ジャパンモビリティショー2023で発表されたカワサキモータースのメグロS1(筆者撮影)

カワサキモータース(以下、カワサキ)が国内導入を発表した新型2機種「メグロS1(MEGURO S1)」と「W230」は、まさに「昭和レトロ」という言葉がぴったりの軽二輪モデルだ。

クラシカルなスタイルが魅力的な2モデル


レトロなスタイリングが特徴のメグロS1(写真:カワサキモータース)

エンジンなどを共有する兄弟車である2機種は、レトロなスタイルなどで近年世界的に人気の「ネオクラシック」というジャンルに属する。いずれも、昭和の時代に活躍した「メグロ」や「650-W1」といった名車たちの車名を継承。スタイルはもちろん、装備なども当時のスポーツバイクを感じさせる雰囲気が満点だ。

とくに搭載する230ccのSOHC単気筒エンジンは、かつてのオートバイでは当たり前だった空冷。きびしい排ガス規制の影響で、今では採用例が少なくなった冷却方式を継承する。しかも、かつてのオートバイで魅力のひとつだった美しい冷却フィンも装備。ほかにも、スポークタイプのホイールや丸目1灯ヘッドライトなど、細部にわたりクラシカルな雰囲気を追求している。

そんなカワサキの新型2機種を「ジャパンモビリティショー2023(2023年10月28日〜11月5日、東京ビッグサイト)」で実際に見てきたので、これらモデルたちの背景にある歴史や、主な特徴などを紹介しよう。

まずは、これら新型2機種の源流を紐解いてみよう。車名にある「メグロ」と「W」は、2023年で、モーターサイクル事業参入70周年を迎えるカワサキの歴史上で、非常に重要なモデルの車名からきている。

まず、メグロとは、かつて存在した2輪車メーカー「目黒製作所」のブランド名だ。1924年に創業した目黒製作所は、第2次世界大戦前から戦後直後にかけて、数多くの高性能モデルをリリースし、一斉を風靡した企業だ。とくに500ccや650ccなどの大排気量モデルに定評があった。ところが、1950年代後半以降、小排気量モデルの人気が高まったことなどに対応できず、業績が悪化。1964年にはカワサキ(当時の川崎航空機工業)に吸収合併されてしまった。


1964年モデルのカワサキ250メグロSG(筆者撮影)

そして、今回発表されたメグロS1は、合併後の1964年に発売された「250メグロSG」をオマージュしたバイク。カワサキも、このモデルを「正統な後継車」と発表しているため、まさに昭和のモデルを復刻させた最新のオートバイがメグロS1だといえる。

メグロを源流に持つWシリーズ


メグロS1とともに披露されたW230(筆者撮影)

一方、W230は、カワサキが1966年に発売した前述の650-W1、通称「W1(ダブワン)」の車名を冠したモデルだ。624cc・並列2気筒、バーチカルツインの愛称を持つエンジンを搭載したこのモデルは、当時のバイクとしてはかなり高性能だったことで、世界的に大ヒットを記録。「大排気量の高性能モデル」という、のちに続くカワサキ製オートバイのイメージを生み出した名車だといえる。

そして、このW1は、同じく目黒製作所との合併後、1965年に発売した「500メグロK2」がベースだといわれている。つまり、メグロは、カワサキ「W伝説」誕生のきっかけとなったブランド名なのだ。しかも、2024年は、目黒製作所の創立100周年という記念すべき年。そして、これらの背景から生まれた新型が、メグロS1とW230というモデルなのだ。

ちなみに、カワサキは、従来、773cc・空冷2気筒エンジンを搭載する「メグロK3」と「W800」という大排気量の兄弟モデルを販売しており、新型2機種はそれらのシリーズに属する軽二輪タイプとなる。


「MEGURO」の車名ロゴが入ったタンク(筆者撮影)

そんなメグロS1の特徴は、元祖である250メグロSGを彷彿させるティアドロップ型の燃料タンクを採用していることだ。ブラック×クロームメッキのカラーや、両サイドに装備した「MEGURO」の車名ロゴも、オリジナルにかなり近い雰囲気を演出する。


