『大正ガールズ エクスプレス』講談社/日下直子
高畠華宵や中原淳一が描く少女のような、よし子画伯による、おめめパッチリでおちょぼ口の可憐な乙女たちにうっとり。千世に頼まれて描いた歴代首相も、よし子の手にかかれば桜やぼたんをあしらった乙女チックなおじさまに大変身。2巻で描いた斬新な諷刺画も見ものです。「KC Kiss」で連載中

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『大正ガールズ エクスプレス』を知っていますか?

時は大正。女性が政治や経済に興味を持ち、男性の職業に口を出すなんてけしからんどころか、自由な恋愛も許されない時代のお話です。全寮制の高嶺女学院に通う、頭脳明晰で学内の人気者の美杉千世と、女学院の屋根裏でひっそりと生活する貧しい漁師の娘の田辺よし子。対照的な2人が出会うところから物語は展開します。
よし子が想い描くのは、「S(エス)」のような世界。「S」といえば、吉屋信子の>『花物語』でしょうか。少女(おとめ)が憧れの上級生に名前も告げずに花を贈ったり、同級生への想いを胸に秘めたまま嫁いでゆくなど、少女たちの淡く切ない恋心が描かれています。よし子も千世に対して「お姉さま」「鈴蘭さん」と呼びあって、詩の感想を言いあったりする妄想を抱くのです。
一方、千世が目指しているのは、よし子の絵で新聞の「諷刺漫画募集」欄に応募し、職業婦人として名を馳せること。親の決めた婚約者との結婚という卒業後の進路を変えるための、千世なりの考えです。

クールな千世を忠犬のごとく慕うよし子。2人のズレは、キュートなやり取りにもあらわれます。
よし子「一緒のお布団で寝てもいいですか?」
千世「ダメだ断る」
(よし子目を閉じる)
よし子「千世様! 発見です まぶたを閉じると 千世様のお姿が浮かびます」
千世「うるせぇ!! とっとと寝ろ!!」
千世が男だったら、完全にラブコメですよね。2人の夢見る世界は違いますが、自分の好きなように生きられない不自由さや友だちがいない寂しさを抱えているところは同じなのです。

今月11日に発売された2巻からは、千世の婚約者の蔵本卓磨も登場します。トロンとした瞳が愛らしい卓磨は、バラを愛する心優しい美少年。よし子の名前がなかなか覚えられなかったり、千世に「うすら馬鹿」と言われてもにこにこと笑っているとぼけた一面もありますが、人知れずよし子を助けてくれたところを見ると、ただのおバカさんじゃなさそう。美少年+ちょっとおバカ+実は切れ者(?)っていうキャラ設定、大好物です!
小鳥に話しかけたり、「ぼくは泳ぎが得意だと思うんですが……」と川に飛び込んで溺れてしまう。エキセントリックな卓磨の行動や、「乙女eye」が発動したよし子が『ガラスの仮面』風タッチに切り替わるところなどは、東村アキコ作品にも通じるかも。前作『ヤマありタニおり』で、折り紙という地味なテーマとギャグを融合させてハイテンションに仕立て上げた日下直子の手腕が、今作でも発揮されています。

忘れてはいけないのが、よし子の親友マリ子ちゃん。友達のいないよし子が作った、鞠と布でできたお友だちです。ちょっと恥ずかしがりやで聞き上手、誰もが話しかけたくなってしまう(腹話術で)彼女は、女学院の厳しい院長先生の茶飲み友だちにまでなってしまいます。ある時はカフェーの女給に、またある時は貫一とお宮に扮してストーリーの補足や大正時代のワードを解説してくれたりと、狂言回し的な役割をしています。

性格も見た目も正反対の少女が出会って友達に……。「まあ、設定はベタよね」とタカをくくっていたら、『ときめきトゥナイト』や『ルナティック雑技団』を熱心に読んでいた小中学生の頃に引き戻されてました。長いこと閉じていた乙女eyeが発動してしまったようです。みなさまもお気をつけあそばせ。(畑菜穂子)