交渉事に終わりはない。失敗してもいい、相手にされなくてもいい。とにかく当たってみる!(写真:zon/PIXTA)

編集者として、見城徹『たった一人の熱狂』、堀江貴文『多動力』、前田裕二『メモの魔力』など数々のベストセラーを手掛けてきた幻冬舎の箕輪厚介氏は、「僕の人生を変えたのは『怪獣人間』と出会ったこと」だと話します。

「怪獣人間」とは、狂ったように目的だけを見て、革命的な成果を上げていく人たちのこと。人生を変えるようなすごい人たちとどう出会い、対峙し、そして仕事にしていくか。同氏の思考と仕事術を凝縮した新刊『怪獣人間の手懐け方』より、そんな「怪獣人間」たちと交渉するときに欠かせない考え方を解説します。

出版に限らず、仕事の交渉事は、持ちかけて、いきなり「はい、やりましょう」とうまくいくことは少ない。相手が怪獣人間になればなるほど難しい。常に多くの依頼をされる立場だから、ものすごい行列ができている。

最初のアプローチは、いつか結実するためのスタートラインに過ぎない。断られることを恐れてアプローチを躊躇する人や、決断を先延ばしにする人は、根本的な考え方が間違っている。あらゆるものごとは、失敗がスタートなのだ。

断られてからが交渉スタート

交渉事に終わりはない。断られても、まだ最初のアクションに過ぎない。とりあえず「1回目は断られた」というだけ。僕は簡単に出版オファーを受けてもらえると思われるが、「断られ中」の案件は30以上ある。

失敗してもいい、相手にされなくてもいい。とにかく当たってみる。当たり前の行動からは、当たり前の結果しか得られない。

「断られたらおしまいだ」と思えば、たしかに初対面は怖いし、ものすごく緊張してしまう。しかし、断られることはプロセスで、その人との関係性が始まったとポジティブにとらえられれば、何も怖くはない。

怪獣人間にSNSでアプローチするうえで、あなたがまだ何者でもないなら、DM(ダイレクトメッセージ)で声をかけるのはダメだ。誰もが見ることのできるリプライ(返信)や、引用リツイート(リポスト)だから意味がある。多くの人が見ている中で声をかけることが重要なのだ。

怪獣人間は忙しい。できるだけ効率的に生産的に活動し、効果を最大化したいと思っている。そういう怪獣人間が一番嫌いなのは「時間を奪われること」だ。

僕のレベルでさえそうだ。僕がゲスト参加するイベントで、「まだ、チケットありますか」とDMを送ってくる人もいる。こっちは事務局じゃない。いちいち返信したくない。でも、それを公開で聞いてくれたら、それを見ている主催者が返答してくれて、ほかの人にも周知される。宣伝にもなる。

自分は1通のDMを送るだけのつもりかもしれないが、相手はそのDMが100通来ている。そういったことも想像できないといけない。1対1のコミュニケーションではなく、1対複数のコミュニケーションにすることで効果を最大化する。

たしかに、公開のSNSの場で怪獣人間にリプライするのは怖いと感じる人もいるだろう。しかしながら「DMなら誰も見ていないからいい」と思うのは、身勝手な発想だ。

社内での連絡も、複数人に一斉メールしたり、グループラインに送ったりしているのに、個別で返事をしてくる人が必ずいる。こちらの意図を考えてほしい。そのやり取りをみんなで共有するためにグループに投げているのだ。

個別に返す心理は、見当違いな返事をほかの人に見られたくない、ミスったときにさらされたくない、面倒臭そうな上司に何か言われそうで面倒……。そういう心理だろう。めちゃくちゃわかる。僕もダメな新入社員時代は同じだった。

でも、それでは何も成長しないし、関係性はつくれない。人間関係においてノーミスでコトを進めることなどできないのだ。自分の安全だけを考えた自分勝手なコミュニケーションは、結果に結びつきにくい。口説くなら、大勢の前だ。

人間関係から第三者を排除せよ

では、いかにして実際に怪獣人間に接触するか。まず、怪獣人間には直接アプローチするべきだ。

おそらく一般的には、相手が大物であればあるほど広報や知人を経由して紹介してもらうことを考えるだろうが、それではダメだ。怪獣人間相手に第三者経由で仕事しようとすると、たいがいが失敗する。

