鈴鹿8耐ヤマハ連覇を阻みたいホンダ勢。スズキ、カワサキも虎視眈々
鈴鹿8時間耐久ロードレースが、39回目の夏を迎える。今年も、長い8時間の戦いのなかに、予想もしないいくつものドラマが待ち受けていることだろう。
勝負は無慈悲で、アクシデントは一瞬の隙を突いて、分け隔てなくあらゆるライダーとチームに襲いかかる。だからこそ、苛酷な灼熱の戦いを誰よりも速く走り切った者たちには最高の栄誉が与えられ、また、最後まで戦い抜き、あるいは志(こころざし)半ばに完走を果たせなかった陣営にも、温かい歓声が贈られる。
今年の優勝候補筆頭は、やはり昨年の覇者「ヤマハ・ファクトリー・レーシングチーム」だろう。ファクトリーチームとして復活した初年度に19年ぶりの優勝を達成した昨年のレースでは、中須賀克行、ポル・エスパルガロ、ブラッドリー・スミスというトリオで圧倒的な速さと高い安定感を発揮した。今年のライダーは、中須賀とエスパルガロに、SBK(世界スーパーバイク選手権)で「Yamaha Official WorldSBK Team」から参戦中のアレックス・ロウズが加わる。
2012年から全日本を4連覇し、今シーズンも連戦連勝中の中須賀と、MotoGPで現在ランキング6位につけるエスパルガロ、そしてMotoGPの技術思想を反映させたマシン・YZF-R1という組み合わせは、最強のコンビネーションといっていい。そこに加わるロウズは昨年、スズキ陣営から8耐に参戦して鈴鹿をすでに経験しており、今シーズンはSBKでYZF-R1を知悉(ちしつ)している。
彼らに対する期待は、8耐2連覇もさることながら、昨年のトップテントライアルでエスパルガロがマークした2分6秒000のポールポジション記録、そして、昨年秋の全日本で中須賀がそれを上回るタイムを記録した2分5秒192というスーパーラップを、今年さらに自分たち自身で塗り替えるかどうかにも大いに注目したい。
その連覇を阻むであろう最右翼候補は、「MuSASHi RT HARC-PRO.(ホンダ)」だ。彼らは2013年と2014年に8耐を連覇し、昨年も優勝を争った。今年はエースライダーの高橋巧と、8耐で2度の優勝経験を持つマイケル・ファン・デル・マーク、そして、2006年のMotoGPチャンピオンで今年からSBKにスイッチしたニッキー・ヘイデンが加わり、大きな期待が集まっている。このラインナップを見れば、優勝を狙える十分なポテンシャルに誰しも異論はないだろう。
ホンダ陣営では、2011年と2012年に連覇した「F.C.C. TSR Honda」も、優勝候補の一角を占める有力チームだ。今年の彼らは、5月のル・マン24時間で3位表彰台を獲得し、その後にもポルティマオ12時間耐久ロードレース(ポルトガル)を12位で完走している。両レースに参戦した渡辺一馬と、Moto2ライダーのドミニク・エガーター、WSS(ワールドスーパースポーツ)に参戦するパトリック・ジェイコブセンの3名を擁し、チームが高い総合力を存分に発揮すれば、4年ぶりの表彰台頂点奪取の可能性は高いだろう。
ほかにも、これらのチームに伍する強力な陣営に挙げられるのが、「ヨシムラスズキ・シェルアドバンス・レーシングチーム」と、「チームグリーン(カワサキ)」だ。ヨシムラはホンダ無敵艦隊を破って優勝を飾った第1回(1978年)の8耐から、"反骨精神の象徴"としてファンから強い支持を集めている。ライダーのラインアップはエースの津田拓也と、BSB(英国スーパーバイク選手権)王者で現在SBKに参戦中のジョシュ・ブルックス、そして8耐を知り尽くした芳賀紀行。
チームグリーンは、カワサキの代名詞的ベテランライダー柳川明と、全日本でも切れ味のよい走りを見せている若手選手の渡辺一樹。このコンビに、今年は8耐で2度(2013年・2014年)の優勝経験を持つレオン・ハスラムが加わった。新型ZX-10Rの戦闘力も高く、今、ファンの熱い思い入れと期待がもっとも高まっているのはこのチームかもしれない。
さらに、今年の8耐では「HondaブルーヘルメットMSC熊本&朝霞」「Honda緑陽会熊本レーシングwithくまモン」「日本郵便Honda熊本レーシング」の3チームにも注目したい。これらはいずれも、4月の熊本地震で被災したホンダ熊本製作所の従業員たちで構成されているチームだ。上記の優勝を争う各陣営とは実力面で大きな差があることは否めないものの、これら3チームが参戦する意義は大きく、彼らが真夏の8時間を走り切る姿は、復興に努力する人々を大いに勇気づけることだろう。
どんな映画や小説にも不可能な、人の気持ちを強く揺さぶる何かが、今年も7月の最終週末を彩る。30日(土)の15時30分からは予選上位10チームがトップテントライアルでグリッド位置を競い、31日(日)の11時30分、一瞬の静寂を破るル・マン式スタートとともに、8時間の激闘がスタートする。
西村章●取材・文 text by Nishimura Akira