上里SA駐車場に憩う高速バス(筆者撮影)

新型コロナウイルスの第5類移行による通勤通学や観光需要の復活の一方、長期の需要停滞による離職者の増加により、全国各地で路線バスやタクシーの運転手不足が深刻化している。

大阪府南部の富田林市などを地盤とする金剛バスが今年12月にバス事業から撤退し、全15路線を廃止するというニュースは、大都市圏でさえ燃料費高騰による運行経費の増大や運転手不足により地域の足の確保がままならない実態を浮き彫りにして、注目を集めた


富田林駅前に停車中の金剛バス(写真:くろうさぎ / PIXTA)

また、北海道でも札幌駅を発着する郊外からのバス路線のうち、いくつかを近郊の地下鉄の駅止まりにして、中心部への乗り入れ路線を縮小し効率化を図ることが発表されるなど、路線バスの苦境があらためてクローズアップされている。

こうした事態は、これまで路線を延ばしてきた高速バスにおいても起きつつあり、高速道路の延伸とともに、都市間輸送や大都市と観光地を結ぶ路線に確固とした地位を築いてきた高速バスの脆さが、一気に表面化しているといえる。

札幌と広尾を結ぶ「ひろおサンタ号」、休止へ

同じく北海道でもう1つ話題になっているのは、札幌市と十勝地方の広尾町を結ぶ、JRバスの高速「ひろおサンタ号」である。

「サンタ」の名は、1984年に開業したサンタクロースのテーマパーク、「ひろおサンタランド」に由来するもの。広尾町は幸福駅などの存在で知られたかつての国鉄広尾線の終着地であり、今でも十勝地方南部の中心ともいえる町である。

このひろおサンタ号は、これまで「広尾を朝出て昼前に札幌に着く便」と「午後札幌を出て夜広尾に着く便」による往復便が、広尾地方と札幌を直通で結ぶ唯一の交通機関として重宝がられていた。


今も観光地として残る旧国鉄広尾線、幸福駅(写真:denkei / PIXTA)

国道236号線を通って浦河町に出たあと、途中から日高自動車道に入って、一気に札幌までを走る260kmあまりの長距離路線である。

しかし、コロナ禍による需要の低迷に加えて、JR北海道バス運転手の相次ぐ退職なども重なり、2023年11月から当面の間、運休となった。「運休」とはいえ、実情を考えるとそのまま廃止に繋がりかねない状況である。

このバスがなくなると、広尾周辺から道都・札幌への利用者に、時間の面でも運賃の面でもかなり影響を及ぼす。

ひろおサンタ号は広尾6丁目を始発として広尾駅を6時40分に発車、札幌駅前に11時20分に到着する。運賃は片道5190円(往復では8390円)となっている。


広尾のバス停留所(写真:CRENTEAR/PIXTA)

サンタ号が使えないとすると、ほぼ同時刻に発車する帯広駅行のバス(広尾営業所6時44分発)に乗り、帯広でJRの「特急おおぞら」に乗り換えるルートとなるが、これだと札幌着は12時23分。サンタ号より60分程度遅くなり、運賃・料金は片道9000円を超える。

重要な幹線路線「札幌〜函館」も減便に

北海道では、北海道新幹線の延伸による並行在来線の函館本線「小樽〜長万部間」のバス転換構想が既成化しているが、青息吐息のバス会社の状況を見れば、そのバス路線の引き継ぎ手があるかどうかという根本的な課題が突き付けられており、先行きが不透明になってきている。

北海道では、札幌〜函館間というかなり重要な幹線路線でも、今年10月から減便となった。

これまで道南バス、函館バス、北都交通、北海道中央バスの4社運行であったが、9月で道南バスが撤退。もともとは8往復で運行されていたが、それが6.5往復となり、今回4往復に縮小され、夜行便も廃止された。北海道新幹線札幌延伸と競合する路線だが、新幹線開通前に消えゆくのかもしれない。

