済 記者)