怪獣人間にとって、大切と思えない人とやる仕事は、やる気そのものが乏しい。彼らは忙しいのだ。懐に入り込まないと、いい仕事にならない。そのために直接やり取りする関係になるのが鉄則だ。

それだけ近いとケンカになるかもしれないし、怒られるかもしれない。それでも、困ったときに、真っ先に思い出してくれる存在を目指すことが第一だ。

それを頭に入れて、実際に怪獣人間に接触してみよう。やり方を間違えると、頭から喰われて二度と立ち直れなくなるからよく読んでほしい。

怪獣人間に会うために手紙を書いたりメールをしたりする。その内容に正解はない。結局、相手がどういう人間が好きなのかを把握することだ。

見城徹さんが、角川書店時代に作家・五木寛之さんに25通の手紙を送り続けて口説き落とした話は有名だ。「手紙で自分の話を書くやつは終わっている、相手のことをどれだけ書けるかがすべてだ」と言っている。

見城さんに出版のお願いをするとき、僕も、その考え方を頭に入れて手紙を書いた。「見城さんの言葉でこういうところが刺激的です」とか「見城さんの本のこういうところが好きです」と。見城さんの人間性とか作品とか、やってきたこと、考え方についてとにかく書いた。

そこでは最低限、相手のことをちゃんと理解しようと努力している姿勢が伝わることが重要だ。

相手がいろいろな情報発信や表現活動をしているのは、自分なりの考え方を伝えたいからだろう。それなのに、見城さんへの手紙で、自分のことばかり書いていたら、「ホントにオレのことを好きなのか?」「オレの本を読んでるのか?」と思うだろう。

でも、「手紙には自分のことを書いてほしい」という人もいるかもしれない。大切なのは、相手がどのようなコミュニケーションを求めている人なのか調べ、考え尽くすことだ。

緊張しても言うべきことを言う

見城さんに初めて会ったときは、どう「断られる」かを想定して、いくつか対抗策を持っていった。

僕はそれまで本を1冊もつくったことがなく、誰にも知られていない編集者だった。デビュー戦が決勝戦。出版界の大怪獣。準備は徹底した。どの角度からボールが飛んできてもいいように。準備不足で立ち往生しないように。事前に頭の中で、何十回と会話をシミュレーションして臨んだ。

いきなり怒られるようなことはないはずだけれど、万が一ということもあるので、それも想定したし、「忙しいからダメ」は必ず言われそうだから、それにも答えを用意していった。

僕は本を出すことが目的だから、いつまでに、という期限は切らず「5年後」と言われたら「そのあいだ、ずっと近くに居られたら勉強になります。5年間取材させてください」と答えるつもりだった。

それだけの準備と心構えがあっても無理なら「いまはその資格がないことを受け止めて編集者として実績を積んで出直すだけ」という気持ちだった。

僕も、怪獣人間に初めて会った頃は、緊張した。どうせ緊張はするのだ。だったら、緊張しても言いたいことを言えるように、入念な準備をしておけばいい。

大学受験のとき、塾の先生に言われて覚えている言葉がある。

「絶対に受験本番は緊張する。だから頭が真っ白になる前提でイメージしておこう」

だから僕も、いざ見城さんを前にしたら頭が真っ白になるという前提で準備した。真っ白になったあとに、これとこれは絶対に言う、30秒しかもらえなかったらこれを言おう、30分話せたらここまで言おう、といった具合に。

まずは相手を詳しく知ること

話す内容を決めるために、本、インタビューなど、あらゆる材料を集めて、相手のことを詳しく知る。そのうえで、相手のメリットになるような提案を考えて「面白いやつだ」とか「一緒に仕事をしようか」と思ってもらえるようにアプローチする。


よくお願いごとをするときに自分のメリットばかり考える人がいるが、問題外だ。相手の人生にとってどれだけプラスになるか、それを考え、話す。結局、準備と想定が甘いから怪獣人間にダメージを喰らってしまう。「怖かった」と脅えただけで終わってしまい、何ひとつ手に入らない。

単純に努力不足なのだ。多くの人は明らかに自分の努力不足なのに、相手とうまくいかなくて「やっぱ、あの人は怖い」「厳しい」となってしまっている。

厳しい戦いになると想定をしたうえで、準備に手を抜かない。そこまでやりきって初めて堂々と臨むことができるのだ。

(箕輪 厚介 : 編集者)