中小企業を中心にビジネスでの活用例が広がる一方、実態を知らない大人からは「かわいい子が踊ってる場所でしょ?」と、まだまだ軽視されがちなTikTok。しかし、マーケティングアナリストの原田曜平氏は「TikTokを知ることは、Z世代のことを知ることでもあるんです」と語ります(写真:本人提供)

マーケティングにおいて、今最も重要なワードのひとつと言える「Z世代」。しかし、彼らのことを深く知り、その心に訴えかけるコミュニケーションができている企業は、はたしてどれぐらいあるだろうか。

「さとり世代」「マイルドヤンキー」などの流行語を生み出したことで知られるマーケティングアナリストの原田曜平氏がこのたび、「Z世代に学ぶ超バズテク図鑑」を上梓。Z世代を深く理解する方法や、彼らと繋がる手段としての「TikTok」の魅力などを原田氏に伺った。

Z世代とゆとり世代はどう違う?

――そもそもの前提として、Z世代とはどんな人たちのことを指すのでしょうか?

厳密な定義はありませんが、一般的には90年代半ば以降に生まれた世代を指します。10代から20代中盤ぐらいまでですね。

――Z世代は上の世代、たとえば「ゆとり世代」などとは、どのように違うのでしょうか?

国土が小さく、民族的にも多様ではない日本の場合、世代による価値観の変化もグラデーションで、ちょっとずつ変わっていくものです。「一人っ子政策やめます」と言って、人口動向がガラッと変化し、価値観も急に変わる中国などの諸外国とは違うんですね。

そうした前提を踏まえたうえで、Z世代とゆとり世代の違いを説明すると、大きくふたつの特徴があります。

ひとつは彼らが幼い頃からスマートフォンに触れ、中高校生のうちからさまざまなSNSを駆使してきたデジタルネイティブであること。その結果、SNSとの向き合い方も違って、彼らにとってSNSは知らない人と知り合う場所であり、「発信して目立ったほうが得だよね」という感覚が心の奥底にあるんです。

一方で、ガラケーから入ったゆとり世代にとってmixiなどに代表されるSNSは、リアルな関係性の人と繋がる場所だった。そこではいじめも起こり、人間関係を陰湿にした。同じ携帯世代と言っても、その実態はかなり違うのです。


1977年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。2018年よりマーケティングアナリストとして活動。現在は芝浦工業大学教授も務める。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。近著に『寡欲都市TOKYO 若者の地方移住と新しい地方創生 』(角川新書)、『Z 世代 若者はなぜインスタ・TikTok にハマるのか? 』(光文社新書)、『アフターコロナのニュービジネス大全 新しい生活様式×世界15カ国の先進事例』(共著、ディズカバー・トゥエンティワン)などがある(写真:本人提供)

もうひとつの特徴は、Z世代が、少子高齢化による人手不足にともなって、その人材的な希少価値が高まってくるなかで育ってきた、という時代的な背景です。

ゆとり世代のときは生まれた時から「失われた20年」の中でずっと生きてきたわけですが、 Z世代の中には、アベノミクスの影響を受けている時期を肌身で感じた層も少なくない。バイトをするにしても人手不足感はすごく高まっていたし、全国的にコンビニバイトの時給が高まっていくとか、有効求人倍率が高まっていくのを見てきたんです。

僕は20年にわたって若者研究をしていますが、ゆとり世代が高校生だった頃に「最近クラスで流行っていることは?」と尋ねて、「友達のお父さんがリストラになった」と聞いたことがありました。ゆとり世代が過ごした時代は、それぐらい暗いものだったんですよ。

Z世代マーケティングが重要な理由

―― 一般的に、成熟した社会では物は売りにくくなるとされます。実際、「若者の○○離れ」といった表現はあちこちで聞きますが、一方でZ世代の購買意欲は上がってきているそうですね。

僕自身のキャリアとしては、「さとり世代」という言葉を作ったこともあり、広告会社在籍時はさまざまな企業から問い合わせがありました。そのご縁で今もさまざまな企業のお仕事をさせていただいています。

しかし、会社としては非常に苦しい時期だったと思います。購買意欲が強い上の世代を知る分、コントラストも大きかったんです。

ところが、Z世代から一気に潮目が変わった。ゆとり世代と違って、消費意欲が強くなってきたと感じています。

もちろん車など高額な買い物をするわけではないですが、SNSなどを駆使して、 賢く消費する傾向が見えます。たとえば高級ブランドを買うにしても、メルカリでリセール価格が高いものを選ぶ。買った値段の6割で売れるなら、実際のところはそんなにお金がかかっているわけじゃない。そういう感覚で消費するようになったりしているんです。

ただ現状、少なくない日本企業は、若者マーケティングを捨ててしまっており、結果として、韓国に多くの市場を独占されてしまっています。たとえば、ファストファッションやコスメなどはその最たる例ですよね。

――たしかに、人口比率で見れば中高年層に比べると少ないのは事実です。

ただ、SNSでの人口で考えるとZ世代は圧倒的に多く、また、拡散力もあるんです。SNSで情報を広めてもらうという観点では、彼らのことを知るのは非常に重要になっているといえます。

Z世代に好まれるコミュニケーションとは?