全国に目を転じても、この秋以降、高速バスの運休や廃止のニュースが相次いでいる。

11月5日には、岩手県交通が運行する「水沢・金ヶ崎・北上〜仙台線」が廃止となったが、この路線は今年5月に運行を開始したばかりの新路線だった。わずか半年間で幕を閉じたことになる。

2020年4月から運休していた、JR四国バスの夜行高速バス「北陸ドリーム四国号」も、今年11月に路線廃止となった。高知・高松・徳島と福井・金沢・富山を神戸淡路鳴門自動車道経由で12時間以上をかけて結ぶ貴重な路線だったが、こちらも人手不足を理由として姿を完全に消すことになった。

JR四国バスのプレスリリースには、はっきりと「乗務員不足等により」と廃止理由が明示されている。


JR四国バスに掲載されたお知らせ(JR四国バスWEBサイトより)

岡山県では、両備バスによる岡山〜津山間の「岡山エクスプレス津山号」が10月末で廃止になった。10年前から運行されていた路線だが、「ご利用状況の低迷等諸般の事情により」(両備バスのHPより)運行が終了している。

以上は、この秋の運休・廃止状況だが、今年前半にも目を向けると、鳥取〜福岡の「大山号」(日本交通・日ノ丸自動車)が1月8日に、北九州〜大分・別府の「ゆのくに号」(西鉄バス)が3月31日に、東京・新宿〜広島の「ニューブリーズ号」(小田急ハイウェイバス/中国JRバス)が同じく3月31日にそれぞれ運行を取りやめているし、「神戸〜湯村温泉」「東京〜富士・富士宮」などの路線が運休となっている(なお、後者は7月に減便して一部再開)。

また11月10日には、長野県の二大都市、長野〜松本を結ぶ高速バスが2024年3月をもって廃止されることも発表された。

「鉄道の代替はバスで」が難しくなっている現実

現在、日本の各地、とりわけ地方ではJRを中心に深刻な鉄道の赤字路線が増加し、維持が困難だと思われる路線が次々とクローズアップされている。

その代替手段がバスへの転換だが、社員の労働時間の規制が強化される「2024年問題」の前からこれだけ人手不足による運休や廃止が続くと、いずれ鉄道も消え、代わりのバス路線でさえ維持できないという、「移動の空白地帯」が各地に生まれてくることが予想される。

筆者は、勤務先である千葉県の大学へ通うために、2022年秋に開業した「バスターミナル東京八重洲」をほぼ毎日利用している。5分おきくらいに次々と発着する高速バスを見ていると、その隆盛ぶりが際立って感じられ、全国的な運休・廃止の傾向を直接、読み取ることはできない。


バスターミナル東京八重洲の時刻表。5〜10分間隔で運行している(筆者撮影)

しかし、実際のところ、東京駅のバス乗り場を見ているだけでは気づかない事態が進行しているのだ。2023年の廃止路線をリストアップしていくと、そのことを改めて思い知らされる。

明るいニュースもあるけれど…

もちろん、暗いニュースばかりではない。2024年3月に予定されている北陸新幹線の敦賀延伸により、名古屋・大阪と福井・金沢の間は、鉄道の場合、敦賀で在来線特急と新幹線を乗り継がなくてはならなくなるが、JRによる北陸道ハイウェイバス(名古屋〜福井線)を現在の8往復から、12月には10往復に増便する。

まだまだ、こうした「攻めの経営」が見られることに少し胸を撫でおろしたくなるが、担い手不足が解消されない限り、こうした縮小傾向は続くであろう。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

同じく運転手不足に悩むタクシー業界では、地方を中心にライドシェアの解禁などの施策が検討されているが、地域の足の担い手であるバスの運転手をどう確保するかは、一事業者だけでは解決できそうもなく、より広い事業体や自治体、国などによる総合的な対策が必要となってきている。

根本的な解決法に着手しなくては、ごく限られた黒字の路線以外、国内から公共交通機関が消えていきかねないのだから。

(佐滝 剛弘 : 城西国際大学教授)