ジャッキー・ケリー氏が電通アメリカスのCEOと電通インターナショナルのチーフクライアントオフィサーとしての役割を降りるという知らせが、カンヌライオンズ終了直後に飛び込んできて驚かされた。しかし、電通はこれに対しすぐに動きを見せ、ケリー氏の後任としてCEOにマイケル・コマシンスキ氏が就任したことを明らかにした。なお、ケリー氏は、チーフクライアントオフィサー兼最高業務責任者として古巣のIPGに復帰し、同社のフィリップ・クラコフスキー氏が退任すれば、最終的には同社初の女性CEOになる可能性があるとささやかれている。コマシンスキ氏は思慮深く、驚くほど謙虚なCEOだ。電通で8年働いたキャリアを持ち、電通のデータドリブンパフォーマンス部門であるマークル(Merkle)の成長と発展に多くの時間を費やしてきた。同氏の前の肩書きがグローバルCXM最高経営責任者だったのはそのためである。また、過去にはレイザーフィッシュ(Razorfish)やニールセン(Nielsen)での経験もある。自身の新しい役割に関して、コマシンスキ氏は「メディア、テック、データ、クリエイティブにおける電通の資産をいかに相互に活性化させ、同時にそれぞれの成長をできるだけ早く加速させるかに注力する」と語った。インタビューには読みやすさと文章量の関係から少し編集を加えてある。

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――マークルで過ごした時間、そしてLinkedIn(リンクトイン)にあるように、あなたが工学と哲学を専攻していることを考えると、それが新しい職務にどのように反映されるか?

私が適任者であることを願っている。それは時間が証明してくれるだろう。しかし、すべては(電通グループCEOの五十嵐博氏が)電通のビジョンとして発表したものから始まる。五十嵐氏は、「エージェンシーとコンサルタントのハイブリッドを目指す」と示している。我々は能力主導型企業を目指しており、その能力でクライアントへシームレスにサービスを提供できるようなオペレーティングモデルを開発していく。そして、市場のなかで急成長している部分に焦点を当てていく。それはテクノロジー、データ、分析を重視したビジネスなどだ。また、我々のビジネスのレガシーの部分に、できる限りこれらを注入していくつもりだ。マークルで約8年半、電通で7年半を過ごしてきたことで、私はこのビジネスを熟知している。私は2つの地域を担当し、グローバルな役割も担ってきた。加えて、マークルは定義上、伝統的な広告領域だけでなく、成長著しいデジタルメディアや、ダイナミックあるいはパフォーマンス志向のクリエイティブなど、かなり幅広い能力を備えている。

――電通アメリカスの現状をSWOT分析するとどうか?

我々がこの業界で最高の能力を有していると信じる理由はたくさんある。電通グループのメディアエージェンシーであるカラ(Carat)のようなブランドは、グローバルなスケールとリーチを必要とするグローバルな大手広告主にとって、いまでも非常に重要な存在だ。また、我々にはマークルがあり、データとアイデンティティのプラットフォームであるマーキュリー(Mercury)もある。さらに、世界最大かつ最高の独立系クリエイティブ制作会社であるTAGを買収したばかりだ。加えて、電通クリエイティヴ(Dentsu Creative)のビジネスは、統合とリブランディングから立ち直り、2023年、米州地域でもっとも好調なビジネスのひとつとなった。(中略)私が手にしているツールは実に素晴らしいと感じている。グループとして、それらのパフォーマンスをもう少し引き上げる必要がある。

――調達が厳しく監視されているとき、どうすればクライアントを満足させ続けることができるか?

我々は、いくつかの異なる方法でそれに取り組んでいる。ひとつは、1年半ほど前からグローバルデリバリーネットワークに本腰を入れ始めたことだ。これは、電通グループでの設立当初から私が担当しているプロジェクトで、オフショアとニアショアで人材センターを構築し、それらをよりよく連携させることで、クライアントプログラムにもっとも効率的なリソースを提供できるようにするものだ。コスト削減だけでなく、人材へのアクセスも重要だ。また、アジャイル性(機敏性)を重視し、ニーズのダイナミックな変化にも迅速に対応できるようにしている。我々はこの点に大きな重点を置いており、全世界で1万人近くがこのグループに属している。2つ目は、明らかに新しいもので、トレンドのAIだ。今後2〜3年のあいだに、あらゆるものに自動化の機会が訪れるだろう。私はいつも冗談めかして言っているが、クライアントは我々の効率性を自分たちの利益のために取り入れるのが本当に上手だ。だから、我々がより効率的になりさえすれば、クライアントのためにより多くの、よりよいマーケティング活動ができるようになるだろう。そして我々がそこから利益を得ることは間違いない。それはクライアントも同じだ。調達チームは、自分たちの利益になるような効率化のポケットを見つけるのが得意であり、それはよいことだ。3つ目は、クライアントを中心に、いかにチームを構築するかについてオペレーションを正しく行うことだ。ただ管理するために、さまざまな機能の上に多くの管理者を置くことをなくし、間接費を減らす。顧客中心のアカウントチームを増やし、管理するための間接費を減らすという手法は、本当の意味での解決だ。

――この業界が解決しなければならない最大の問題とは?

我々はいま、グループ間の差が以前よりも少なくなっている段階にいる。新興のAI技術によって、その点はある程度切り分けられるかもしれないが、それについて語るのは時期尚早だ。そうでなければ、誰もが何らかのAIプラットフォームをピッチの中心に据えるだろう。だから私はチームに、「いまほど勝ち負けの差が縮まったことはないということを思い出せ」と言っている。能力、ソリューション、コマーシャル、キャスティング、リレーションシップ管理など、多くのことに対応する準備を整えておかなければならない。何事においても失敗は許されない。我々が市場で置かれている状況を受け入れる一方で、集団のなかで差別化を図り、切り離せるものを探す必要がある。[原文:Dentsu Americas’ new CEO Michael Komasinski: AI could be a differentiator among holdcos]Michael Bürgi(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:島田涼平)