スムージーは冷凍ケースに陳列。客が購入後、専用マシンを使って自ら最終調理する(写真:セブンーイレブン・ジャパン)

セブン-イレブン・ジャパンがスムージーの展開に本腰を入れる。

スムージーとは、野菜や果物などの具材などを砕いて混ぜたコールドドリンク。セブンはスムージー専用マシンを全国約2万1000店舗のうち、10月時点で約1万3800店に設置した。最終実験を行っていた昨年末時点では約1000店程度であり、急ピッチで導入を進めている。

開発開始から8年、満を持して本格展開

スムージーの開発が始まったのは、さかのぼること8年前の2015年。「セブンカフェ」の本格展開が始まった2年後にあたる。商品本部には「コーヒーに次ぐヒット商品」が求められていた。

当時、店舗数の拡大が続いていたコンビニだが、社会的な高まりを見せる消費者の健康志向に十分に応えられていないという問題意識があった。スムージーの開発は、「『コンビニ=不健康』というイメージを払拭したい」という担当者の思いがきっかけだった。

コーヒーと同様、出来合いの商品ではなく、店内のマシンで仕上げた商品を提供するようにした。また店舗側の負担が少なくすむよう、材料の入ったカップを客が購入し、レジ横のマシンで自動撹拌する「セルフ式」を取り入れた。しかし材料がチルド(冷蔵温度帯)では摩擦熱で味が落ちてしまうし、冷凍すればマシンの刃(ブレード)がかけてしまう。

セブンカフェのマシンを提供する富士電機と協力して何度も改良を重ね、セブン独自仕様のブレンダーマシンを開発。冷凍でも刃こぼれするリスクをなくすことに成功した。

材料にもこだわる。氷と野菜・果物類を一緒に混ぜてしまうと、氷が溶けて味が薄まってしまう。そこでピューレ状にした果物類やフレーバーを混ぜてキューブ状に凍らせることで、氷と一緒に砕いても味が薄まりにくくした。

そしてわらべや日洋ホールディングスなどセブンの既存の取引先が、フレーバーごとに4つのスムージー専用工場を新設。本格展開の準備が整った。

価格は税込み300円からと、コーヒーの110円(レギュラーサイズ)と比べるとやや値は張る。ただ、1杯約1000円で販売される一般的な専門店のスムージーと比べれば割安。商品開発本部の園田康清氏は「市場としてスムージーはまだまだ小さい。値頃感があって美味しければ、新しいマーケットは作れる」と語る。 

今夏に展開していた約1万店での販売数は、多い店で1日50杯ほどだったという。単純計算で店舗あたり1万5000円ほどの売り上げになる。今後店舗数拡大に伴い、日販の押し上げ効果が期待できそうだ。

競合もレジ横ドリンクを重視

コーヒー以外の「レジ横ドリンク」でいえば、セブンのスムージーはむしろ後発。競合のファミリーマートはコンビニコーヒー黎明期であった2013年から、ミルクベースのスイーツ飲料、「フラッペ」を提供する。


ファミマが今年から定番化したフラッペ。若い女性客中心に人気の飲食店とのコラボ商品だ(写真:ファミリーマート)

こちらも同じく顧客が半製品を購入し、マシンで最終調理を行うセルフ式。マシンや材料を刷新しつつ、今ではほぼ全店に広がり、10年間での累計販売数は約2.6億杯にのぼる(2023年7月末時点)。

2020年にはコロナ禍で販売を大きく落としたものの、それ以降は右肩上がりを続ける。2022年度には数量ベースで2019年度比17%増と、コロナ前を上回った。開発担当の岩井翔太郎氏は「他社と明確に差別化できる商材で、重点カテゴリーの一つでもある。看板商品に育てていきたい」と語る。

ローソンも複数店での実験を経て、2022年9月から関東圏中心に一部店舗で「マチカフェプラス」を開始している。マチカフェプラスは400円前後のスムージーを中心に、通常のローソンにはない高付加価値なドリンクを販売する事業だ。セブンやファミマと異なり、店員がバックヤードで生のバナナなどの食材をカット、ブレンダーで調理し、ホイップやソースでデコレーションも行う。

同社は約20年前から厨房併設型の店舗を増やしてきた。競合に比べオペレーションは複雑だが、既存の厨房設備をいかして、より顧客に「出来たて感」を訴求することで差別化する。


マチカフェプラスでは注文を受けてから調理する(記者撮影)

展開店舗はまだ20数店。2025年度までの販売店舗数の目標も500店と、規模やスピード感では競合に見劣りする。だが、毎月メニュー開発を行い、スムージーを中心に新商品を最低1品、多いときは2品以上投入するこだわりようだ。商品本部戦略担当の鷲頭裕子氏は「大規模化してから差別化するのは難しい。スタートの段階で他社にはない価値を磨いていくことが重要」と語る。

大手チェーンがスムージーやフラッペなど、レジ横ドリンクに改めて注力しているのには、コロナ禍の影響が大きい。

1つはキャッシュレス決済が急速に普及し、セルフレジの設置が進んできたことだ。レジ回りのオペレーションが簡素化したことで、店舗側に「余裕が生まれてきた」(ローソンの加盟店オーナー)。

他方でセルフレジの浸透が、接客が必要な揚げ物や中華まんなどのカウンターフードの販売にマイナスに働き、販売数の回復に苦心しているチェーンもある。冬場の利益を支えるおでんも、ここ数年の衛生意識の高まりで「急激に取り扱い店舗数が減った」(あるコンビニ本部)。これらファストフードは、コンビニが取り扱う商品の中でも粗利率が高い。レジ横ドリンクは、それらの伸び悩みを補填する役割としても期待される。

売れる時間帯もポイントだ。コンビニは一般的に朝と昼にピークタイムがあり、郊外であれば帰宅時間である夕方にも客数が増える。逆に言えば昼過ぎから夕方にかけては、日中でも客が少なくなる「アイドルタイム」。その分、伸びしろも大きい。

スムージーやフラッペは3社共通してこのアイドルタイムでの販売が好調だ。コロナ禍でテレワークが普及したことで、都心を中心にコンビニ大手の客数はまだコロナ前の水準を回復できていない。レジ横ドリンクは、客数改善策としても有望な商材といえる。

「健康」軸に習慣化を狙う

課題は冬の販売をどう伸ばすかだろう。

セブンは昨冬に行った1000店規模の実験で、「季節や地域を問わず、ある程度販売が見込める」と判断。今年はスムージーが全国に広がって以降、初めての“越冬”となる。

「健康」を前面に押し出すことで、他の健康軸の商品同様、習慣的に利用してくれる固定客の獲得を図る。11月には「明治ブルガリアヨーグルト」を材料に使用した新商品も投入する。セブンによれば、明治が看板商品であるブルガリアヨーグルトを原材料として供給するのは初めてだという。


セブンティーの販売を実験している都内の店舗(記者撮影)

ファミマも秋以降に過去の人気フレーバーのリニューアルを数量限定で販売したり、近年はアニメなどの外部コンテンツ、また有名飲食チェーンやメーカーとのコラボ商品を定期的に投入したりと、新商品で夏場以外の需要開拓を進めている。

コンビニではセルフ式コーヒーの登場以降、大きなイノベーションは生まれていない。そんな中、スムージーやフラッペが新たな客層を獲得するのか。ほかにもセブンは都内数店舗でセルフ式の紅茶「セブンティー」の販売を実験中だ。今後もコンビニのレジ横から目が離せない。

(冨永 望 : 東洋経済 記者)