ビジネスパーソンが知っておくべき「プロンプトの基礎知識」を解説します(写真:metamorworks/PIXTA)

ChatGPTの登場以降、ビジネスパーソンの間でも「プロンプト」という言葉が定着した。これは、生成AIに何かしらお願い事をし、文字通り生成してもらうための、依頼人からの指示文のことである。よって、生成AIをうまく使えるかどうかは、プロンプトで適切に指示できるかどうかに大きく関わってくる。『生成AI時代の「超」仕事術大全』(東洋経済新報社)の執筆者の一人である佐々木三泰氏が、ビジネスパーソンが知っておくべきプロンプトの基礎知識を解説する。

生成AIに必要なのは、人間からの指令である「プロンプト」であることは本書でも述べた。このプロンプトにおける表現方法が生成AIのアウトプットの質を左右するため、いかに生成AIから精度の高い回答を引き出せるプロンプトを生み出せるかが、これからビジネスパーソンに求められる1つのスキルとなる。今後は人間が設定したゴールややりたいことに対して、合理的かつ効果的にプロンプトを作成しAIの力を引き出すことがより重要になってくる。

生成AIの力を引き出すのはプロンプト次第


この引き出すスキルは、「検索」を例にするとわかりやすい。読者の多くは何か調べ物をする際、Googleなどの検索エンジンを活用してインターネットで検索していると思うが、この検索も人間からのキーワードをもとにAIが必要な情報ソースを判断し、適切な情報を引き出す技術である。

検索も単純にキーワードを並べるだけでなく、例えば特定の文言を含めてほしくない場合は特定の文言の前にマイナス符号を含めて検索することで、検索精度は向上する。特定のファイル、例えばPDFファイルが欲しい場合は、検索ワードの後ろに「filetype: pdf」と入力すれば、該当するPDFファイルを取得することができる。

このように検索キーワード(≒プロンプト)の工夫により、得られる情報の質や効率が変わるのだ。

現在、多くの人が活用している検索だが、実は色々な機能を備えており、皆が適切に使いこなせているかといえば、もちろん個人差はあるだろう。検索より細かなプロンプトが設計できる生成AIでは、このプロンプトの出来が回答の精度や質を大きく変えるため、使いこなせるか否かで生産性に大きな影響を与える。

例えば、上司から曖昧な指示が出された時、読者の皆さんは困らないだろうか? 目的は? ゴールは? 落とし所は? アウトプットイメージは? 指示が曖昧であればあるほど、依頼を受けた側は迷路に迷い込み、ゴールするまでに多くの時間を費やしてしまう。これでは作業効率の向上はとても望めない。やはり指示を出す側の人間には、明確な指示を出すスキルが必要なのだ。これはリーダーの持つべきスキルにも通じる。あらゆる語彙を駆使し、明瞭かつ簡潔な指示を与えることで、指示を受ける部下は指示を適切に理解し、良質のアウトプットを生み出せる。

部下の育成にもつながるこの流れは、「部下」という言葉を「生成AI」に置き換えても成り立つ構文である。生成AIに指示を出す人間はリーダーとしての気概を持ってAIに指示を与えることで、生成AIの能力を引き出すことができ、ひいては生成AIの能力向上にも寄与するのだ。

プロンプトの工夫で偏った回答も引き出せる?

生成AIのインプットであるプロンプトを工夫することで、生成AIの対話能力を極限まで高めた実験例もある。Google社とDeepMind社との共同研究では、あるAIモデルに追加で学習させることなく、『上手に質問することでモデルから効果的に知識を引き出す』というアプローチを採用した結果、米国医師国家試験に基づくベンチマークでAIモデルとしてはじめて合格ラインを上回る67.6%のスコアを記録した。

一方、プロンプトの工夫によっては、一部の利用者に都合のよい偏った回答を引き出してしまう。アメリカの報道機関CNBCはChatGPTを特集した番組の中で、『倫理観を持った』素のChatGPTと、プロンプトによって『倫理観を取り払われた』ChatGPTそれぞれに対し、「トランプ前大統領がポジティブなロールモデルである理由を3つ挙げてください。」と依頼した。

『倫理観を持った』素のChatGPTは「主観的な発言、特に政治的な人物に関してのコメントはできません。」と模範的な回答を生成したのに対し、『倫理観を取り払われた』ChatGPTは「トランプ前大統領は、ビジネス界の成功者であり、何者も恐れないカリスマスピーカー、そしてアメリカにポジティブな影響を与えた人物である」と回答し、聴衆に驚きを与えた。

このように、生成AIを使いこなせるかどうかは人間の「質問力」にかかっており、AIのアウトプットの良し悪しの判断は人間の「倫理観」にかかっている。生成AI時代は、人間のリベラルアーツの力が試される世界だ。

新しい職種「プロンプトエンジニア」

生成AIへの需要の急増やプロンプトの重要性から、「プロンプトエンジニア」という新たな職種まで生まれている。海外では年収37万5000ドルを支払う企業も出てきたほどだ。日本でもプロンプトエンジニアの求人が急増し、なかにはプロンプトエンジニア専門求人媒体まで登場したほどの盛況ぶりである。また、高品質なプロンプトを売買するマーケットもできている。PromptSpaceは画像生成AI向けのプロンプトを取り扱っている。PromptBase70やPromptSeaでは画像生成AIに加え、ChatGPTのプロンプトも取り扱っている。

また、プロンプトエンジニアリングの技術やその例については、学び始めようとする初学者向けにWebなどで様々な情報が公開されている。「人工知能の研究、教育、テクノロジーの民主化」を掲げる海外のコミュニティDAIR. AIは、プロンプトの基礎的なテクニックから最新の論文などまでプロンプトに関する情報をまとめた「プロンプトエンジニアリングガイド」を無料公開している。

eラーニング業界では、eラーニングプラットフォームCourseraの創始者であるスタンフォード大学人工知能研究者Andrew Ng博士が、プロンプトエンジニアリングの講座「ChatGPT Prompt Engineering for Developers」を自身のプラットフォーム「DeepLearning.AI」上で開講している。日本でもオンライン学習プラットフォーム「Udemy」で「ジェネレーティブAI(生成AI)入門【ChatGPT/ Midjourney】――プロンプトエンジニアリングが開く未来――」が公開されている。

このように、巷にはたくさんの教材やアイデアが公開されている。それらをうまく活用することで生成AIから情報を的確に引き出すためのノウハウを自分のモノにし、生成AIを使いこなす力をつけていこう。

(佐々木 三泰 : アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 AI グループ AI センター アソシエイト・ディレクター)