2022年11月にエジプトで開催されたCOP27での技術的対話の様子(写真提供:IGES)

国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(以下、COP28)が11月30日からアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催される。

2021年のCOP26(イギリス・グラスゴー)では気温目標の強化で合意が見られ、2022年のCOP27(エジプト・シャルム・エル・シェイク)では、「損失と損害」(ロス&ダメージ)に関する基金の設立で合意にこぎ着けるといった成果があった。これらに対して、今回のCOP28で期待される成果は何か。

2015年、各国は世界の平均気温上昇を2度未満または1.5度に抑え、気候変動に適応する能力を強化し、温室効果ガスの排出が少ない開発に資金を振り向けることで合意した。

この目標達成に向けた世界全体の進捗を5年ごとに評価する仕組みがグローバル・ストックテイク(以下、GST)である(IGESによる日本語の解説サイトはこちら)。

ストックテイクには「棚卸し」や「在庫確認」という意味があり、GSTはまさにパリ協定に基づく実施状況を世界全体で確認するものだ。各国政府はGSTの成果を活用して削減目標を引き上げることが求められる。

COP28では初めてのGSTが実施される。各国が現在掲げている削減目標を合わせても気温上昇を1.5度に抑えるには不十分であることがわかっている。そのため、気候変動対策の強化につながるGSTの成果が出せるかに注目が集まっており、これがCOP28の成功を左右するという点で議長国UAEにかかる期待は大きい。

パリ協定の一翼を担うGST

パリ協定の下、各国は温室効果ガスの削減目標を設定し、国連に報告する。日本は2030年度までに2013年度比で46%の削減を目指している。

さらに各国は、自らの削減目標を達成するために実施した取り組みおよびその進捗を国連に報告する。GSTの目的はこれらの報告や科学的情報に基づき世界の進捗評価を行い、各国が削減目標を更新・強化するために必要な情報を提供することだ(IGESによるグローバル・ストックテイクに関するウェビナーはこちら)。

実効性のあるGSTの成果とは、GSTの評価結果をもとに各国が削減目標を実際に引き上げることである。ただし、限界もある。GSTでの評価は世界全体を対象として行われているため、対策が遅れている国を特定したり非難したりしないという制約がある。それゆえ、各国が決める削減目標値引き上げに対する強制力がない。

とはいえ、GSTの意義は大きい。

第1回GSTのプロセスは2021年のCOP26に始まり、約1年半で評価に必要な情報を収集し、その情報に基づいて進捗状況が検討されてきた。GSTには評価の基準値や目標、専門の審査官は定められておらず、「技術的対話」というユニークな手法が採用されている。

筆者も3度の技術的対話に参加した。政府関係者、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書の執筆者、国連機関、研究機関、民間企業、そして非政府組織(NGO)の専門家らが集まり、議論が行われた。


このように異なるグループが一堂に会し議論する機会は、パリ協定の枠組みの中では限られている。科学的な知見を深めると同時に、実際に気候変動対策を実施している現場の声が提供され、各国の交渉官が真剣に耳を傾ける姿が印象的であった。

最新報告書は「さらなる対策の必要性」を指摘

技術的対話における議論のポイントは大きく2つに分けられる。まずは一般的な進捗評価のイメージに近い、過去の進捗や課題に関する検討である。次に、これらの課題を克服するための対策や将来に向けた対策の機会を特定していくというものである。

今年9月に公表されたこれまでの議論をまとめた報告書は、「気候変動対策に一定の進展はあるが、さらなる対策が必要である」と指摘し、社会の仕組みを根本的に変え、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する必要があるとしている(日本語での解説資料はこちら)。

温室効果ガスの排出状況については、各国の削減目標値を合わせてもパリ協定の気温目標の達成にはほど遠く、目標を達成するための政策や対策も不十分であることが再確認された。一方で、大幅な削減を可能にする費用対効果の高い対策はすべてのセクターに存在するとされる。

社会の仕組みを変えていくためには、再生可能エネルギーの拡大や化石燃料の段階的廃止を迅速に進めることが不可欠であり、同時に大気汚染対策や雇用対策との相乗効果を狙った取り組みが有効であるとされる。

気候変動への「適応策」については、適応策を進めるための計画作りに進展はあるものの、計画の実行は遅れていることが再確認された。地域の実情に沿った対策を速やかに進めるとともに、そのための資金支援の規模を拡大する必要があるとされる。

報告書に含まれるこうしたポイントは、実のところ、決して新しい知見ではない。

重要なのは、報告書の内容は各国の交渉官や専門家の間で協議されたものであるということ、そして、COP28で各国が報告書の内容に基づきGSTの成果文書を作成し、合意する必要があるということだ。