――そんなZ世代に向けて打たれ、実際に成功した施策を取り上げているのが本書(『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』)です。とは言え簡単にバズれるわけではなく、Z世代のインサイト(消費者自身も気づいていない無意識の心理のこと)を見抜くのが重要だと。たとえば重要な点として、Z世代は広告に対して、(上の世代以上に)嫌悪感を持っていると書かれています。

さまざまな要因がありますが、強く感じているのは「触れてきた広告が違うこと」です。

たとえば僕は現在45歳ですが、僕が若かった頃はテレビ広告がまだまだ主流で、テレビ業界も景気が良かったため、CM1本の平均制作費が4000万円程度ありました。今では2000万円程度になっていることを考えると、かけているお金が大きかったし、結果的に質が高いものも多かったんです。

ところが今、Z世代が主に触れているYouTubeやTikTokの広告はまさに玉石混淆で、ひどくうさんくさく、怪しげなものもある。その一方で触れる広告の数は桁違いに多くなっているため、比較的、質のいい広告しか触れられなかった世代とは、広告に対する温度感が大きく異なっているんです。

――また、Z世代特有の「否定しないコミュニケーション」なども、企業側は深く学ぶ必要があると訴えられています。

基本的には、Z世代は上の世代と比べて、穏やかになってるのは間違いないでしょう。背景にあるのは成熟社会で生きてきたことで、そこには「死ぬほど頑張って、人を傷つけて踏みつけて這い上がったとしても、得られるものがこれっぽっちなら、穏やかにのんびり生きたい」という、ギリシャの公務員的な感性がある。

しかし一方で、今までのクリエイター・マーケターは肉食で生きてきており、勝ち負けや競合商品との差別化を常に考えてきたわけです。言うなれば、「どれだけやんわりと、競合他社の商品よりも、うちの商品のほうがいいかを伝えるか」に命をかけてきた。

でも、そういうコミュニケーションはZ世代には受け入れられません。だからこそ、結婚する人だけでなく、独身でいる生き方を選択した人も肯定したゼクシィのCMが話題になるんです。

競争競争で生きてきた上の世代の人間には、すぐには理解しにくい感性だと思います。実際、この本を数年前まで在籍していた広告会社のクリエイターたちに見せたところ、その多くが衝撃で、膝から崩れ落ちてましたからね(笑)。

Z世代が愛する「TikTok」をビジネスに活用する方法

――ただ現実的な話、ビジネスの手法としてTikTokを取り入れるのは、多くの企業にとって簡単ではない印象です。これは私の友人の話なのですが、「若手がTikTokを活用したPR施策を始めようとしたが、中高年のおじさん社員が反対して頓挫した」と聞きました。理由は「TikTokで顔出しで出るなんて、まともな企業がやることではないし、少なくとも俺は出たくない」と。

おそらく、知らないからだと思います。実際、大手企業でTikTokをうまくやってるところって本当にないので、たぶんそういう「バカの壁」現象が起こっちゃってるんですよ。

しかし実際は、TikTokこそ素人が一番気軽に発信できる、最初のSNSと言っていいぐらいなんです。

――と言いますと?

他のSNSは結局、インフルエンサーとかフォロワーの多い人が見られるのですが、ランダムで表示されるTikTokは初期でもバズれる可能性があるんです。おそらく、バズる経験をまずさせるという、ある意味「下駄を履かせる」かのような運営側の方針もあるのでしょう。

そしてその結果、質の低い一般ユーザーの動画が多く、誰もが参加しやすい環境にある。その人のありのままを見せるのがTikTokなんです。

企業は今まで、インスタグラムでのブランディングや、テレビ広告で上質なイメージをつけることを一生懸命やってきたわけですが、一般ユーザーの投稿が多いTikiTokにおいて求められる発想は大きく違って、 「一般人の顔つきをどれだけ企業ができるか」という戦いの場所になっています。

そういう意味で言えば、チャンスがあるのは大企業。そもそも若い人たちからは「距離が遠い」と思われてるわけだから、そのギャップを崩せば効果も生まれやすい。それを理解して実践している企業は、まだまだ本当に少ないんですけどね。

――実際、最近では中年男性の専門家が、税金や法律、経済について短く解説する動画がよくバズっている印象です。

僕の時代は、「おじさんである」ってことだけで忌み嫌ってたんですよ。おじさんも高圧的な人が多かったし、 社会に反抗するのが若者の在り方であり、そういうのがクールなんだという価値観が少なからずあった。だから、おじさんであるだけで嫌いだった。


ところが、 今の学生たちはすごいフラットなんです。僕自身、芝浦工業大で教授をしてますけど、「おじさんだから」と最初から心を閉ざされることはありません。

さらに言えば、このフラットさは、外国製品についても見られる傾向でもあります。たとえばコスメで言うと、韓国コスメや中国コスメが人気なのは言うまでもなく、ここ1年で第三勢力としてタイコスメが流行しています。マツキヨは今やトレンドスポットなんです。

中高年世代の中には、今でも中国や韓国製品の製品に悪いイメージを持つ人が少なくないですが、若者たちはむしろ韓国の製品を日本製よりも良い商品だと思っています。そして、そういう偏見がなくなるのは、すごく素晴らしいことだと僕は思うんです。

――フラットな感性だからこそ、属性で判断せず、その人や物の本質的な部分を見極めていると。

フラットに世の中を見られるというZ世代の特徴は、実はTikTok上ですごく体現されているわけです。しかし、実態を知らない世の中のおじさんたちは「かわいい子が踊ってるんでしょ?」「そんな場所をビジネスに使うのは嫌だ」と言ってしまう。TikTokを知ることは、Z世代のことを知ることでもあるんです。

(岡本 拓 : 編集者・ライター)