一部メディアがインドネシアと護衛艦輸出で交渉中と報じました。「くまの」と同型艦も候補とか。実現すれば国内の防衛産業にとって吉報ですが、一方でインドネシアには、こうした防衛装備品の交渉ごとにおいて要注意な経歴もあります。

護衛艦輸出へ向け交渉の相手はインドネシア…どんな海軍?

 時事通信と読売新聞は11月4日(水)に、日本政府とインドネシア政府が護衛艦の輸出に向けた話し合いを進めていると報じました。


R・E・マルタディナタ級フリゲート1番艦「R・E・マルタディナタ」。インドネシアは2隻をオランダから購入、技術移転を受け、4隻の国内建造を計画(画像:アメリカ海軍)。

 2014(平成26)年4月1日に条件付きで防衛装備品の輸出や共同開発を認める「防衛装備移転三原則」が政府方針として制定されて以降、日本は各国に向けて防衛装備品の輸出に向けた話し合いを進めてきました。しかし、国内開発された防衛装備品の輸出実績は、2020年8月に契約が締結された、フィリピンへの警戒管制レーダー4基の1件にとどまっています。

 冒頭に挙げたインドネシアと護衛艦の輸出に向けた話し合いが進められているという報道以降、ネット上では海上自衛隊が使用している護衛艦を輸出するのではないかとの見解も見受けられますが、ふたつの理由からその可能性は極めて低いと考えられます。

 ひとつめの理由は、防衛装備移転三原則において輸出できる防衛装備品が限定されていることにあります。防衛装備移転三原則では「救難」「輸送」「警戒」「監視」と、機雷を除去する「掃海」に使用する防衛装備品の輸出だけが認められており、護衛艦については「警戒」に使用するという理屈も成り立たないことはありませんが、海上自衛隊が使用している護衛艦をそのまま輸出するのは困難だと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。


インドネシア海軍のアフマド・ヤニ級フリゲート「カレル・サトゥイ・トゥブン」(画像:アメリカ海軍)。

 もうひとつの理由はインドネシア海軍の規模にあります。インドネシア海軍は2020年11月の時点で主要な水上戦闘艦として、オランダが開発したR・E・マルタディナタ級フリゲート(満載排水量2365トン)と、オランダ海軍の退役艦を購入して最就役させたアフマド・ヤニ級フリゲート(満載排水量2865トン)5隻を運用しています。

 日本とインドネシアは、艦齢50年以上に達するアフマド・ヤニ級の後継艦について話し合いをしているものと見られますが、同級と同程度の海上自衛隊護衛艦は艦齢が31年から27年に達するあぶくま型6隻しかなく、無償譲渡でなければインドネシアには導入するメリットがあまり無いといえます。

そもそも日本は護衛艦を輸出できるの? 「防衛装備移転三原則」などについて

 防衛装備移転三原則では、「救難」「輸送」「警戒」「監視」「掃海」以外の目的で使用する防衛装備品についても、条件付きながら共同開発と技術移転が認められています。

 読売新聞はインドネシアが護衛艦4隻を購入し、日本から技術移転を受けて4隻を国内で建造したいという希望を伝えたと報じていますが、この形であれば護衛艦の国外移転へのハードルは下がります。

 さらに、読売新聞は日本から輸出される護衛艦の候補として、11月19日(木)に2番艦「くまの」が進水した「30FFM」こと3900トン型護衛艦が含まれていると報じています。3900トン型護衛艦はUSV(無人水上艇)を使用する機雷の除去能力も備えており、砲やミサイルなどは搭載せず、機雷除去システムを搭載し「掃海」に使用する防衛装備品として輸出するという手法も考えられます。

 ただ3900トン型護衛艦は、既存の護衛艦に比べれば小型であるものの、基準排水量はその仮艦型名のとおり3900トンに達しており、インドネシア海軍にとってはやや大きすぎるのではないかという感があることは否めません。


「DSEI JAPAN 2019」に三菱重工業が出展した「FMF」の、哨戒艦型のコンセプトモデル(竹内 修撮影)。

 3900トン型護衛艦を開発した三菱重工業は、その原型となった将来型多用途フリゲート「FMF」をファミリー化する構想を持っており、2019年11月に幕張メッセで開催された防衛・セキュリティ総合イベント「DSEI JAPAN 2019」に、FMFを小型化した哨戒艦型のコンセプトモデルを出展しています。

 FMFの哨戒艦型は満載排水量1500トンから2000トンを想定しており、アフマド・ヤニ級フリゲートに比べれば小型ですが、3900トン型護衛艦と同様のステルス性能と多用途性を備える艦として構想されています。FMFは現時点では存在しておらず、インドネシアとの共同開発という形で国外移転の条件をクリアすることもできると思われます。

最大のハードルは…インドネシアとの交渉 メリットデメリット

 これまで述べてきたように、インドネシアへの護衛艦輸出について、防衛装備移転三原則と、インドネシア海軍の要求を充たす艦という条件についてはある程度クリアできると考えられます。しかし最大の問題は、これまで防衛装備品の輸出経験の少ない日本が、防衛装備品の導入で各国と何度か問題を起こしているインドネシアと、根気強く付き合い続けることができるのか、という点にあると筆者は思います。

 インドネシアは2010(平成22)年、韓国の新戦闘機「KF-X」の開発に参加し、開発費の20%を負担する代わりに韓国からKF-Xの試作機1機の譲渡と技術供与を受けて、国産戦闘機「IF-X」を開発する、といった内容の協定を韓国とのあいだに締結しています、しかしインドネシアからの韓国への開発費の払い込みは遅れており、その一方でインドネシア政府がフランスやアメリカ、オーストリアなどから戦闘機の導入交渉を行なっているとメディアが報じていることから、韓国の世論はインドネシアに対して厳しくなっています。

 また、インドネシアはロシアとのあいだで、Su-35戦闘機の導入交渉も行なっていましたが、交渉の途中でSu-35の代金の支払いを原油やコーヒー豆といった、インドネシアの主要産品での代物弁済とするよう、ロシア側に求めたとの話もあります。


2018年11月にジャカルタで開催された防衛・セキュリティ総合イベント「Indo Defence」で展示された「IF-X」の大型模型(竹内 修撮影)。

 そうした困った経歴がある一方で、インドネシアは中国と海洋権益で対立しており、インドネシアへ護衛艦を輸出することによって中国をけん制できる効果が期待できるほか、アメリカなどからの防衛装備品の輸入増によって厳しい状況に置かれている日本の防衛産業を、保護し育成するという面でも大きな効果が期待できます。

 ただでさえ経験不足の日本にとって、インドネシアへの護衛艦の輸出は容易なことではありませんが、インドネシアに限らず、島国の日本にとって生命線である海洋の自由航行という理念を共有できる国々への防衛装備品の輸出は国益にかなうものであると筆者は思いますし、将来の日本にとってはさらに重要な存在となる東南アジア諸国との絆を深めるという意味でも、しり込みせずに取り組んでほしいとも思います。

【動画】ちと大きい? 海自最新3900トン型護衛艦「くまの」