GSTの成功は、各国が評価結果をどの程度受け入れ、今後の気候変動対策を後押しする強いメッセージと政治的意思を発信できるかにかかっている。

削減目標の引き上げにつながる成果とはどのようなものだろうか。

今年3月に公表されたIPCCの報告書は、「この10年で実施される選択と行動は現在そして数千年にもわたって影響を及ぼすだろう」と指摘する。GSTの成果は、この10年において誰がどのような気候変動対策をどのように実施すべきかを示すロードマップとして、今後の行動の指針を提供し、実際の行動を促すものになることが望ましい。

鮮明化する各国の意見の隔たり

しかし成果の内容をめぐっては、各国の意見の隔たりがすでに明確になっており、COP28での交渉は困難を極めることが予想される。

GSTの目的は、各国が削減目標を更新し、強化するために必要な情報を提供することである。したがって、目標更新のための推奨事項や具体的な対策案が示される必要がある。

2022年3月の国連の報告によると、すべてのセクターと温室効果ガスを排出削減の対象に含めているのは193カ国中115カ国(60%)にすぎず、特定の基準年からの絶対的排出量削減を目指す国は69カ国(36%)だけである。

日本を含むすべてのセクターと温室効果ガスを対象とした絶対的排出量目標を掲げる国々は、他の国に対しても同様の削減目標を立てることを促し、より明確な削減目標の策定と、即時の排出削減につなげていきたい意向だ。

他方、そもそも削減目標は各国が自国の事情を考慮して定めるものであり、これに対して何かを推奨したり、ガイダンスを与えたりすべきではないという根強い反発もある。

GSTの評価は世界全体を対象としているので、個々の国に直接ガイダンスを与えることはできない。しかし、セクターごとに具体的な対策を提示することができれば、各国の判断で対策を採用し、実施することができる。

複数の国からは、再生可能エネルギー容量の3倍増やエネルギー効率の改善率の倍増といった、セクターにおける世界全体での目標を設定すべきといった提案も出ている。

一方で、特定のセクターに焦点を当てた議論を受け入れない立場を示す国や、数値目標の設定に難色を示す国もあり、目標が設定されるかどうか見通しは立っていない。

また、石炭火力発電については、COP26で合意された「排出削減対策が講じられていない石炭火力発電の段階的削減」という文言を「段階的廃止」に強める提案がある。

さらに、対策が講じられていない化石燃料を段階的に廃止する提案も出されているが、どちらも十分な議論はなされていない。

昨年のCOP27ではまったく進展が見られなかったエネルギー部門における取り組み強化について、COP28で一歩踏み込んだ合意がなされるのかは不透明である。

見えぬ議長国UAEのリーダーシップ

COP28議長国のUAEには各国の意見の隔たりを埋めるための打開策を示すことが求められるが、現時点ではリーダーシップを十分に発揮しているとは言いがたい。

過去2年のCOP議長国であるイギリスとエジプトと比較すると、UAEの置かれている状況は少し異なる。

冒頭で述べたように、2021年にイギリスのグラスゴーで開催されたCOP26では、平均気温上昇を2度以下に保つというパリ協定の気温目標が事実上1.5度に強化された。また、排出削減対策を講じていない石炭火力発電の段階的削減と非効率的な化石燃料補助金の段階的廃止に対する取り組みを加速することが合意された。

2022年にエジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されたCOP27では、気候変動の影響による「損失と損害」に対応するための基金を新たに設立するという歴史的な合意に至った。

こうした成果はあらかじめ交渉することが決められていたトピックではなく、英国とエジプトが議長国の権限で合意までこぎ着けたものだ。これに対してCOP28でGSTの成果を出さなければならないことはすでに決まっており、UAEにかかるプレッシャーは重い。

しかしUAEが示すCOP28の計画からは、交渉の合意点を見いだすための具体的な打開策や解決策は見えてこない。

UAEはCOP期間中に健康や農業などをテーマとした日替わりイベントを開催する予定で、交渉ではなく、こうした自国のイニシアティブに力を注いでいるように見える。このようなイニシアティブ重視の姿勢は、COPの交渉で成果が出なかった場合の批判を回避する手段とも捉えられかねない。

議長国のUAEには、今一度交渉に注力し、難航するであろう論点を整理し、具体的な解決策を提案することが期待される。

目標達成に向け、政治的意思を示せるか

COP28の開催まであと10日ほどとなり、合意形成に向け活用できる時間は限られている。

GSTはパリ協定で合意した目指すべき姿に向かうための「軌道修正の機会」と言われることがある。第2回GSTは2028年に実施されるため、今回のこの機会を逃すと気候変動対策の強化を5年先送りすることになる。

対策強化に資する成果を出せるか、議長国UAEのリーダーシップと各国の本気度が試されている。

(津久井あきび : 公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)フェロー)