アメリカのコネチカット州に本拠を置くエンジン開発企業・LiquidPistonの開発した次世代ロータリーエンジンを搭載したポータブル発電機が、現行のポータブル発電機のサイズの5分の1という小型化に成功し、アメリカ陸軍の中小企業技術革新制度を勝ち取りました。

LiquidPiston Announces Small Tactical Power Generator Development for U.S. Army | Business Wire

https://www.businesswire.com/news/home/20201215005194/en/LiquidPiston-Announces-Small-Tactical-Power-Generator-Development-for-U.S.-Army

LiquidPiston's "inside-out" rotary X-Engine wins Army research contract

https://newatlas.com/military/liquidpiston-rotary-x-engine-army-generator/

LiquidPistonの次世代ロータリーエンジン「X Engine」の構造を解説するムービーが以下。

LiquidPiston X-Mini 79cc SI engine animation 1 - YouTube

X Engineは角が丸みを帯びたおにぎりのような三角形のハウジングの中で……



まゆ型のローターが公転することで動力を得るというエンジン。従来のロータリーエンジンはハウジングがまゆ型、ローターが三角形であるため、ハウジングとローターの形状を取り換えたような構造です。



駆動時は角の空間に空気(青)を吸入し……



中央部のまゆ型ローターが公転することで空気を圧縮。



角の空間が最小になったタイミングで燃焼を行うことで空気を膨張させ、その圧力によって動力を得ます。



また、排気口はそれぞれの角の脇に繋げられています。



ハウジングの3つの角(ピンク・紫・緑)がそれぞれ燃焼室として機能します。角の丸み部分の大きさを調節して燃焼室のサイズを変更することで高圧縮駆動も可能とのこと。



LiquidPistonの共同創立者兼CEOのAlec Schkolnik氏は、X Engineはディーゼルエンジンの高圧縮比や直接噴射とオットーサイクルエンジンの定容燃焼サイクル、アトキンソンサイクルエンジンの高膨張比を全て組み合わせたようなもので、従来のロータリーエンジンの弱点だった潤滑とシーリングの問題も改善してサイズに依存しない強力なパワーと高効率を引き出すことが可能だと述べています。

LiquidPistonはM777 155mm榴弾砲のデジタル火器管制システムに電力を供給する小型発電機の大きさを、X Engineによって重量41ポンド(約18.6キログラム)&容量1.5立方フィート(28.3リットル)というゲーミングPC相当のサイズにまで引き下げ、従来品に比べて重量80%減、容積70%減という大幅なサイズダウンに成功し、アメリカ陸軍の2-5kW小型戦術発電機に関する中小企業技術革新制度契約を獲得しました。問題の小型発電機の実物が以下。



M777 155mm榴弾砲の前に置くとこんな感じ。



「自動車のエンジンにもX Engineが用いられるのでは」という疑問について、Schkolnik氏は「将来的に必ず自動車産業をターゲットにします」と明言。「GMを例に取ると、既知の技術に基づいた新型エンジンの開発にすら数億ドル(約数百億円)相当の開発費用が必要になっています。X Engineは熱力学サイクルやアーキテクチャなど全てを一新したエンジンなので、あえて最初は自動車産業向けに開発せず、ニッチなアプリケーションで性能を証明した後に自動車産業に参入したいと思っています」と自社の戦略について説明しました。

これまでLiquidPistonはデモンストレーションのために技術的な利点の証明を目的とした試作品ばかりを作っていたとして、2021年にはX Engineの耐久性の検証にも力を入れる予定です。Schkolnik氏は「X Engineが上手く機能すると明らかになってきたので、何時間駆動するかを調べたいと思っています。十時間から数十時間の耐久試験は行っていますが、数百時間の耐久試験はこれからです」と述べ、5〜10基の試作品で耐久試験を実施する予定だと語りました。