メグロS1のマフラー(筆者撮影)

また、水平に伸びるマフラーには、サイレンサー(消音器)部分が太く、先が細くなったキャプトンタイプを採用。ネオクラシックモデルでは定番の装備だ。ほかにも、前後ホイールにはスポークタイプ、アップライトなバーハンドル、カタカナの「メグロ」ロゴが入ったサイドカバーなどにより、全体的にレトロな雰囲気を演出している。


ディスクタイプとなったブレーキ(筆者撮影)

一方、前後ブレーキは、元祖がドラム式だったのに対し、新型はディスクタイプを装備することで、より安定した制動力を実現。シートは、もともとライダー側とタンデム側が分かれたセパレート式だったのを一体型に変更し、より乗員の自由度を向上させている。

ほかにも、丸目1灯のヘッドライトには、おそらくLEDタイプを採用していると思われる。エンジンの出力や価格なども含め、詳細は未発表だが、最新の装備により、レトロなスタイルながら、高い安全性や快適性、利便性などを併せ持っていることが予想できる。

往年の名車の雰囲気を色濃く残したW230


W230のリアビュー(筆者撮影)

W230にも、ティアドロップ型の燃料タンクや前後スポークホイール、丸目1灯ヘッドライトなどを採用。スチール製のフロントフェンダーなどもレトロ感が満点だ。メーターが2連タイプとなっている点もメグロS1と同様。前後ディスクブレーキなど、要所要所に最新の装備を持つことも同じだ。


「W」の文字が入ったタンク(筆者撮影)

ただし、全体的な雰囲気は、メグロS1とやや異なる。例えば、燃料タンクには、「W」のロゴを配しており、ブランドの違いをアピール。車体色には、ホワイトを基調にブラックの差し色を入れることで、スタイリッシュな雰囲気も醸し出す。こちらは、女性ライダーにも人気が出そうな色使いだ。

ちなみに、女性ライダーに人気が高かったカワサキ製オートバイには、かつて「エストレヤ」というモデルがあった。1992年から2017年まで販売された軽二輪モデルで、エンジンには250cc・単気筒を搭載。スタイルは、やはり昔のメグロを想起させるレトロな感じで、扱いやすいエンジン特性や良好な足着き性などにより、女性はもちろん、幅広い層に根強い人気を誇ったロングセラーモデルだった。


W230のエンジン(筆者撮影)

個人的には、W230は、そうしたエストレヤが持っていた雰囲気を継承している気がする。なお、こちらも、エンジン出力や価格などの詳細は未発表。カワサキでは、これら2機種について、国内導入することは認めているが、そのほかの情報については「準備が整い次第改めて案内する」としている。

注目のネオクラシック軽二輪の行方


メグロS1のリアビュー(筆者撮影)

メグロS1やW230のライバル車は、カワサキの担当者いわく「ホンダのGB350あたり」だという。2021年に発売されたこのモデルも、エンジンに空冷の単気筒を採用。レトロな雰囲気や扱いやすい乗り味などが人気で、発売以来、大きな人気を誇っている。だが、GB350のエンジン排気量は348cc。普通二輪免許で乗ることができるのは、カワサキの新型2機種と同様だが、こちらは車検が必要なのに対し、メグロS1やW230は車検不要だ。


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そう考えると、より維持費を安くできるのは、カワサキの新型2機種のほうだ。おそらく、カワサキでは、近年増加傾向にある普通二輪免許を取得する若いライダーたちも、メインターゲットのひとつにしているのだろう。前述のとおり、価格は未発表だが、GB350の価格(税込み)はスタンダードで56万1000円、上級モデルのGB350Sで60万5000円だから、メグロS1やW230は、これらに近いか、よりリーズナブルな価格設定になるかもしれない。

いずれにしろ、前述のとおり、近年人気が高いネオクラシックモデルだけに、大きな注目度を集めていることはたしか。カワサキの新しい軽二輪モデルが、市場からどのような反応を受けるのかが、今後注目だ。

(平塚 直樹 : ライター&エディター)